「――えっと……色々ごめん、美奈」

――数分後。
何とか平静を取り戻した私はめちゃくちゃ猛省した。
美奈の前に俯いて向かい合うけれど、流石に恥ずかしすぎて顔が見れない。
本当に、時は一刻を争うというのに私ってばなんという体たらく。
もうバカバカッ。早く話さなきゃいけないのに何やってんのっ。
救いと言えば外が思ったよりも静かだということだった。まだきっと事は起こっていないと思うから。
ただ、静かすぎるのも逆に大丈夫だろうかと心配にはなるけれど。
とにかく外では未だ派手にドンパチやりあっているという様子はないのだろうとは思える。
色々自虐的な思考が止まらない私の膝の上に置いた手に、不意に美奈の手が重なる。
顔を上げると彼女は優しく私に微笑んでいた。

「めぐみちゃん。ゆっくりでいいよ? 急がば回れ、だからね?」

「あ、うん――」

そんな美奈の優しさに、再び涙腺が崩壊しそうになるのを既のところで堪え、私は大きく深呼吸するのだ。

「オッケー。だいぶ落ち着いた。話、続けてい?」

「うん、いいよ」

美奈の優しい微笑みはマジで破壊力が半端ない。
その事実を確認しつつ、私は頬をぱんと張り、瞬時に気持ちを切り替えた。

「――よしっ」

やっぱり吐き出すと人間頭の中がスッキリするものだ。
そこからは今まであった出来事を順を追って話していった。
丁寧に、できるだけ簡潔に。
――ここは異世界だということ。
――皆が美奈の毒を治すために頑張ったこと。
――皆が覚醒して信じられない力を得たこと。
――魔族が来て、今隼人くんと工藤くんが戦っていること。

「――そんな……そんなことって……」

一通り話して私はふうと短い息を吐く。
話を聞き終えた美奈は、酷く青ざめた顔をしていた。まるで再び毒に冒されたみたいだ。
流石に無理もないと思う。
私だって、冷静になると未だに信じられない。いや、信じたくなんかないもん。
異世界で魔物や魔族と戦う現実なんて、簡単には受け入れられないよ。
けれど今はそんな弱音をいつまでもぐちぐちと吐いている場合じゃない。
私は美奈の肩をしっかりと掴んでその憂いを帯びた瞳を見据えた。

「急にそんなこと言われても混乱するよね。私たちも訳わかんないよ。だけどね。これは現実に起こっていることなの」

コクコクと一つ一つの私の言葉を咀嚼するように、美奈は私の話に聞き入っていた。
そんな姿はとても愛らしく、いつも通りの彼女に私はどこかホッとしていた。

「今ね、隼人くんと工藤くんが戦っている相手は本当にヤバすぎる化け物で、早く私たちも合流しないと2人の命が危ないかもしれない。ううん。私たちが合流した所で事態は何も変わらないかもしれない。だけどね。だからって、放っておけるわけないよね?」

じっと私の瞳を見つめる美奈。
やがて彼女は口の端を緩め、にっこりと微笑んだ。

「うん、わかったよめぐみちゃん。それで、私はどうすればいいの? 私も皆の役に立ちたい」

「――っ」

この切り替えの早さ。美奈のこの芯の強さには時々驚かされる。
同時に少しだけ悔しい気持ちなんかも溢れてきて、でも嬉しい気持ちの方がそれに勝る。
美奈も不安だろうに。
まるでそんな事、無かったかのように。
動揺も不安も焦りも、全部どこかに置いてきてしまったんじゃないかっていうくらい、まっすぐな瞳の輝きを私に見せつけてくれるのだ。
私はきゅっとほんの少しだけ、唇の端を噛む。

「うん、それでね? あの魔族は物凄く強いけど、私たちを殺すことはしなかった。結局のところ、それは別に目的があるからなんだと思うの」

「別の……目的」

美奈の呟きに私は深く頷く。
そして美奈の顔の前にぴんと人差し指をおっ立てた。

「恐らくそれは、私たちを覚醒させることと、その能力を見ることよ」

「――覚醒――ん、分かった。じゃあどうすれば覚醒できるのかな?」

覚醒という言葉の響きに眉根を寄せながらもしっかりと心は前を向いている。
これこそが彼女の強さなんだと思う。
自然と口元が綻んでしまう。

「うん。実はもう私たち3人は覚醒してる。だから分かった。覚醒にはある共通する条件があるってこと」

「うん」

私は彼女の肩に手を置き、少しの間を置き息を吸い込みこう告げた。

「――自分の大切な仲間を想う気持ちが強くなった時だよ」