村の出入口に向けて四人はひた駆ける。
 通った先から舞い上がる土煙。
 そのスピードは最早四人とも十分に超人と言えるレベルだ。

「しっかし次から次へと心休まらないわね~」

横を走る椎名が心なしか楽しそうに思えるのは気のせいだろうか。
そうは思いつつも私自身も心の奥底に、少しばかり浮わついた気持ちが潜んでいる事は否定出来なかった。
魔族を撃退した事で多少なりとも自信を持った。
更に四人揃った事で心強くあるのも後押ししているのだ。
しかしこの声の主がどんな相手かはまだ不確定。
今一度気を引き締めねばと思い直す。
私は首を振り、まだ見ぬ未知の敵への警戒を強めた。

「グオワアーーーーーーーーーーーッ!!!!」

突然視界の中にそれは姿を現した。
村の外壁から飛び上がり、遥か上空まで一瞬にして上昇。そのまま空を物凄い速度で旋回する。

「あ、あれって、ドラゴンか!?」

工藤がその姿を目の当たりにしてそんな事を呟いた。
ドラゴンと呼んだそれは、体長十メートルはあるだろうか。
体の色は青く、鱗で覆われており、頭部に角が三本並んでいる。
翼を大きくはためかせ大空をその巨体からは想像もつかない程スムーズに弧を描きながら滑空している。
あまりにも悠然と大空を流れる姿に思わず見惚れてしまいそうになった。
翼竜はそのままの勢いで大きく旋回し、私達がいる村の方へと向かってきた。

「来るぞ!」

まるで神話の世界に来たようだ。
美しいフォルムに私は命の危険すら忘れて魅入ってしまっていたのだから。
先程警戒を強めようと意識したばかりだというのに。まだまだ危機感が足りない。
私は改めて歯を食い縛り自分自身を鼓舞する。

「――隼人殿っ!」

「ネムルさん!?」

突然ネムルさんが目の前に現れた。

「ネムルさん! 隠れていてください! 危険です!」

タイミングとしては最悪だ。
翼竜との距離があと数十メートル程に迫っている。
何故こんな時に出てきたのか。
私は若干戸惑いと怒りの気持ちに苛まれる。
その時ドラゴンの黄色い瞳が輝き、口を開いた。

「大丈夫ですじゃっ! 村にはバリアが張られています!」

「!?」

ネムルさんが意気揚々とそう告げた。
それと同時にドラゴンが私達に向けてブレスを吐いた。
氷のブレスは轟音を上げて一直線に村に、私達に降り掛かってくる。
私はその時気づくべきだった。
今しがたまで私達は魔族と戦っていたということに。
グリアモールがそんなバリアなどとうに消し去っていたのだろう。
ブレスは真っ直ぐに、何物にも阻まれることなくこちらへと向かってきた。

「!? 違う! バリアなどもう無い! 避けろっ!」

「まじかよっ!?」

散り散りに跳ぶ私達。
私は空を見上げたままのネムルさんの袖を掴もうと手を伸ばす。
しかし袖を掴もうとする手は虚しく空を切ってしまった。

「――ネムルさんっ!」

そのままネムルさんは氷のブレスの直撃を受け、氷の像へと変わる。
ほんの一瞬の出来事だった。

「いやっ……!!」

椎名の悲痛な叫びが後ろで聞こえる。

「ネムルさん?」

振り返れば数人の村の男が立っていた。
騒ぎを聞き付けて避難所から出てきたのだろう。
その中には娘のメリーさんもいて。彼女の顔が蒼白になり、唇が小刻みに震えた。

「い、いやあ~~~~~~~~~っ!!!!」

なんとタイミングの悪いことか。
メリーさんは両手で頭を抱えその場にしゃがみ込んだ。
涙を流し悲痛な叫びを上げる。

「待って! 私が何とかする!」

その時美奈がネムルさんに取りつき光を発した。
先程の私の時のように回復させるというのか。
美奈は目を閉じネムルさんの回復に力を注いでいる。

「隼人くん! ネムルさんは美奈に任せよう! とにかく私たちであのドラゴンを何とかしないと!」

椎名の声にドラゴンの方に目を向けると、奴はそのままの勢いで上昇。
再び空高く舞い上がったようで、そのギラギラした瞳でこちらを睨み付けながら次のブレスの準備をしているように思えた。

「おいっ! このまま黙って見てるだけじゃあ全員氷漬けだぜっ!?」

工藤の言う通り、このままでは村が雪野原になるのも時間の問題。
私は工藤と椎名を見た。互いに視線を交わし、こくりと頷き合う。

「では行くぞ二人共!」

「おうよっ!」
「任せてっ!」

二人は同時に私へと向けて笑顔でサムズアップを決めてみせた。