工藤くんが示した方向へ空を滑空すること十数分。
着地の直前に地上から空へと突風を吹かせ、私はふわりと地面に着地した。
「ふう……着いた着いた。やっぱり空の旅は快適ねっ」
「お……おい、椎名。……俺を殺す気か……」
そんな私の呟きを真っ向から否定する言葉を浴びせてくる工藤くん。
彼は地面に着地するや否や、へろへろとその場に崩折れるようにへたりこんだ。
そんな彼を見つつ、私は腕を組み頬を膨らます。
「何よもうっ、だらしないわね。ちょっと空飛んだくらいで」
まあ。
時速百数十キロくらいのスピードで、ビルの十階くらいの高さを飛んでたかもしれないけれど。
何なら途中空を畝るように飛び回ったりもしたか。
でもさ、これくらいならジェットコースターよろしく楽しんでくれると思ったわけよ。
ただでさえ覚醒して身体能力が上がってるんだから、このくらいの無茶は許されるはずだ。
寧ろこんなの刺激でも何でもないと思う。
少なくとも私はそうなんだもの。
「ち……ちょっと休む」
そんな私の考えとは裏腹に、その場にへたりこんだまま動こうとしない工藤くん。
私はそんな彼をちらと見つつ、背を向けて大仰にため息を吐いた。
「もうっ! 日が暮れちゃうじゃない! バカッ」
私は心の中では若干の反省をしつつも、裏腹な言葉を投げつける。
乙女心とはいつだって複雑なのだ。
「そ……そうは言っても。初めてであれはキツイって……」
工藤くんはよっぽど堪えたようで、全く動こうとしない。
私はもう一度大仰なため息を吐いた。
「わ、悪かったわよ! じゃあ、ちょっとだけ休みましょ!」
「あ、あー……。そうしてくれ……」
工藤くんはそのまま俯いて、いつもの冗談さえ言ってこない。
「……ふーんだっ」
つまんないと思いながら、私は近くにあった岩に腰掛けた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ふ~……。じゃあ行くか」
それから更に十分程経って。
相変わらずテンションは低目だったけれど、へろへろ状態から回復した工藤くんは立ち上がってようやくこっちを向いた。
顔色も悪くない。これなら大丈夫だろう。
「ふんっ……女の子を待たせるなんてサイテー」
私は彼と一度目を合わせた後すぐに逸らし、毒づいて舌を出す。
「いや! 元はと言えば断りも入れず空をぶっ飛ばすからだろーが!」
「はいはい、わかったわよ大きな声出さないでよね。で? その祠(ほこら)ってどの辺なの?」
工藤くんをさらっとあしらいつつ立ち上がり先を促すと、彼はほんの少し悲しそうな顔をして「ええ……」とその場に佇んだ。
相変わらず分かり易い奴だ。
んでもってやり易い。
私は彼に顔を見られないようにこっそりと笑みつつ、辺りに気を巡らす。
工藤くんが言っていた場所に近い所に来てはいるはずなのだけれど、その祠らしきものは未だ見つけられないでいたのだ。
休憩している間も近くを感知してみたけれど、特にそれらしきものは見当たらなかった。
しかも癪(しゃく)なことに、この場所は私の風の感知の範囲をゆうに二、三キロは越えていた。
工藤くんは祠の場所を、自身の土属性による感知能力で見つけたらしい。
ということは彼の感知能力は私の風の感知能力の範囲よりも広いということになる。
「ちょっと待てよ。今調べっから」
しばらく動かないでいた工藤くんは私がキョロキョロと辺りを見回していると、やがて観念したらしく、ふと屈(かが)んで右手を地面に置いた。
しばらく目を閉じ意識を集中させている様子。
「ん。やっぱりこの近くだ」
すぐに目を開け立ち上がる。
どうやら見つけたらしい。やっぱりあるんだ。
それで私はある程度予想していた答えに確信を得る。
そういうことかと。
そのままずんずんと森の中を進んでいく工藤くん。
私はそれに倣って後ろで手を組みつつとことこと彼についていく。
しばらく進むと森を抜けて、木のないスペースが現れた。
そこで工藤くんは立ち止まった。
「……ここだな」
そう言って工藤くんは再び地面に手をかざす。
「おりゃっ!」
工藤くんが右手に力を込めると同時に、目の前の地面が盛り上がり、高さ一メートル程の穴蔵(あなぐら)が形成された。
やっぱりそうだ。
どうやら地中に広い空間があったらしい。
どうりで私の感知能力には引っ掛からないわけだ。
要するに私の感知だと空気に接している場所しか察知できない。
けれど工藤くんの感知は基本地中と地上一メートル程度の範囲なのだ。
私が見つけられないわけだ。
「こんな所に地下空間があるなんてね」
中を覗き込むと、五メートル四方くらいの空間が広がっていた。
そして空間の真ん中には台座がある。
