私と美奈は程なくして瓦礫や煙の立ち込める街の中へと入った。
近くまで来ると、街の人々の悲鳴があちこちから聞こえる。
門番も居ずに、すんなりと街へと入れたことを考えると、それだけパニック状態なのだろうと容易に想像出来た。

「美奈! とにかく真っ直ぐ大通りを進もう!」

「うん!」

私は背中に差したツーハンデッドソードを引き抜き、美奈は弓を構えていつでも狙撃出来る体勢を取った。
さて、相手がただの魔物であればどうという事は無いが、魔族で更に四級以上の者が相手となると厄介だ。こんな世界だ。街にも多少は戦える者はいるだろうが、その中に一体どれだけ魔族とまともに戦り合える者がいるか。街の惨状を考えると言わずもがな戦い慣れしている者の存在は期待出来ないだろう。
私達自身も魔族相手にまともに戦り合えるかと言われれば正直心許無い。だがここまで足を運んでしまった以上は街の人達を放っておく訳にもいかない。
とにかく今は感知能力を持つ工藤と椎名と離れてしまっている。
出来る事なら合流したいが、結局私達が探すより、向こうが感知して来てくれた方が早いと判断した私は、先ずは街の人々を救う事を最優先とする事を決める。
悲鳴の上がる方へと駆けていくと、やがて大通りの真ん中に人外の影を捉えた。

「あれは……! レッサーデーモンか!」

アリーシャに魔族の特徴を前もって聞いた際に、四級魔族は様々なフォルムを持ち、人に変身する事も可能であると聞いていた。
実際に村で出会った魔族もそうであった。
そして更にその下位に属する魔族、レッサーデーモン。これらの個体はより魔物に近い。
人の言葉を理解せず、黒い毛並の二メートル程の人型の化け物。その背中には飛翔出来る翼と頭に二本の角を持つのが大きな特徴。
目の前のそれはその全てに合致していた。

「グワオオオオオッッッ!!」

私達の接近に気づいたレッサーデーモンは、拳を振り上げて咆哮した。

「美奈! 援護を!」

「うん!」

美奈はその場に留まり、弓に魔力を込めた。
美奈の魔力にアリーシャから貰った光の魔石が反応し、弓矢が光の属性を帯びる。
矢を素早くつがえ、レッサーデーモンへと放つ。ドシュッと鈍い風切り音がして一直線に狙った獲物を捉える。
しかし思いの外俊敏にその矢を避わすレッサーデーモン。
それでもあれだけの巨体。素早く動いた反動で足を滑らし少し体勢を崩した。
すかさずそこへ突進していく私。その際に手に持つツーハンデッドソードに精神の波動を伝わせる。それにより魔石が反応し、剣が光の属性を帯びた。
私はそのまま勢いに任せ、大上段の構えからレッサーデーモンを斬りつけようとしたその瞬間。こちらに気づいたレッサーデーモンはその鋭利な牙だらけの口をカパッと開け放った。

ヒートブレス。
レッサーデーモンの共通の攻撃方法の一つだ。
口から灼熱の息を吐き、これに焼かれたらたちまちに黒焦げになってしまう事は必死。
街から立ち上る煙も恐らく大半はこれのせいだろう。

私は攻撃を一旦諦めて左に跳躍。ヒートブレスは今しがた私がいた場所を通り過ぎ、そのまま地面を焼く結果となった。
その直後、美奈の放った二発目の矢がレッサーデーモンの右目に突き刺さる。
光属性の効果で威力は大幅に増している。矢は貫通し右頭部に大穴を作った。だが流石に人外の生き物。レッサーデーモンはそれだけでは倒すに至らなかった。

「しぶといな……」

私は苦虫を噛み殺したように呟き、気を取り直して次の一手に出る。
私の能力は精神を操る能力。そして様々な生物の精神が視覚化された情報として見えるのだ。
このレッサーデーモンもそれは例外では無い。先程から胸部の真ん中、人で言う所の心臓に当たる場所。そこが黒い靄が掛かったように見えているのだ。
ワイバーンを倒した時もそうだったが、恐らくそこがレッサーデーモンの弱点。心臓というか、核のようなものだと感じていた。

私は再び攻撃に転じ、痛みにのたうち回るレッサーデーモンへと肉薄。
そのまま刃を胸部の靄へと突き立てた。

「グワオオオオオッッッ……!」

すると案の定。今回は悲鳴だけを残して灰となり、嘘のようにあっさりと消え行くレッサーデーモン。
私は風に運ばれていくその灰を見送りながら確かな手応えを感じていた。