「しかし、人を飛ばせる魔法とは……凄いものだな」
「んー、まあ正確には風でブッ飛ばしてるだけなんだけどね」
「?」
私の空の飛行は、気流の流れに乗せたり、風の噴射する方向を微調整したりするものなので、はっきり言って小回りが利かない。
方向転換するにしても行きたい方向と反対方向の風を体に浴びさせて行っているだけなので、風圧もすごいし最悪目を開けるのも厳しい瞬間がある。
その辺はまあ自分一人ならまだ上手くやれるようにはなったけれど、他の誰かを飛行させるとなると途端に難易度が上がり、せいぜいあと一人くらいしか飛ばす自信がない。
さらに今のように気流に乗せたりした状態じゃないととてもではないが相手の気分を著しく害するような飛行になってしまい、実用的ではないのだ。
本当に改めて空を自由に飛び回れる鳥が羨ましい。ってこの飛行方法って鳥よりも有利な状況なのかな。
って話が逸れたけれど、そんなこんなで私の半ば強引な空の遊泳に最初こそ慌てまくっていたアリーシャだったけれど、すぐに落ち着きを取り戻し、何なら私がより飛行させやすい体勢すら会得している。今はまるで遠足の日の子供のように回りをキョロキョロしながら現状を楽しんでいるように見える。
そしてそろそろ私の感知範囲でもピスタの街を捉えた。何なら物の焼ける臭いが風に運ばれてやってくる。その臭いに二人は顔をしかめ、途端に表情が険しくなる。どうやら街の中はとてもじゃないけれど穏やかとは言える状況ではないらしい。
「アリーシャ、お話してる暇はあんまりないみたい。やっぱり魔族よ」
「そのようだな」
こくりと頷くアリーシャの横顔は凛々しくてやはりとても美人さんだ。
間もなく街の上空。私は飛行の手をほんの少しだけ緩めて街の感知に意識の重きを置く。
街の中では逃げ惑ったりそれらを追い回す人外の生き物、魔族。そしてほんの少しだけ応戦する人々などの情報が風を通して流れ込んできた。
アリーシャから聞いた情報から察するに、恐らく魔族の殆どがレッサーデーモンと思われる。これなら私でもまともにやり合えるとは思うけれど、如何せん数が多い。
「シーナ、魔族の数はどのくらいだろうか?」
「んー。まだ街の全部が見渡せたわけじゃないから解らないけど、ざっと50はいそうね……。その殆どがレッサーデーモンよ」
「五十っ……か」
アリーシャの眉根がぴくりと歪み、顔が蒼白になる。これだけの数を二人で相手取るのは流石にキツい。というか無理。
でも、だからといって諦めるわけにはいかない。少なくとも後から隼人くんたちが駆けつけて来てくれるはず。それまで何とか持ちこたえればいい。
「とにかく一塊になってるわけじゃないから、一番密集してる所に突っ込むわよ!」
「うむ、承知した!」
アリーシャの返答を聞くや否や、私は高度を下げて約十匹のレッサーデーモンがいる方へと急降下。
「エンチャント・ストーム!」
降下の最中に右手のユニコーンナックルに暴風を纏わせる。その魔力に反応して、アリーシャからもらった光の魔石が輝きを放つ。
「食らいなさいっ!」
降下のスピードを付加しつつ、まずは子供を追いかける二匹のレッサーデーモンの先頭の一匹に拳を突き立てる。
私の攻撃をまともに受けたレッサーデーモンは、光の暴風に巻き込まれ、金切り声のような悲鳴を上げながら霧散した。そしてその近くにいたもう一匹のレッサーデーモンは、暴風に飛ばされて空に舞い上がった。
「はあっ!!」
そこへすかさず剣に光を纏わせたアリーシャの一撃が決まる。
これで二匹。
私は今の初撃で手応えを感じる。
正直下級魔族とはいえ相手は魔族。実際に相対しなければ、戦いになるかはわからなかったけれど、レッサーデーモンであれば今の私でもまともに戦えるようだ。
「なんだお前らはぁ……」
私の背後に魔族の気配。言葉を話すということは四級魔族か。
私は前に飛んで既の所で魔族の拳を避ける。
