――ピタッ……、ピタッ……。
ピタッ……、ピタッ……。

『何だ……? この音は……?』

不意に耳に入った物音に目を覚ます。
漏れた呟きは声とはならず、頭の中に再生される心の声のように響くのみだ。
何だこれは? 夢か?
ここは一体どこなのだろうか。
夢とは思いつつもやけに意識がはっきりしている。
不思議だ。まるで、何かの映画でも見せられているような気分だ。
目の前には赤い絨毯の敷き詰められた長い廊下が続いている。
何故だか分からないが周りの様子を確認しようとすれど、一向に身体は動いてくれない。体の自由が利かないのだ。
だが体は確実に動いている。
自身の意思に関係なく、ある一定の速度を保ち、前へ前へと進んでいっているのだ。
時刻ははっきりとは分からない。
だが視界の端に映るガラス張りの窓から光が射し込んでいない所を見ると、恐らく夜なのだろう。

ピタッ……、ピタッ……。

先程から幾度となく鳴り響く正体不明のこの音は不規則なリズムを刻んでいる。
音の出所はすぐ近く。
私の体が前に進むスピードに合わせて鳴っているようである。

『これは……足音? 私の体は一体どうしてしまったのだ?』

体は前に進んではいるが、ただ意識がはっきりしているだけで自身の体を動かしているのはまるで別の何かのようだ。
気味が悪い。
私は一体何を見ているのか。
隔絶された意識の檻の中に閉じ込められて、普段の自分とは全く別物の身体を借りたように、ただただ記憶の中に存在しない見知らぬ映像を見させられているかのようだ。

ピタッ……、ピタ――。

――やがて私は一つの扉の前に辿り着き、それを押し開ける。
扉は思ったよりも静かに、音も立てずに開いた。
中は薄暗く、礼拝堂のようだった。
部屋の奥には祭壇がある。その前に膝をつき、祈りを捧げるフード姿の女性が一人。シスターというものだろうか。

ピタッ……、ピタッ……。

私はそのシスターへと少しずつ近づいていく。
依然として目の前の人物はこちらに気づく事はなく、彼我の差が一メートル程に迫った時。
シスターがゆっくりとこちらを振り向いた。
私と目が合った瞬間。彼女の顔が恐怖に塗り染められる。

「――ひっ!? ……バケモノっ!」

その女性は相貌を恐怖と絶望の色に染めながら尻餅を突き、手足をバタバタとさせながら後退る。
恐怖し、相当慌てているのだろう。私達の差は開くどころか少しずつ縮まっていき、彼女の息づかいが近くに感じられる。

「いやっ! 来ないでっ……!! やめてえーーーーっ!!」

その声を最期に私の意識は虚空へと打ち出された。