俺の名前はメリー。
 この体が一番合ってるといえるほど、自由に生きている。

 ここは魔界。
 血塗られたような空にひび割れた地面。
 死を呼ぶ風が気持ちよく吹く。
 稀に苦痛に歪む悲鳴や、壊れた高らかな笑い声が聞こえる平和な世界だ。

「なぁ、メリー。今日は何人騙したんだよ。」

「一人。」

 俺は、適当に答える。

「少ねぇなぁ~。それでも悪魔かよ。」

「これでも悪魔だよ。」

「張り合いがねぇなぁ~。」

「それが俺の取り柄だろ?」

「だな。」

 目の前の悪魔は、高らかに笑いながらそう答える。

 こいつは、俺と同じく下級悪魔の仲間だ。
 霧のようなぼんやりとした影の姿をした悪魔。
 形の定まらない姿も下級悪魔らしい。

 対照的に、俺は下級悪魔らしからぬ姿をしている。
 漆黒の黒い短髪に闇を閉じ込めたような瞳、ヤギの角と下半身をしている。

 悪魔同士の仲の良さは、結局は馴れ合いでしかない。

 優しさなどないこの世界で、悪魔としての格である等級が仲間である証となる。

「見てみろよ。この首輪。」

「それなんだよ。」

「かっこいいだろ。」

 奴が手に持っているのは、白い粒状のものが連なっている首飾りのようなものだ。

「こいつは、今回の人間を騙して手にした歯だよ。綺麗だろ~。」

「はいはい、そうですね。」

 横目でちらりと見る程度で、おさめる。

「興味なしかよ。」

「ねぇ~な。」

「じゃあ、お前の歯をくれよ。」

「なんでだよ。」

「俺たちよりお前のほうが綺麗そうだから?まぁ、いくら抜いたところで、死なねぇんだからいいだろ?」

「よくねぇよ。」

「ちぇ…。」

 奴はいじけてどこかに行く。

 遠くから走って何かがやってくる。

 黒い影が目の前に現る。

「今日もお前はやる気は無しか?」

「ねぇよ。」

 現れたのは、黒い服装に身を包んだ少し位の高い元下級悪魔だ。
 ボサボサの緑の髪の毛に無駄に歪んだ目をしている。
 俺が悪魔として生まれた時からよくそばにいる変な奴だ。

「仕事をやるから、これ行ってこねぇか?」

「もう、今日の分は終わったからパス。」

「殺すよ。」

 殺気立って俺を脅そうとする。

「好きにしな。」

 それを軽くいなす。

「ほんっと、お前って張り合いがねぇなぁ~。」

「それが俺のいいところだろ?」

「間違いねぇや。」

 目の前のこいつは、自然な手つきで、俺の髪をぐしゃぐしゃになるようにかき乱す。

「はぁ…。」

 俺は溜息を吐き、その場に寝転がる。

「なんだよ。お疲れですかい。」

「ああ、お前の相手をしてたら疲れたよ。」

「なんだよ。面白いこと言いやがって。」

 目の前のやつは、ふわりと空を浮かび消えていった。
 きっと、人間にでも会いに行ったのだろう。

「めんどくせぇ…。」

 一言漏らして、目を閉じる。

 いつものように気ままに眠りにつく。