魔族の拳は地面を爆砕し、無数の石礫を周りに撒き散らした。まるで弾丸のごとく散っていく石の塊。このままでは街の人たちが巻き添えになるのは必死。そしてそれも当然魔族の狙いの内なのだろう。
「ストームウォール!」
私は瞬時に風の防護壁を展開し、その全ての行く末を阻む。それと同時に四級魔族へと突っ込んで、ユニコーンナックルをお見舞いする。
その四級魔族は体全身が岩に覆われていて、ゴーレムのようだった。
私の攻撃は、魔族の岩をほんの少しだけ破壊して、それだけに止まってしまう。
やはり四級魔族には、こちら側の物理攻撃も魔法も殆ど意味を成さないらしい。
「残念だったなあ。レッサーデーモンならイチコロだろうが、俺ぁそうはいかねえぜ」
勝ち誇った顔で私を見下ろしてくる魔族。けれどそんな事は私だって百も承知。私の本当の狙いは魔族の気を私の方へと向けること。
「こっちも忘れてもらっては困るな」
「あぁん?」
「ヒストリア流剣技、火!」
振り向いた魔族の頭上から、アリーシャの光の剣の一撃が振り下ろされる。
「ぐあああああああああっ!!」
かと言われたそれは、漢字にすると火ということだろうか。
別に炎が燃え滾る剣という訳ではなかったけれど、私が思いきり振り抜いた拳が肌を削る程度だったのに対して、強固な魔族の岩肌を頭から易々と斬り砕いて見せた。
「ヒストリア流剣技、風!」
さらに返す刀でふうと呼ばれた技を繰り出す。こっちは風か。加速度的な瞬発力で繰り出された横薙ぎの一閃はひとっ跳びで十数メートルの距離を疾駆。直線上にいた四匹のレッサーデーモンを余すことなく上下に斬り分けてしまった。
これにはさすがにどん引きを通り越して呆れ果てた。
ホントにこのお姫様はなんなのよ。強すぎるんですけど。
この一瞬の惨劇に、残ったレッサーデーモン数匹は慌てふためいて動きを止める。正直レッサーデーモンに対して御愁傷様と呟きたくなった。というか呟いた。
そこからその場の残りのレッサーデーモンを全滅させるまで、そう長くは掛からなかったことは言うまでもない。
「んー、まあ正確には風でブッ飛ばしてるだけなんだけどね」
「?」
私の空の飛行は、気流の流れに乗せたり、風の噴射する方向を微調整したりするものなので、はっきり言って小回りが利かない。
方向転換するにしても行きたい方向と反対方向の風を体に浴びさせて行っているだけなので、風圧もすごいし最悪目を開けるのも厳しい瞬間がある。
その辺はまあ自分一人ならまだ上手くやれるようにはなったけれど、他の誰かを飛行させるとなると途端に難易度が上がり、せいぜいあと一人くらいしか飛ばす自信がない。
さらに今のように気流に乗せたりした状態じゃないととてもではないが相手の気分を著しく害するような飛行になってしまい、実用的ではないのだ。
本当に改めて空を自由に飛び回れる鳥が羨ましい。ってこの飛行方法って鳥よりも有利な状況なのかな。
って話が逸れたけれど、そんなこんなで私の半ば強引な空の遊泳に最初こそ慌てまくっていたアリーシャだったけれど、すぐに落ち着きを取り戻し、何なら私がより飛行させやすい体勢すら会得している。今はまるで遠足の日の子供のように回りをキョロキョロしながら現状を楽しんでいるように見える。
そしてそろそろ私の感知範囲でもピスタの街を捉えた。何なら物の焼ける臭いが風に運ばれてやってくる。その臭いに二人は顔をしかめ、途端に表情が険しくなる。どうやら街の中はとてもじゃないけれど穏やかとは言える状況ではないらしい。
「アリーシャ、お話してる暇はあんまりないみたい。やっぱり魔族よ」
「そのようだな」
こくりと頷くアリーシャの横顔は凛々しくてやはりとても美人さんだ。
間もなく街の上空。私は飛行の手をほんの少しだけ緩めて街の感知に意識の重きを置く。
街の中では逃げ惑ったりそれらを追い回す人外の生き物、魔族。そしてほんの少しだけ応戦する人々などの情報が風を通して流れ込んできた。
