広場にはチャドルさんのウィンドの魔法の音で、何人かの村人が集まってきていた。
私達勇者が修行しているのを見物したいという想いからか、それは分からなくはない。
だが初めての魔法。それを眺める人々。
美奈にとってそれはかなり緊張感の高まる状況であり、彼女の表情には明らかな戸惑いの色が浮かんでいた。
「美奈、大丈夫そうか? 無理しなくとも、まだ修行は始まったばかりなのだ。時間はまだまだある」
「あ、うん」
私の言葉に彼女は俯いた顔を上げ、それから深呼吸を1つ。
「明日にしてもかまわないのだぞ?」
懸念して掛けた言葉に、けれど美奈は微笑み首を振った。
「ううん。大丈夫、やってみるよ」
とはいえ落ち着かないのか、もう一度深呼吸。
「はあ~、ふう~」
そんな仕草も愛らしく可愛らしい。
一生懸命頑張ろうという様が伝わってきて、応援したくなる気持ちが自然と湧いてくるのだ。
それでもこちらとしては気が気でないのは確か。
何というか、子を見守る保護者のような気持ちか。
「お姉ちゃんっ、頑張ってっ」
唐突に少し離れて事を見守っていた少女がそんな声援を送ってくれた。
美奈は微笑みこくりと頷く。
「ありがとう。頑張ってみるね?」
彼女の言葉に気持ちが和んだのか、やがて意を決したように美奈は真剣な表情になった。
「――チャドルさん。私、やってみます」
「おう、いつでもいいぜっ。ぶちかましてみせてくれやっ」
ニヤリと笑うチャドルさん。
今は茶化すことなく静かに美奈の動向を見守っている。
やはり自身も魔法を使うだけあってここは黙っているべきだと判断したのか。その辺の気づかいはまあ、流石と言っておこう。
美奈はもう一度ふうと短い息を吐いた。
そのままぴたと動きを止め、今度こそ岩を見据え、精神を集中させるように目を閉じたのだ。
それに呼応するように周りに静寂が訪れる。
直後、美奈の体がぼんやりと輝いているように見えた。
――息を飲む私やチャドルさん、そして村の人達。
「この身に宿りし光のマナよ この手に集いて一条の光の矢となれ」
美奈の詠唱が始まり一息に言いきった。その最中から、淡い光はより強い光となったのである。
光が彼女の手の先へと集まり、指先で留まったかと思うと、それは光の球体となりビクンと力強く脈打った。
「ライトニングスピア!」
力ある言葉と共に光は矢となり一直線に飛んでいった。かと思えば次の瞬間には目の前の岩へと直撃していた。
当たった衝撃で光は一層その輝きを増し、ズドンッ、と落雷のような大きな音を辺りに響かせた。
その光景に思わずどよめく観衆。さんざめく残響。
音の余韻が途切れたら、静寂が訪れ――やがてその静寂はすぐに歓声へと変わったのだ。
「すごいぞっ! ミナちゃん!」
チャドルさんも感心したように寄ってきて美奈の肩を叩く。
「えへへ……できちゃいましまね」
未だ自分が起こした事象が信じられないのか、美奈は頭をぽりぽりと掻きながらはにかんだ笑みを浮かべていた。
そんな折、ちらとこちらを見た彼女と視線がかち合う。
私も彼女に近づきにこやかな笑みを見せた。
「美奈、本当に凄いのだ」
「……へへ。嬉しいな」
美奈は賞賛の言葉に恥ずかしそうにしながらも、素直に喜び笑顔を浮かべていた。
嬉しそうな彼女の顔を見ていると、こちらまで幸せな気持ちになってしまう。
思わず彼女の手を取り見つめ続けてしまう。
「美奈」
私の熱い視線に応えるように頬を上気させて見つめ返す瞳は憂いを帯び、吸い寄せられるようだ。
「……隼人……くん」
「おいおいっ、皆見てるんだがっ!?」
「「おわっ!?」」
完全に自分達の世界へと入り込みそうなところをチャドルさんに止められ私達は慌てて離れた。
「……たくよお」
恨めしそうなチャドルさんの声を聞きながら流石に反省する。
場所をわきまえねばな。
そう思いつつちらと横を見ると美奈はやっぱりこちらを見ていて、にこやかに微笑んでくれていた。
それが堪らなく可愛らしくて愛おしいと思ってしまうのだ。
今回は私自身、魔法という能力を得られなかった。
それは勿論残念なことではあるが、美奈にはその才能があった。
そのことが今は、自分のことのように誇らしい。
さて、私もここからは自分自身の特性を活かした修行に切り替えていくとするか。
そんな事を思いながら空を見上げる。
陽の光はどこまでも晴れやかで、空は空気の淀みが一切ないかのように澄みきっている。
