かなり精神力と体力を削られた。いや、正直もう限界、というのが本音かもしれない。
一度ここいらで休憩しようという事になった。
私達は木陰に腰掛け、村長に持たせてもらった食事にありつく。
サンドイッチだ。こんな異世界くんだりでもこういった食べ物はあるのだ。
中身はよく分からないが、香草の香りが鼻をくすぐり食欲をそそられる。
私はそれに思いきりかじりつき頬張った。

「――美味い!」

口の中一杯に広がる野菜や何かの動物の肉汁が胃の中に流れ込んできて、きゅうと歓喜にのたうち回る。思っていた以上に空腹だったのだ。
神経がすり減って緊張の糸が張り詰めっっぱなしだったからか、そんな当たり前の欲求すらも鳴りを潜めてしまっていたようだ。
陽光に照らされながら、木の葉が風にカサカサと揺れる音を聴いていると、嘘のように穏やかな心持ちになった。
先程までの鬱屈とした気分も、晴れ晴れとまではいかないが、幾らかマシには思えた。
何とか一つ難を乗り越えた。
まだまだ移動は始まったばかり。こんな事では先々思いやられる。
だがそれでも無事に最初の危機を乗り越えられたことは、自分にとっての大きな経験となったような気がしていたのだ。

「――それでは行くとするか」

食事を終え、しばらく休憩を挟んだ後。
再び洞窟へと歩を進めようと私は立ち上がった。

「おい、隼人!」

するとその動きを遮るように工藤が声を掛けるてく。
何事かと振り向くとその意図は聞くまでもなく明らかであった。
そこには一際太く立派に立っている木にもたれ掛かり、すやすやと穏やかな寝息を立てている椎名の姿があったのだ。
やはり私達が思っているよりも椎名の消耗は激しいのだろう。

「隼人、高野には悪いけどよ。もう少しだけ休んで行かねえか?」

そう言い工藤は木陰に座り直した。

「うむ。もちろんだ」

私も急ぐ気持ちはあれど、もう少し椎名を休ませる事には賛成だった。
快諾し、再びその場に腰を下ろした。

「……しかしよ、俺らも全然かっこつかねえよなあ」

「ん……、そうだな。何もかも椎名におんぶに抱っこなのだ」

工藤は昨日から暇さえあれば剣を引き抜き、眺めたり構えたりしている。
時折陽の光に反射して刀身が黒光りする様は中々に壮観だ。
剣を見つめる工藤はまるで格好いい玩具を与えられた子供のようにも見える。

「何とか力になりてえけどよ。今の俺たちじゃ魔物一匹とすらまともにやりあえねーもんな」

「……うむ」

その点に関しては全く否定出来ない。私は黙って工藤の話を聞いていた。

「だけど俺ぁぜってえ今日、椎名と同じ力を得てみせるぜ。さっき戦いの中に身を置いて、確信はねえけどよ、何か掴めそうな気がすんだよ」

「……そうなのか?」

確かに極限状態に身を置く方が人の成長は促せるものだとは思う。
だが果たして、そんなに都合よくいくものなのだろうか。
かくいう私は先程あれだけの目に合っても感じたのは恐怖とか、悔しさとか、そういった感情だけだ。
自身の身に何か変化が起こるなど、到底考えられなかった。
例えば急に体が熱くなるとか。そんな事が果たして何かのきっかけであり得るのだろうか。

「ああ。これ以上男として守られるわけにはいかねえからな」

強い意思の宿った瞳で虚空を見つめている工藤。
いつになく真剣な友人の表情を見て、私自身も身の引き締まる思いであった。
かといって先程のような切迫した追い詰められるような気持ちではない。
何か一つの目標に向けて皆で手を取り合い、力を合わせ、大きな結果を生み出せるような。そんな確信めいた強い想いが私の中に渦巻くというか。
そう思うと私も工藤と同様幾らか高揚しているのかもしれないなとは思えたのだ。
私も椎名と同じ力を得られれば。
流石に私も素直にそう思う。最早何か自分の身に良からぬ影響があるかもしれないとか、そんな心配をしている場合ではない。
それよりも早く能力に目覚め、自身の身を守れるようにする事の方が今は大事なのだと思うのだ。
覚醒により強い力を得る。
きっとそれは不可能な事だとは思わない。
いや、可能にしなければ。
一見すれば奇跡のような不可思議な出来事のようではあったが、今目の前で多くの奇跡的な力を目の当たりにしてきて、それがさも当たり前のような現実的な力に思えてきてはいるのだ。
ただそうなる為には恐らく幾つかの条件が必要なのだろう。
心の動き。
それがきっかけになるとは思うのだが。
心を動かす、などとそんな抽象的なことを簡単に実行出来るわけでもない。
たとえば美奈が椎名を庇って毒に侵されてしまったように、誰かが命の危険に晒されるような状況が出来上がったとしたら。
それによって心の動きというものも現れるかもしれない。
だがそのために仲間をわざわざ死地に追いやるような馬鹿な真似は出来ない。
それこそ本末転倒だ。
結局はこれから待ち受ける危険に、行き当たりばったりで立ち向かうしかないのだとそう思う。
そんな中で私と工藤も覚醒に至るしかないのだろう。
それを思うと心が先程のような恐怖で満たされる。
できることならばあんな想いはもうしたくないと。
苦しい想いの先に輝きを掴むなど、正直御免被る話だ。
本当に、何故こんなことになってしまったのか。
気づけば愚痴のような感情が巡ってきてしまっている。
くそ、この意気地なしめ。
私は自身の情けない考えに辟易し、そこで一度思考を切ることにしたのだ。