「ねえ……あれ、お宝じゃない?」

「どーだろーなー。こういうのって定石だと確実に罠が仕掛けられてんだよなー」

思ったよりすぐ耳元で工藤くんの声がして、私はビクッと肩を震わせた。
抗議の声を上げようとしたけれど、首を振り振り今は放っておくことにする。
それよりも今はこの空間が気になるのだ。
この神秘的な場所が。
私はもう少し屈んで中を覗き込み、台座にある剣を注視してみる。
それは豪奢で太い成りをしていた。
あの大きさだとかなり重そうだ。両手で持たないと振り回しづらいかもしれないなと思う。

「ねえ、あれ隼人くんにあげたら良さそうじゃない?」

「そこは俺じゃねーのかよっ」

ガクッと肩を落とす工藤くん。

「いや、だって工藤くんは今となってはバトルスタイル殴る蹴るでしょ?」

「う……。まあ、そうだけどよ」

「はいはい。いじけないの。よしよし」

そう言って工藤くんの頭を二、三度撫でてやる。
何となく、からかいたくなったのだ。

「ばっ、馬鹿お前! やめろっ!」

慌てて私の手を振りほどこうとする。私は彼の手が触れないうちにさっと手を引っ込めた。

「とにかくちょっと取ってくるね!」

言うが早いか私は素早く中へと滑り込み、台座の前に着地した。
上から確認した時も台座以外何もなかったし、今も特に何も問題はなさそうだった。

「お、おいっ! 大丈夫か!?」

上から工藤くんの声が飛んでくる。
彼はついては来ずに、上から様子を見ているようだった。
意気地なしと思わなくもなかったけれど、上から俯瞰して見ていてもらった方がいいかもとも思う。

「━━うん、大丈夫」

私は一声返してそのまま台座に歩みよる。
近づくと台座は思いの外大きくて、私の身長でも剣を見上げるような形になった。
ひょいと台座に跳び上がり、思いきって剣の柄を握ってみた。

「お、おい椎名っ! 大丈夫かよっ!?」

そう言われても、もう遅い。
工藤くんの声が届く前に、私ほ既に手に力を込めていたのだ。
意外にも剣は大した力を込める間もなく、台座からするりと抜けてしまった。
剣は思っていた通り、ずしりと重い。
それでも覚醒によりそれなりに腕力のついた私はそのまま高々と持ち上げ、刀身全体を見渡してみる。
刀身の長さは1,5メートル程。
柄には丸みを帯びた装飾が施されていた。
 剣の横幅は20センチくらいだろうか。厚みは3センチ程もある。随分と大きな剣だ。
剣を動かして見ていると、ギラリと銀色の刀身が怪しく光を放った。
しかしこの剣、当たり前だけれど鞘がない。
持ち運ぶ時は少し危ないなあとは思う。
けれどせっかく手に入れたのだ。村まではぜひとも持って帰りたいところ。

「おいっ! 大丈夫か!?」

色々と考えに耽っていると、再び工藤くんの心配そうな言葉が届く。
私はひたすらに繰り返される大丈夫か、に少し辟易した。

「いや、だから大丈夫だって! そんな一つ覚えみたいに繰り返さないでよっ」

「す、すまん! でも椎名! それ、なんか光ってねーか!?」

「何言ってるのっ、そんなこと━━え?」

そう言われて改めて刀身を見てみてしばし言葉を失う。
彼の言うとおり、銀色の刀身からうっすらと光が放たれてきていたのだ。
光に反射したものかと思ったけれど、こんな薄暗いところで光るわけはない。
それに何だか柄が熱い。

「熱っ!!」

私はびっくりして思わず剣を取り落としてしまう。
カランコロンと音を立てて落ちた剣は、放つ光を増していき、やがて形を変え始めた。

「おいっ、椎名! なんかヤバそうだぞっ! とにかく一回上がって来いよ!」

「わ、わかったっ」

工藤くんに言われて私は入ってきた穴まで飛び上がる。
ちょうど上で手を伸ばした工藤くんが私の手を掴んで、するりと外に脱出できた。
私はすぐさま体の向きを取って返し、穴の入り口から再び中を見やる。
するとそこには先程の剣はなく、銀色の人型をした何かが鈍く動いていたのだ。

「何あれ? ……生きてるの?」

私の声に呼応するように、その金属人間は能面の顔の部分をギギギッとこちらに向けて、次の瞬間には跳び上がってきたのだ。

「ふひゃっ!」

私は手を工藤くんに引っ張られ、そのままの勢いで後ろに跳んだ。
何か変な声出ちゃった。
金属人間は私がたった今いた地面をぶち破って地中から姿を現した。
私たちの目の前に着地したそれは、目らしきものは無いけれど、明らかに私たちに敵意を向けて見つめているように思えた。

「何かヤバそうじゃね?」

「そ、そうね。何だろう、あれ。剣の守り神みたいなもの?」

「わかんねえ。とにかく俺たちアイツに狙われてるよな」

「……そうみたい。今もこっち見てるし。いやらしい目で。この人、私があんまり美少女だからってエッチなことしようとしてる変態さんとかじゃないでしょうねえ」

「バカいえ、来るぞっ」

そこまで話した所で、金属人間は私たち目掛けて突っ込んできた。
中々のスピードだ。
反射的に両側に跳んだ私と工藤くん。
私たちが今さっきまでいた地面が、そいつの拳で破砕する。
あっという間に地面にぽっかりと1メートル位の穴が空いた。
攻撃力も中々のものっ。

「かまいたちっ!」

私はその金属人間目掛けて風を圧縮させた真空の刃を放つ。
目には見えないその風の太刀をその身に受ける金属人間。
けれどバシュリと派手な音を立てて命中はしたものの、傷一つつけられずに霧散したではないか。
防御力も中々のものっ。

「うそっ!?」

けれど悠長に驚いている場合ではない。
金属人間は攻撃を受けて逆上したのか、私目掛けて加速してきた。
しかもさっきよりもずっと速いスピードだ。

「くっ!」

ちょっと油断し過ぎた。
急に距離を詰められて避ける算段が出来ていなかったのだ。
私は仕方なく彼の拳を防ぐことに決める。
咄嗟に手を交差して、ちょっとくらい痛いのは我慢だ。

「おらあっ!」

そこに横から回り込んだ工藤くんが金属人間の顔面に拳を打ち込んだ。
クリーンヒットしてそのまま彼は十メートル程ぶっ飛んで地面に叩きつけられた。
痛そう……。
そのまま彼は動かなくなる。
私はホッと胸を撫で下ろした。

「ありがと」

「おう。だけど、まだだな」

「え?」

工藤くんの言葉を受けて金属人間に目をやると、彼は何事も無かったかのようにするりと立ち上がった。
顔も特に何もなってはいない。
嘘でしょ?
あれだけのスピードとパワーの拳を受けても何ともないなんて。

「やるわね、アイツ」

「ああ。おもしれーじゃねーか。ぶっ壊してやる」

私は軽く歯軋(ぎし)りして、工藤くんは楽しそうに笑んでいる。
やっぱり男の子。
こういう時は頼もしいものだ。
硬くて簡単にはダメージを与えられない。おまけにスピードもパワーもある。
私は改めてこの金属人間を強敵と認識したのだった。