「はあっ!」

列泊の気合いと共に最初に飛び出したのは椎名だ。
彼女は私達の中でも特に素早い。
更に自身の風の能力も手伝ってとにかく特攻隊長よろしく、勇猛果敢に攻めていった。
とはいっても少し無謀である。
七体も魔物がいる中に、ほとんど丸腰で突っ込んでいったのだ。
それに身を低くして迎え撃つ姿勢を取るグレイウルフ。
右手には工藤に作成してもらったというユニコーンナックルを携えてはいるが、流石にやつらも素早い。
あの数を一度に相手取るには少々心許なさすぎる武器だ。
流石にそれはと椎名を強く呼び止めようと、思わず声を上げそうになった時。

「なあ~んてねっ」

突然椎名は地を蹴り大きく空へ跳躍。五メートル程上空へと跳び上がった。
かと思うと、右手をL字に形取り、立てた人差し指の先端を先頭のグレイウルフへと向けた。

「ストーム・バレット!」

力ある言葉と共に、指先からパンッという渇いた音が鳴る。
そのまま目には見えづらいが風の弾道が生まれたのだろう。
一迅の風が巻き起こり。

「ギャンッ!?」

直後その風の弾丸はグレイウルフの顔面に直撃したと思われた。
頭部の破砕と共に一体のグレイウルフは赤い魔石へと姿を変えたのだ。
突然の仲間の末路に慌てふためくグレイウルフたち。

「ストーン・バレット!」

そんなグレイウルフの群れへと向けて、私の斜め後方から、今度は工藤の攻撃が炸裂した。
椎名の風の弾丸と同じような、石の弾丸。
三つ同時に形成されたそれは、それぞれ直線的な軌道を描き、グレイウルフ三体の脇腹や足、頭部に直撃
した。
当たった場所がまちまちなのは、まだ三つ同時に精度よく操るのが難しいのだろう。
最も同時に三つもの弾丸を精密に操るようになれるかは甚だ疑問ではあるのだが。
脇腹と頭部に直撃を受けたグレイウルフはそのまま事切れ魔石と化す。
足に傷を負い、素早さを失ったグレイウルフは椎名のユニコーンナックルにより急所を貫かれあっさり事切れた。
うむ。中々連結の取れた動きだ。
流石この二人は相性がいい。
二人の動きを観察しているうちに、私の周りには残りのグレイウルフ三体が集まってきていた。
三方から私を囲い込み、同時に襲撃する腹積もりなのだろう。

「隼人くんっ!」

しまったと声を上げる椎名を手で制し、私はツーハンデッドソードを構える。
椎名と工藤が修行中にとある冒険の戦利品で手に入れたというこの剣。
重量は30キロはあるだろうか。
ずっしりと手に沈みこんでくるような感覚がある。
だが今の私は覚醒により、普段の数倍の身体能力を得ているのだ。
そこには当然膂力の向上も含まれている。
本来両手でしっかり握りしめておかないと扱いが難しい剣を、私は軽々と操った。

「ガアウウウッ!!」

一斉に飛びかかってくるグレイウルフ。
三体のタイミングもばっちりで、三方向からの同時攻撃は私に逃げる場所を失わせていた。
だがそんな事は些末なことだ。

「ふんっ!!」

私は構えたツーハンデッドソードを気合いの声と共に横薙ぎに大きく振り回す。
円の周期で繰り出された剣はものの見事にグレイウルフ三体を上下に分断せしめた。
一瞬にして、断末魔の声を上げる間も無く、それらは魔石へと姿を変えたのだった。

「ほえええ……」

感嘆の声を漏らす工藤。
私としても思った以上に上出来だ。
身体も剣も軽い。予想以上に速く動く。
私はうんうんと頷きながら馬車へと視線を向けた。
するとこちらを見ていたアリーシャと目が合う。
彼女は目が合うなり優しく微笑んでこくりと頷いてくれた。

「うむ。皆中々の身のこなし。戦いを始めたのが最近とは思えないくらいだな。流石予言の勇者。これは心強い」

そう言うアリーシャの表情は朗らかだ。
その反面私は少し複雑な心境であった。
予言の勇者。
この言葉はこれからの私達の行く先々で当たり前のようについて回るのかと。
そう考え始めると、少し憂鬱な気持ちになってしまうのだ。
そんな折、美奈と目が合う。

「お疲れさま」

そう言い微笑んでくれる美奈。
大して疲れているわけではないが、その微笑みを見るだけで疲れが吹き飛んで身体も心も軽くなるようだ。
だが私はこの時は気づきもしなかったのだ。
彼女のその笑顔に、ほんの少しの翳りが混じっていたことに。