空は私の心をスッと穏やかに、心地よくしてくれるのだ。
私達勇者が修行しているのを見物したいという想いからか、それは分からなくはない。
だが初めての魔法。それを眺める人々。
美奈にとってそれはかなり緊張感の高まる状況であり、彼女の表情には明らかな戸惑いの色が浮かんでいた。
「美奈、大丈夫そうか? 無理しなくとも、まだ修行は始まったばかりなのだ。時間はまだまだある」
「あ、うん」
私の言葉に彼女は俯いた顔を上げ、それから深呼吸を1つ。
「明日にしてもかまわないのだぞ?」
懸念して掛けた言葉に、けれど美奈は微笑み首を振った。
「ううん。大丈夫、やってみるよ」
とはいえ落ち着かないのか、もう一度深呼吸。
「はあ~、ふう~」
そんな仕草も愛らしく可愛らしい。
一生懸命頑張ろうという様が伝わってきて、応援したくなる気持ちが自然と湧いてくるのだ。
それでもこちらとしては気が気でないのは確か。
何というか、子を見守る保護者のような気持ちか。
「お姉ちゃんっ、頑張ってっ」
唐突に少し離れて事を見守っていた少女がそんな声援を送ってくれた。
美奈は微笑みこくりと頷く。
「ありがとう。頑張ってみるね?」
彼女の言葉に気持ちが和んだのか、やがて意を決したように美奈は真剣な表情になった。
「――チャドルさん。私、やってみます」
「おう、いつでもいいぜっ。ぶちかましてみせてくれやっ」
ニヤリと笑うチャドルさん。
今は茶化すことなく静かに美奈の動向を見守っている。
やはり自身も魔法を使うだけあってここは黙っているべきだと判断したのか。その辺の気づかいはまあ、流石と言っておこう。
美奈はもう一度ふうと短い息を吐いた。
そのままぴたと動きを止め、今度こそ岩を見据え、精神を集中させるように目を閉じたのだ。
それに呼応するように周りに静寂が訪れる。
直後、美奈の体がぼんやりと輝いているように見えた。
――息を飲む私やチャドルさん、そして村の人達。
「この身に宿りし光のマナよ この手に集いて一条の光の矢となれ」
美奈の詠唱が始まり一息に言いきった。その最中から、淡い光はより強い光となったのである。
光が彼女の手の先へと集まり、指先で留まったかと思うと、それは光の球体となりビクンと力強く脈打った。
「ライトニングスピア!」
力ある言葉と共に光は矢となり一直線に飛んでいった。かと思えば次の瞬間には目の前の岩へと直撃していた。
当たった衝撃で光は一層その輝きを増し、ズドンッ、と落雷のような大きな音を辺りに響かせた。
その光景に思わずどよめく観衆。さんざめく残響。
音の余韻が途切れたら、静寂が訪れ――やがてその静寂はすぐに歓声へと変わったのだ。
「すごいぞっ! ミナちゃん!」
チャドルさんも感心したように寄ってきて美奈の肩を叩く。
「えへへ……できちゃいましまね」
未だ自分が起こした事象が信じられないのか、美奈は頭をぽりぽりと掻きながらはにかんだ笑みを浮かべていた。
そんな折、ちらとこちらを見た彼女と視線がかち合う。
私も彼女に近づきにこやかな笑みを見せた。
「美奈、本当に凄いのだ」
「……へへ。嬉しいな」
美奈は賞賛の言葉に恥ずかしそうにしながらも、素直に喜び笑顔を浮かべていた。
嬉しそうな彼女の顔を見ていると、こちらまで幸せな気持ちになってしまう。
思わず彼女の手を取り見つめ続けてしまう。
「美奈」
私の熱い視線に応えるように頬を上気させて見つめ返す瞳は憂いを帯び、吸い寄せられるようだ。
「……隼人……くん」
「おいおいっ、皆見てるんだがっ!?」
「「おわっ!?」」
完全に自分達の世界へと入り込みそうなところをチャドルさんに止められ私達は慌てて離れた。
「……たくよお」
恨めしそうなチャドルさんの声を聞きながら流石に反省する。
場所をわきまえねばな。
そう思いつつちらと横を見ると美奈はやっぱりこちらを見ていて、にこやかに微笑んでくれていた。
それが堪らなく可愛らしくて愛おしいと思ってしまうのだ。
今回は私自身、魔法という能力を得られなかった。
それは勿論残念なことではあるが、美奈にはその才能があった。
そのことが今は、自分のことのように誇らしい。
さて、私もここからは自分自身の特性を活かした修行に切り替えていくとするか。
そんな事を思いながら空を見上げる。
陽の光はどこまでも晴れやかで、空は空気の淀みが一切ないかのように澄みきっている。
空は私の心をスッと穏やかに、心地よくしてくれるのだ。