そこには一本の剣が刺さっていた。
着地の直前に地上から空へと突風を吹かせ、私はふわりと地面に着地した。
「ふう……着いた着いた。やっぱり空の旅は快適ねっ」
「お……おい、椎名。……俺を殺す気か……」
そんな私の呟きを真っ向から否定する言葉を浴びせてくる工藤くん。
彼は地面に着地するや否や、へろへろとその場に崩折れるようにへたりこんだ。
そんな彼を見つつ、私は腕を組み頬を膨らます。
「何よもうっ、だらしないわね。ちょっと空飛んだくらいで」
まあ。
時速百数十キロくらいのスピードで、ビルの十階くらいの高さを飛んでたかもしれないけれど。
何なら途中空を畝るように飛び回ったりもしたか。
でもさ、これくらいならジェットコースターよろしく楽しんでくれると思ったわけよ。
ただでさえ覚醒して身体能力が上がってるんだから、このくらいの無茶は許されるはずだ。
寧ろこんなの刺激でも何でもないと思う。
少なくとも私はそうなんだもの。
「ち……ちょっと休む」
そんな私の考えとは裏腹に、その場にへたりこんだまま動こうとしない工藤くん。
私はそんな彼をちらと見つつ、背を向けて大仰にため息を吐いた。
「もうっ! 日が暮れちゃうじゃない! バカッ」
私は心の中では若干の反省をしつつも、裏腹な言葉を投げつける。
乙女心とはいつだって複雑なのだ。
「そ……そうは言っても。初めてであれはキツイって……」
工藤くんはよっぽど堪えたようで、全く動こうとしない。
私はもう一度大仰なため息を吐いた。
「わ、悪かったわよ! じゃあ、ちょっとだけ休みましょ!」
「あ、あー……。そうしてくれ……」
工藤くんはそのまま俯いて、いつもの冗談さえ言ってこない。
「……ふーんだっ」
つまんないと思いながら、私は近くにあった岩に腰掛けた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ふ~……。じゃあ行くか」
それから更に十分程経って。
相変わらずテンションは低目だったけれど、へろへろ状態から回復した工藤くんは立ち上がってようやくこっちを向いた。
顔色も悪くない。これなら大丈夫だろう。
「ふんっ……女の子を待たせるなんてサイテー」
私は彼と一度目を合わせた後すぐに逸らし、毒づいて舌を出す。
「いや! 元はと言えば断りも入れず空をぶっ飛ばすからだろーが!」
「はいはい、わかったわよ大きな声出さないでよね。で? その祠(ほこら)ってどの辺なの?」
工藤くんをさらっとあしらいつつ立ち上がり先を促すと、彼はほんの少し悲しそうな顔をして「ええ……」とその場に佇んだ。
相変わらず分かり易い奴だ。
んでもってやり易い。
私は彼に顔を見られないようにこっそりと笑みつつ、辺りに気を巡らす。
工藤くんが言っていた場所に近い所に来てはいるはずなのだけれど、その祠らしきものは未だ見つけられないでいたのだ。
休憩している間も近くを感知してみたけれど、特にそれらしきものは見当たらなかった。
しかも癪(しゃく)なことに、この場所は私の風の感知の範囲をゆうに二、三キロは越えていた。
工藤くんは祠の場所を、自身の土属性による感知能力で見つけたらしい。
ということは彼の感知能力は私の風の感知能力の範囲よりも広いということになる。
「ちょっと待てよ。今調べっから」
しばらく動かないでいた工藤くんは私がキョロキョロと辺りを見回していると、やがて観念したらしく、ふと屈(かが)んで右手を地面に置いた。
しばらく目を閉じ意識を集中させている様子。
「ん。やっぱりこの近くだ」
すぐに目を開け立ち上がる。
どうやら見つけたらしい。やっぱりあるんだ。
それで私はある程度予想していた答えに確信を得る。
そういうことかと。
そのままずんずんと森の中を進んでいく工藤くん。
私はそれに倣って後ろで手を組みつつとことこと彼についていく。
しばらく進むと森を抜けて、木のないスペースが現れた。
そこで工藤くんは立ち止まった。
「……ここだな」
そう言って工藤くんは再び地面に手をかざす。
「おりゃっ!」
工藤くんが右手に力を込めると同時に、目の前の地面が盛り上がり、高さ一メートル程の穴蔵(あなぐら)が形成された。
やっぱりそうだ。
どうやら地中に広い空間があったらしい。
どうりで私の感知能力には引っ掛からないわけだ。
要するに私の感知だと空気に接している場所しか察知できない。
けれど工藤くんの感知は基本地中と地上一メートル程度の範囲なのだ。
私が見つけられないわけだ。
「こんな所に地下空間があるなんてね」
中を覗き込むと、五メートル四方くらいの空間が広がっていた。
そして空間の真ん中には台座がある。
そこには一本の剣が刺さっていた。