アリーシャから聞いた情報から察するに、恐らく魔族の殆どがレッサーデーモンと思われる。これなら私でもまともにやり合えるとは思うけれど、如何せん数が多い。
「シーナ、魔族の数はどのくらいだろうか?」
「んー。まだ街の全部が見渡せたわけじゃないから解らないけど、ざっと50はいそうね……。その殆どがレッサーデーモンよ」
「五十っ……か」
アリーシャの眉根がぴくりと歪み、顔が蒼白になる。これだけの数を二人で相手取るのは流石にキツい。というか無理。
でも、だからといって諦めるわけにはいかない。少なくとも後から隼人くんたちが駆けつけて来てくれるはず。それまで何とか持ちこたえればいい。
「とにかく一塊になってるわけじゃないから、一番密集してる所に突っ込むわよ!」
「うむ、承知した!」
アリーシャの返答を聞くや否や、私は高度を下げて約十匹のレッサーデーモンがいる方へと急降下。
「エンチャント・ストーム!」
降下の最中に右手のユニコーンナックルに暴風を纏わせる。その魔力に反応して、アリーシャからもらった光の魔石が輝きを放つ。
「食らいなさいっ!」
降下のスピードを付加しつつ、まずは子供を追いかける二匹のレッサーデーモンの先頭の一匹に拳を突き立てる。
私の攻撃をまともに受けたレッサーデーモンは、光の暴風に巻き込まれ、金切り声のような悲鳴を上げながら霧散した。そしてその近くにいたもう一匹のレッサーデーモンは、暴風に飛ばされて空に舞い上がった。
「はあっ!!」
そこへすかさず剣に光を纏わせたアリーシャの一撃が決まる。
これで二匹。
私は今の初撃で手応えを感じる。
正直下級魔族とはいえ相手は魔族。実際に相対しなければ、戦いになるかはわからなかったけれど、レッサーデーモンであれば今の私でもまともに戦えるようだ。
「なんだお前らはぁ……」
私の背後に魔族の気配。言葉を話すということは四級魔族か。
私は前に飛んで既の所で魔族の拳を避ける。
魔族の拳は地面を爆砕し、無数の石礫を周りに撒き散らした。まるで弾丸のごとく散っていく石の塊。このままでは街の人たちが巻き添えになるのは必死。そしてそれも当然魔族の狙いの内なのだろう。
「ストームウォール!」
私は瞬時に風の防護壁を展開し、その全ての行く末を阻む。それと同時に四級魔族へと突っ込んで、ユニコーンナックルをお見舞いする。
その四級魔族は体全身が岩に覆われていて、ゴーレムのようだった。
私の攻撃は、魔族の岩をほんの少しだけ破壊して、それだけに止まってしまう。
やはり四級魔族には、こちら側の物理攻撃も魔法も殆ど意味を成さないらしい。
「残念だったなあ。レッサーデーモンならイチコロだろうが、俺ぁそうはいかねえぜ」
勝ち誇った顔で私を見下ろしてくる魔族。けれどそんな事は私だって百も承知。私の本当の狙いは魔族の気を私の方へと向けること。
「こっちも忘れてもらっては困るな」
「あぁん?」
「ヒストリア流剣技、火!」
振り向いた魔族の頭上から、アリーシャの光の剣の一撃が振り下ろされる。
「ぐあああああああああっ!!」
かと言われたそれは、漢字にすると火ということだろうか。
別に炎が燃え滾る剣という訳ではなかったけれど、私が思いきり振り抜いた拳が肌を削る程度だったのに対して、強固な魔族の岩肌を頭から易々と斬り砕いて見せた。
「ヒストリア流剣技、風!」
さらに返す刀でふうと呼ばれた技を繰り出す。こっちは風か。加速度的な瞬発力で繰り出された横薙ぎの一閃はひとっ跳びで十数メートルの距離を疾駆。直線上にいた四匹のレッサーデーモンを余すことなく上下に斬り分けてしまった。
これにはさすがにどん引きを通り越して呆れ果てた。
ホントにこのお姫様はなんなのよ。強すぎるんですけど。
この一瞬の惨劇に、残ったレッサーデーモン数匹は慌てふためいて動きを止める。正直レッサーデーモンに対して御愁傷様と呟きたくなった。というか呟いた。
そこからその場の残りのレッサーデーモンを全滅させるまで、そう長くは掛からなかったことは言うまでもない。