「美奈! 美奈! 起きて!」
薬が効いて安らかに寝息を立て始めた美奈を、揺すって無理やり起こそうとする。
毒との戦いで、きっと彼女はかなりの体力を消耗している。
このまま休ませてあげたいのは山々なのだけれど、そういうわけにもいかないのだ。
今は一刻を争う。
私たちの代わりに美奈を看病していてくれていた村長さんとメリーさんは、先程村の皆と共に教会の方へと避難してもらっていた。
何かあった時に一ヶ所にいてくれた方が守りやすいから。
今この場所には私と美奈の二人きり。
胸の焦燥とは裏腹に、部屋の中はやけに静かだ。
「う……う……ん」
「美奈……」
未だ額に汗を滲ませつつ、彼女の目がようやく開かれた。
視点は定まらず、ぼんやりと天井を見つめている。
そんな彼女の顔には赤みが差して、最早毒の後遺症はほとんど無さそうに見えた。
私は安堵の息を漏らしながらも、彼女の視線を遮るように顔を覗きこんだ。
「起きた? 美奈」
「――めぐみ……ちゃん? ……ここは?」
「――美奈! ……よかった!」
私はそれだけで胸が苦しくて涙が出そうになる。
そんな自分を見られたくなくて、無理矢理彼女を抱きしめた。
もちろん力は入れすぎないように。
「……私、確か変な獣に噛まれて……それで」
少しずつ記憶の断片が掘り起こされて繋がっていく。
彼女の頭の中に、うっすらと今の状況が思い出されていっているようだ。
私は彼女に気づかれないように目尻の涙を拭い向かい合った。
「うん。――美奈、あの時は私を庇ってくれて本当にありがとう。信じられないかもしれないけど、ちゃんと聞いてほしい。今から私が言うことは、嘘じゃないから」
「え? ……う、うん」
感動の再会はこのくらいにして、私は美奈をベッドに起き上がらせ、座らせる。
まだクラクラするのだろう。ふらついて倒れそうになるのを優しく手で受け止めて、支えて。
彼女の背中をさすりながら柔らかな感触と温もりに胸がいっぱいになる。
彼女に微笑もうとするけれど、上手く笑顔が作れなかった。
――――本当に、助かったんだ。
「めぐみちゃん?」
「――あ」
いぶかしむ美奈の表情に、私はまた涙が溢れてしまっていることに気づく。
「私ったら、こんな場合じゃないのにっ」
乱暴に目尻や頬を拭うけれど、手が濡れていくばかりで、全然止められない。
その度にどんどんと募っていく焦り。こんな場合じゃないのにっ。
焦燥に駆られる私の肩に、そっと温かい手が乗せられて。
顔を上げると涙でぼんやりと輪郭の薄れた美奈の顔があった。
「めぐみちゃん、大丈夫だから。焦らないで?」
「――ごめん美奈。ちょっと、泣く」
「ん、いいよ」
そうして美奈は私の背中に手を回し、優しく包み込むように抱きしめてくれた。
急がなきゃいけないのにどうしても気持ちが切り替えられない。
私はほんとダメだ。
「めぐみちゃん。きっとすごく頑張ったんだね」
「――!! ……そんな言葉……反則じゃん……」
美奈の優しい声音に堪らず嗚咽が口から漏れ出た。
堪えきれそうになくて、彼女を強く抱きしめる。
覚醒した私の力でどうにかしてしまうんじゃないかと思ったけれど、今は細かいことが考えられない。
これまでの様々な記憶が、もうそれは走馬灯みたいによみがえってきて。すごく苦しくて、色々限界だったみたいだ。
「うっ……うっ……美奈……美奈……。良かった。本当に良かった……おかえり、美奈」
「うん、ただいま。めぐみちゃん」
彼女はそんな私の背中に手をやり、幼な子をあやすみたいにぽんぽんと叩いては撫でてくれる。
もう無理、とてもじゃないけど止められそうもない。
「うっ……わああああああああっ!!」
そこからはしばらく嗚咽が止められなかった。
美奈は泣き続ける私のことを、何も言わずに温かく抱きしめてくれていた。
彼女の匂いに包まれて、涙は後から後から流れ続けている。
