ゆっくりとグリアモールの方へと歩を進めていく。
風が吹いても置物のように何もかもが動かない。相変わらずこの世界の物理法則を無視したように無機質で、その佇まいには違和感しかない。
悠然と佇む姿からは自身の敗北など微塵も感じてはいないのだろう。
それだけの自信を持っているのだ。
何故それ程までに強い自信を抱かせるのか。その回答は至って単純だ。人間に対しての嘲りの気持ちが強いからに他ならない。
だが、それが命取りだ。確実に大きな隙を作っている。私は拳を強く握りしめた。
今はこの遊戯に私自身全力を尽くすのみ。
グリアモールが私の提案を鵜呑みにし、これを遊戯と定めた。その気持ちを逆手に取り早期に決着を着けるのだ。
先の戦い、グリアモールには椎名と工藤の一切の攻撃が効かなかった。
その事から私の攻撃も、一ミリたりともダメージは与えられないのかもしれない。
だが私は今この時、そうはならないのではないかという想いがあった。
覚醒したからこそ、そう思えた。
私の覚醒により目覚めた能力ならば必ず奴を倒せるのではと、そう結論づけたからこんな茶番を持ちかけたのだ。
グリアモールは椎名と工藤が繰り出す攻撃のその全てを物理攻撃だと言った。
さて、ここで彼の言う物理攻撃とは一体何なのか。
その事について私は深く思案してみた。
私の認識に当てはめると、武器や格闘による物理的な攻撃の事だとまず最初に思った。
椎名が繰り出す風や、工藤の岩での攻撃などもそうだ。
そういった攻撃は奴には一切通用しない。それは既に実証済みだ。
次に考えられるのは魔法だ。だがこれについては早々却下だ。
理由は二つある。
一つは誰も魔法の使用が出来ず、知識も全く無いこと。よって実戦では使いようがない。
もう一つは前回の戦いの際、グリアモール自身が使用を求めてきたことだ。
恐らくグリアモール自身も魔法に対する耐性があるのだろう。だからそんな提案を持ち掛けた。
だからどちらにせよ魔法による攻撃など無意味だと結論づける。
結局のところ、グリアモールにとっての物理攻撃とは。
魔法だろうが自然現象であろうが物理的個体に有効な攻撃でしかないものはすべからく物理攻撃となるのだと私は結論づけることにしたのだ。
――さて、つまるところ結局グリアモールにダメージを与えられる攻撃方法とは一体何なのか――――。
私は表情一つ変える事無く醜悪なフォルムを抱くこの魔族の前にひたと歩を進め、彼我の距離約一メートルの所で立ち止まった。
グリアモールは相変わらず表情の見えない無機質な状態で私を見つめている。
目線などもないのでそれすらも分かり得ないが。

「フフフ……」

「隼人っ!!」

この状況が恐ろしいのか、堪らず工藤が叫んだ。
彼からしたら、この無防備極まりない私の状況に気が気ではないといったところか。
無理もない。私の今のこの状況、端から見ればいつ殺されてもおかしくはない。そんな風に見えるだろうから。
だがこの瞬間、私は絶対にそうはならないと確信していた。
この魔族がそんな馬鹿げた行動を起こすはずがない。いや、実はグリアモールは今そんな事は微塵も思ってなどいないのだ。
グリアモールは今、この遊戯に興じている。
ただのおもちゃに何も出来るはずは無いとたかを括っているのだから。
だから今も余裕の表情で私の挙動を眺めるに徹している。まあ実際表情などないので表情からはそれは読み取れないのだが。とにかく何かしてくる気は無いのだ。
私は小さく深呼吸し、ゆっくりと右手を上げグリアモールの目の前に翳した。