椎名は呻きながらよろけて右肩を押さえながら片膝をつく。
痛みに顔をしかめるが、今は痛がっている場合でも無さそうだ。

「くっ……」

椎名は直ぐ様先程の物体を注視するが、それはもう再び地面に潜っていってしまった後。

「しっ、椎名ぁ!」

慌てて工藤が駆け寄ろうとするが、椎名はそれを手で制する。

「来ないで! もしあれを食らったのが私じゃなかったら、手が吹き飛んでたかも」

そう言う椎名の右腕は肩を脱臼したのかだらんとぶら下がるようになっていた。それが痛々しくて見ていられない。

「工藤くん! その剣貸して!」

「……わかった! ほらよっ!」

言われるままに手に持つ剣を椎名に投げてよこす。
私達は大人しく後ろで待機しているしかなかった。きっと足手まといにしかならないから。ここは椎名を信じるしかない。
すると次の瞬間、再び先程の生き物が地面から弾丸のように出てきた。

「ボンッ!!!」 という音と共に地面から弾丸のように射出され、一直線に椎名に向かう。
正に目にも止まらぬ速さだ。
だがその尋常では無いスピードの物体を、これまた尋常では無い剣捌きでその生き物に斬りつける。
「ガギンッ!」 と鈍い音を響かせて両者は仰け反るようにしてお互いに跳ね飛ばされた。

「あうっ……!」

恐らく椎名は今の一撃でその生き物を切断しようとしたのだろうが、思いの外硬かったのだろう。
剣は弾かれて思う結果には繋がらなかったようだ。
魔物の方はというと、攻撃の後はすぐに地中へと潜り込んでいく。隙がない。

「ダメッ! 地面の中は感知出来ない! 剣でも硬くて斬れないわっ!」

いつになく弱気な声を上げる椎名。
表情はかなり辛そうだ。
右肩を押さえて足がふらついている。かなり不味い状況だ。
遠くからで良くは見えなかったが、今椎名が戦っているのはもぐら魔物のようであった。
硬い自身のの体を硬球のように地面から射出させ、体当たりで相手を砕く攻撃だ。
地面からの攻撃なので、椎名の風を感じる力では、外に出てくるまでは何処にいるか解らないのだ。
このままではジリ貧だ。
というかあの状態では倒す所かそう長くは持たないのではないか。
そうこうしているうちに第三波、第四波ともぐらの魔物の体当たり攻撃が次々と打ち出される。
速すぎて流石の椎名も弾くのがやっとだった。
しかも利き腕でない左手に持っている剣でその芸当をやってのけているので、尚更だ。
更にその衝撃が右肩に伝わって、弾く度に顔をしかめていた。

「くそっ! 椎名、あれヤバイじゃねーか! 何とか出来ねーのかよ!」

工藤が堪らず叫ぶ。
確かにこのままでは椎名の命が危ない。

「きゃあっ!」

「椎名ぁ!!」

ついに椎名が魔物の体当たりを受けて剣を手放してしまった。
カランカランと硬質な音が洞窟の中で反響し、おぞましいワルツのような響きに聞こえた。

「くっ! ふっざけんなあ……もぐら野郎ぁ……! しい……なに……手を……出すんじゃ……ぐ……あ……あ……」

その時突然工藤が苦しみだした。体が光り始め、煙を上げている。
一目見て解る。
これは椎名の時と同じ現象だ。
だがこのままでは、工藤が力を得る前に椎名がやられてしまう。
私はそこでゴクリと唾を飲み込んだ。

「椎名!」

全速力で椎名の元に駆けていき、短剣を握り締めた。

「隼人くん?」

「椎名! 工藤が覚醒する! 後一度、あの魔物の攻撃を凌げば何とかなるかもしれないのだ!」

うずくまっていた椎名は顔を上げて私の剣の柄を握った。

「わかった……さっきまでの攻撃で腕がしびれちゃって……、私が合わせるから隼人くんは思いっきり弾いて!」

「承知したのだ」

私はもう一度ゴクリと唾を飲み込む。
その瞬間地面からあの魔物が飛び出して来た。
間近で見るとそのスピードの凄まじさがより分かる。出て来たと思ったらそれはもう目の前にいて、椎名に剣をぐいっと動かされると魔物の頭の真ん中に当たった。
私は剣を取りこぼさないように両手にありったけの力を込める。

「ぐおっ!」

物凄い衝撃だったが剣を何とか取り落とすことなく魔物を弾くことが出来た。
再び魔物は地面に潜ってしまった。
それを確認して工藤の方を振り向く。
するとどうやらあの光は収まったようだった。
しかし工藤はうずくまったままぴくりとも動かない。
まさか気絶しているのか?

「工藤! 大丈夫か!?」

「……工藤くん!」

「――ああ。聞こえてるっての」

ゆらりと立ち上がる工藤。
どういう訳か髪の色が変化し、茶色くなっていた。
顔には自信たっぷりの笑みと、妙な威圧感がある。
その圧力の原因はよく分かる。工藤は今、めちゃくちゃ怒っているのだ。

「すまねえな椎名。今まで無理させて」

「……たまには男見せろ。バカ」

椎名は力尽きるようにガクッと膝をついた。
だがその表情は安堵に満ちているように感じられる。

「――ああ」

工藤はそう言ってその場にしゃがみ込んだかと思うとそっと地面に手を着いた。

「おらあっ!」

列箔の気合いと共に地面にミシリと亀裂が入った。

「……終わったぜ」

「……え? ……何だと?」

すると地面から赤い魔石が一つポトリと飛び出して来た。
どういう原理かは分からないがあれだけの事でこれまで散々苦戦していたあの魔物を葬り去ったというのか。

「……土」

椎名がぼそりと呟いた。それに工藤が頷きで返す。

「ああ。どうやら椎名は風属性で俺は土属性ってことらしいな」

自信たっぷりに答える工藤。椎名はそれを聴いてクスリと笑った。

「……地味。私的には火とかの方がしっくり来たんだけど」

「え!? せっかくかっこよく決めたのにひどくねーすか!? 椎名さん!?」

一時はどうなる事かと思ったが、相変わらずの減らず口を叩くようなら椎名は大丈夫か。
そんな椎名の言葉を受けてあたふたする工藤。
気づけばそこはいつの間にか私達の空気感に満ちていた。
それを見て私も安堵のため息を洩らす。
本当に、本当に良かった。