風も吹かない、光も届かない。
おおよそ生き物が奏でる物音もしない。何もない静謐な空間の中。

「クックックッ……楽しいねえ……こんな気持ちは久しぶりダ」

表情からは一切の感情は読み取れない。
まるで能面のように変化を見せないのだ。
ただ、その声の響きからは嘲りや愉悦といった感情が入り混じっていることだけは感じ取れた。

「……でも、まだまだだ。……こんなんじゃあ私達魔族は全く満足しようガナイ。彼らにはこれからもっともっと頑張ってもらわなくちゃネエ……」

彼の者を取り囲むその空間には色が無かった。
目に映るその全ての色がグレイな世界。
それはひっそりとその場に佇み続けている。
ねっとりとした湿り気のある眼差し。
それを彼らへと向け、じっとしてただただその時を待っているのだ。

「ククククク……」

その声音だけが空間に響き渡る。
そんな事は今の彼らは知る由もなかったのだ。