朦朧とする意識の中で、私は何者かの声を聞いた気がした。
最後に見ていた景色は、四級魔族がいよいよ私の息の根を完全に止めようと一斉に攻撃してくるというものだったが。
一瞬気を失っていたのだろう。
気付けば私は愛しい温もりに包まれていて。光が私の体を修復し意識がはっきりとしてくる。
目を開くとそこには何故か美奈の顔があった。
愛しい彼女の哀しみに染められた表情を見ながら、私は彼女に助けられたのだと理解した。
いよいよ私のマインドも底をついた。傷は治っても頭はクラクラして、魔族もまだ十数体残っている。しかも四級魔族は四体いた筈だ。
このままではいずれ私は倒れ、美奈もアリーシャも殺されてしまうだろう。
私はふと美奈にアリーシャを連れて逃げる事を提案しようと思った。
私と椎名の二人で魔族を打ち倒せないならばそうしようと初めから思っていた事だ。
美奈の力では四級魔族に太刀打ちは出来ないが、この後傷が癒えたアリーシャの力を得られれば話は変わってくる。
アリーシャであればこの戦力差でも十分に勝算はあるだろう。
そのために二人が逃げる時間稼ぎをするのだ。
私が今思いつける策は正直もうそれぐらいしかない。
『せめて美奈だけでも生きてほしい――』
彼女にとってはただ残酷な決断なのかもしれないが、美奈を生かせると思えるなら再び私の枯れ果てた体にも力が漲ってくるような気がするのだ。
私は意を決し、その事を美奈に伝えることを決める。
「――――?」
だがそこで私は沈黙し、周りの景色に意識を這わせる。
「……」
何か違和感を感じるのだ。
何かが先程とは違う。私を取り巻く空気というのか、肌に纏わりつくような感じがある。
はっきりとは解らない。
これという確信も無い。
だが明らかに今、この戦場を覆う空気が変わった。気のせいでは無い、今もそれは続いている。少しずつ、少しずつ、靄が辺りへ広がっていくように。
だがこの変化には私以外気づいてはいないようだった。いや、私だから気づけたということなのかもしれない。
このままでは全滅は免れない。
ならば限りなく薄い望みでも、限りなく弱い光でも、それに賭けてみようと思った。
諦めない。最後の最後まで最善と呼べる選択をし続けるのだ。
私は再び体に力を込める。
「美奈、助かった。ありがとう」
私は一度彼女の頭に手を置く。
美奈はびくんとして、何とも悲しみを帯びた表情を作った。
だがつい先程とは違い、今の私はまだ希望を捨ててはいないのだ。まだ、皆が助かる可能性があると思っている。
だからもう一度彼女の潤んだ瞳を見つめ、新たな決意を胸に剣を拾い上げ魔族へと向かっていった。
「ちっ、死に損ないがっ……!」
再びレッサーデーモンの群れが私へと迫ってくる。
幸いなのは、美奈がアリーシャから離れてしまい、いつでも彼女に攻撃出来てしまう距離にいるというのに、魔族の注意が私にしか向いていない事だ。
だとしても私が倒れればその矛先は美奈に向くことは明らか。
簡単に負けるわけにはいかない。
私は自分を奮い立たせ、もう一度剣を強く握りしめる。
レッサーデーモンの拳や爪を掻い潜り、或いは剣で受け止めたり捌いたりして、何とか致命傷を受けないよう立ち回る。
美奈が回復してくれた。
まだ動ける。
そう言い聞かせるが側から足が悲鳴を上げる。太腿がガクガクして立っているのもやっとだ。
更にマインドも底を尽き、今の私に魔族を倒す力は最早全く残ってはいない。
だが、それでも構わない。
今の私の目的は先ほどとは違い、時間を稼ぐ事なのだ。
魔族を倒せなくとも、魔族の攻撃を受け続けないという事だけを意識するならばまだ何とかなる。
倍以上に重く感じる身体に鞭打って敵の攻撃を避わす、往なす、弾く。
しばらくそれの繰り返し。
やってやる。やってやるぞ。
私はこの状況を打破する未来だけに想いを馳せ、もう少しだけ体よ動けと迫り来る魔族と戯れのように立ち回りながらただただ時が経つのを待った。