薬が効いて安らかに寝息を立て始めた美奈を、揺すって無理やり起こそうとする。
毒との戦いで、きっと彼女はかなりの体力を消耗している。
このまま休ませてあげたいのは山々なのだけれど、そういうわけにもいかないのだ。
今は一刻を争う。
私たちの代わりに美奈を看病していてくれていた村長さんとメリーさんは、先程村の皆と共に教会の方へと避難してもらっていた。
何かあった時に一ヶ所にいてくれた方が守りやすいから。
今この場所には私と美奈の二人きり。
胸の焦燥とは裏腹に、部屋の中はやけに静かだ。
「う……う……ん」
「美奈……」
未だ額に汗を滲ませつつ、彼女の目がようやく開かれた。
視点は定まらず、ぼんやりと天井を見つめている。
そんな彼女の顔には赤みが差して、最早毒の後遺症はほとんど無さそうに見えた。
私は安堵の息を漏らしながらも、彼女の視線を遮るように顔を覗きこんだ。
「起きた? 美奈」
「――めぐみ……ちゃん? ……ここは?」
「――美奈! ……よかった!」
私はそれだけで胸が苦しくて涙が出そうになる。
そんな自分を見られたくなくて、無理矢理彼女を抱きしめた。
もちろん力は入れすぎないように。
「……私、確か変な獣に噛まれて……それで」
少しずつ記憶の断片が掘り起こされて繋がっていく。
彼女の頭の中に、うっすらと今の状況が思い出されていっているようだ。
私は彼女に気づかれないように目尻の涙を拭い向かい合った。
「うん。――美奈、あの時は私を庇ってくれて本当にありがとう。信じられないかもしれないけど、ちゃんと聞いてほしい。今から私が言うことは、嘘じゃないから」
「え? ……う、うん」
感動の再会はこのくらいにして、私は美奈をベッドに起き上がらせ、座らせる。
まだクラクラするのだろう。ふらついて倒れそうになるのを優しく手で受け止めて、支えて。
彼女の背中をさすりながら柔らかな感触と温もりに胸がいっぱいになる。
彼女に微笑もうとするけれど、上手く笑顔が作れなかった。
――――本当に、助かったんだ。
「めぐみちゃん?」
「――あ」
いぶかしむ美奈の表情に、私はまた涙が溢れてしまっていることに気づく。
「私ったら、こんな場合じゃないのにっ」
乱暴に目尻や頬を拭うけれど、手が濡れていくばかりで、全然止められない。
その度にどんどんと募っていく焦り。こんな場合じゃないのにっ。
焦燥に駆られる私の肩に、そっと温かい手が乗せられて。
顔を上げると涙でぼんやりと輪郭の薄れた美奈の顔があった。
「めぐみちゃん、大丈夫だから。焦らないで?」
「――ごめん美奈。ちょっと、泣く」
「ん、いいよ」
そうして美奈は私の背中に手を回し、優しく包み込むように抱きしめてくれた。
急がなきゃいけないのにどうしても気持ちが切り替えられない。
私はほんとダメだ。
「めぐみちゃん。きっとすごく頑張ったんだね」
「――!! ……そんな言葉……反則じゃん……」
美奈の優しい声音に堪らず嗚咽が口から漏れ出た。
堪えきれそうになくて、彼女を強く抱きしめる。
覚醒した私の力でどうにかしてしまうんじゃないかと思ったけれど、今は細かいことが考えられない。
これまでの様々な記憶が、もうそれは走馬灯みたいによみがえってきて。すごく苦しくて、色々限界だったみたいだ。
「うっ……うっ……美奈……美奈……。良かった。本当に良かった……おかえり、美奈」
「うん、ただいま。めぐみちゃん」
彼女はそんな私の背中に手をやり、幼な子をあやすみたいにぽんぽんと叩いては撫でてくれる。
もう無理、とてもじゃないけど止められそうもない。
「うっ……わああああああああっ!!」
そこからはしばらく嗚咽が止められなかった。
美奈は泣き続ける私のことを、何も言わずに温かく抱きしめてくれていた。
彼女の匂いに包まれて、涙は後から後から流れ続けている。