美奈はどうすべきか考えこんでいるのか、少し困ったように眉根を潜めた。
それも当然だ。大切な仲間を思う。それは簡単なようでけっこう難しい。言葉に具体性がなさすぎるから、いきなりそんな事を言われても誰だって困るだろう。
――けれどそれは想定内。

「美奈、聞いて――」

ここから彼女を覚醒へと導くために、今私はここにいるのだから。

「私たちはお互いを想い合ってる。こんなこと美奈にしか言えないかもしれないけど、私は美奈のことが自分と同じか、それ以上に大切だって思ってる」

私たちは互いに真摯な瞳で見つめ合う。
これは私の告白。自分にそう言い聞かせる。
とてもとても、命を睹しても守りたい、大切な存在へと向けた愛の告白なのだ。

「あなたは私のかけがえのない親友。私を庇って毒に侵されて苦しんで、こんなことをしてくれる友達他にいないよ。あの時私を助けてくれて、本当に感謝してもしきれないくらいだよ。私は美奈のこと、心から大好きって思える。何があっても守りたい、大切な大切な存在――」

どさくさに紛れて臭いセリフだなって自分でも思う。
けれど、これは私の本心。心からの気持ちだ。
こんなこと、きっと美奈にしか言えないんだと思う。
素直でまっすぐな美奈だから、私も彼女に誰よりも素直になれる。
そんな彼女は当然のように私の想いに応えてくれるんだ。

「――うん。めぐみちゃん、私もだよ? 私もめぐみちゃんや隼人くんや工藤くんの力になりたい。皆が苦しんでるなら一緒に――一緒に乗り越えたいっ!」

突如として美奈の体が光り輝いた。

「――っ! ……あつ……い……?」

彼女の体から煙が立ち上っている。
想像はしていたけれどマジか。
私は半ば呆れたように、けれどものすごく嬉しくて破顔してしまうのだ。
思っていた通りだ。
私の親友は、彼女の心はこんなにも強くて尊いのだ。
私は思わず彼女をもう一度その腕の中に抱きしめた。
もちろんすごく熱かったけれど、これが彼女の身体の奥底から発せられる温もりなんだと思ったら、なんていうことはなかったのだ。

「さすが私の親友! もう覚醒しちゃうなんてっ」

「あ……うう」

「頑張れ――美奈。すぐ終わるからさ」

美奈の柔らかい背中に手を回し、ぽんぽんとあやすように叩いてやる。
しばらく光に包まれていたけれど、やがてそれは私たちの時と同様、程なくして収まりを見せた。

「――これって……」

程なくして落ち着いた彼女は、不思議そうに自分自身を見つめながら立ち上がった。
そのままその場でくるくると回ったり、手を広げたり閉じたり。
そんな姿がとても愛らしくて可愛い。食べちゃいたい、――てそんな場合じゃないけど。

「……何これ? ……すごいよ? めぐみちゃん」

「うん、おめでとう美奈。そしてようこそこっち側へ! ――というか美奈は髪、白くなるんだね」

「え、そうなの!? あ、ほんとだ! あ、そう言えばめぐみちゃんもなんか雰囲気変わった? あっ、髪の色、緑色になってる?」

「――いや、気づくの遅すぎっ」

突然早口で捲し立てる美奈。
そのちょっぴり抜けている部分にズッコケそうになりながら私は苦笑する。
というか、私の髪の色の変化に気づくのが今さらな所とか反則でしょ。可愛いすぎ。

「あれ? ……あと」

「ん? 他にも何か?」

「目がよく見える……」

「あっ! そう言えば眼鏡失くしちゃってたよねっ。目も良くなったんだ」

美奈は元々目が悪く、眼鏡かコンタクトをしていたのだけれど、今は裸眼だ。
たぶんあっちの世界に置いてきちゃったんだと思う。
だから起きてからぼーっとしていたように見えたのかなと、今さらながらに思った。

「美奈。じゃあ魔族のいる場所に行こうと思うんだけど」

「あ、うん。――でもさ、ちょっといいかな、めぐみちゃん」

「ん?」

いよいよこれから戦いに身を投じようという時になって、美奈が不意に私の頬に手を添えた。

「――怪我してる」

心配そうに眉根を寄せる美奈。

「あ~、まあけっこう激戦を繰り広げてきたからね。まあ、勲章ってやつ?」

そう言いにへりと笑う。
私は戦いの中でかなりボロボロになっていた。
擦り傷はもちろん、頭を締めつけられた時に血が出たりしたのもあって、とにかく乙女らしくない姿ではある。
けれど戦いなのだから仕方ない。
幸い出血などは治りが早い分すぐに止まるし、生傷が絶えないけれど今は我慢するしかないのだ。
目が良くなったことにより、こんな心配をかけてしまうとは。

「別に大した傷じゃないわよ」

私はいらぬ心配をさせぬよう手をぱたぱた振りながらもう一度笑顔を向ける。

「――ちょっといいかな」

そんな私に美奈は、私の頭を両手で包み込みそのままふっと目を閉じた。

「――――え」

変な声が漏れた。
というのも、突然温かな光が手から発せられ煌めいたのだ。

「あつっ!?」

「めぐみちゃん、大丈夫だから、じっとしてて?」

直後、急に体の中が熱くなっていく。
私は驚き、一瞬ぴくんと体を跳ねさせたけれど、美奈の言葉に従いその場に止まり目を閉じる。
その熱は一度受け入れてみれば、熱いというよりは温かくてすごく心地の良いものだった。
まるでお母さんの温もりにでも当てられて、安らぐ気持ちが溢れてくるような、そんな心持ちになった。
離れた母親のことが急に思い出されて、ちょっぴりおセンチな気分になる。
しばらくするとそんな苦い心地よさは消え、同時に光も消え去った。

「――どうかな?」

手を引っ込めた美奈の言葉に、私は閉じていた目を開いた。
そこで私は目をみはる。
自身の体にあった傷が消えていたのだ。
もちろん痛みもきれいさっぱりなくなって、ほんの少しの気だるさだけが残っていた。

「美奈……これって?」

「うん。なんか出来るような気がして」

もじもじしながら照れくさそうにしている。そんな彼女はまたまた可愛い。

「これが美奈が目覚めた能力なのね? 美奈らしいわね。人を癒やす力なんて」

「――えへへ……なんか不思議だけどね」

ほんの少しの逡巡のあと、美奈はもじもじしながらはにかんで笑顔を見せる。
何それ可愛い。
女の子の私でも可愛いと思うのだから、隼人くんがメロメロの骨抜きの首ったけというのも頷ける。
本当に、隼人くんの幸せ者め。

「めぐみちゃん、じゃあ、行こっか」

「――うん。のんびりしてる場合じゃなかったわよね」

改めて美奈に促され、私はサムズアップを決める。
とにかく今は男の子チーム二人が心配なのだ。
私はすっくと立ち上がり、いよいよ外に出て戦う気持ちを作っていく。

「うん! 行こう!」

美奈の快い返事を受けた私は心強いことこの上ない。
胸の中はじんわりと熱く、外界に意識を向ければ今は思いの他静かだった。
焦燥に駆られるのは確かだけれど、私たちならきっとどうにかできる。
そんな確信めいた想いも、今はもうはっきりとした形となって胸にあるのだ。