最後に見ていた景色は、四級魔族がいよいよ私の息の根を完全に止めようと一斉に攻撃してくるというものだったが。
一瞬気を失っていたのだろう。
気付けば私は愛しい温もりに包まれていて。光が私の体を修復し意識がはっきりとしてくる。
目を開くとそこには何故か美奈の顔があった。
愛しい彼女の哀しみに染められた表情を見ながら、私は彼女に助けられたのだと理解した。
いよいよ私のマインドも底をついた。傷は治っても頭はクラクラして、魔族もまだ十数体残っている。しかも四級魔族は四体いた筈だ。
このままではいずれ私は倒れ、美奈もアリーシャも殺されてしまうだろう。
私はふと美奈にアリーシャを連れて逃げる事を提案しようと思った。
私と椎名の二人で魔族を打ち倒せないならばそうしようと初めから思っていた事だ。
美奈の力では四級魔族に太刀打ちは出来ないが、この後傷が癒えたアリーシャの力を得られれば話は変わってくる。
アリーシャであればこの戦力差でも十分に勝算はあるだろう。
そのために二人が逃げる時間稼ぎをするのだ。
私が今思いつける策は正直もうそれぐらいしかない。
『せめて美奈だけでも生きてほしい――』
彼女にとってはただ残酷な決断なのかもしれないが、美奈を生かせると思えるなら再び私の枯れ果てた体にも力が漲ってくるような気がするのだ。
私は意を決し、その事を美奈に伝えることを決める。
「――――?」
だがそこで私は沈黙し、周りの景色に意識を這わせる。
「……」
何か違和感を感じるのだ。
何かが先程とは違う。私を取り巻く空気というのか、肌に纏わりつくような感じがある。
はっきりとは解らない。
これという確信も無い。
だが明らかに今、この戦場を覆う空気が変わった。気のせいでは無い、今もそれは続いている。少しずつ、少しずつ、靄が辺りへ広がっていくように。
だがこの変化には私以外気づいてはいないようだった。いや、私だから気づけたということなのかもしれない。
このままでは全滅は免れない。
ならば限りなく薄い望みでも、限りなく弱い光でも、それに賭けてみようと思った。
諦めない。最後の最後まで最善と呼べる選択をし続けるのだ。
私は再び体に力を込める。
「美奈、助かった。ありがとう」
私は一度彼女の頭に手を置く。
美奈はびくんとして、何とも悲しみを帯びた表情を作った。
だがつい先程とは違い、今の私はまだ希望を捨ててはいないのだ。まだ、皆が助かる可能性があると思っている。
だからもう一度彼女の潤んだ瞳を見つめ、新たな決意を胸に剣を拾い上げ魔族へと向かっていった。
「ちっ、死に損ないがっ……!」
再びレッサーデーモンの群れが私へと迫ってくる。
幸いなのは、美奈がアリーシャから離れてしまい、いつでも彼女に攻撃出来てしまう距離にいるというのに、魔族の注意が私にしか向いていない事だ。
だとしても私が倒れればその矛先は美奈に向くことは明らか。
簡単に負けるわけにはいかない。
私は自分を奮い立たせ、もう一度剣を強く握りしめる。
レッサーデーモンの拳や爪を掻い潜り、或いは剣で受け止めたり捌いたりして、何とか致命傷を受けないよう立ち回る。
美奈が回復してくれた。
まだ動ける。
そう言い聞かせるが側から足が悲鳴を上げる。太腿がガクガクして立っているのもやっとだ。
更にマインドも底を尽き、今の私に魔族を倒す力は最早全く残ってはいない。
だが、それでも構わない。
今の私の目的は先ほどとは違い、時間を稼ぐ事なのだ。
魔族を倒せなくとも、魔族の攻撃を受け続けないという事だけを意識するならばまだ何とかなる。
倍以上に重く感じる身体に鞭打って敵の攻撃を避わす、往なす、弾く。
しばらくそれの繰り返し。
やってやる。やってやるぞ。
私はこの状況を打破する未来だけに想いを馳せ、もう少しだけ体よ動けと迫り来る魔族と戯れのように立ち回りながらただただ時が経つのを待った。