「椎名あああああああっっっ!!!」

 光の檻から解放された俺は体が自由になったのを感じながら、心の中が空っぽになるような、そんな想いでただただ虚空を見つめていた。

「……なんだよ……これ」

 体は広場をすごいスピードで離れていく。
 右手にはアイツが肌身離さず持っていてくれたであろうユニコーンナックルが握られていた。
 最後の瞬間、俺はアイツにこのナックルで吹き飛ばされたのだ。
 殴られたような衝撃に体は痛みを訴えたけど、正直そんなこと、どうでも良かった。
 悲しみよりも自分が情けなくて。何でこんな事になっちまったんだろう。
 俺がこうして敵に捕まっちまったから。
 迂闊で楽観的な自分に嫌気がさしてくる。
 何であの時俺は一人で突っ走っちまったんだ。
 もう少し冷静になればこんな結果にならずに済んだかもしれないのに。
 周りの景色が鮮明に見え始める。
 ユニコーンナックルに取り付けた魔石の輝きが少しずつ失われていくことにより眩しさから解放されて視界が開けたのだ。
 それはまるで椎名に宿る命の輝きそのものが失われていくかのようだった。
 俺は……守られてしまったのだ。

「……なんなんだよ……くそ……」

 虚空を見つめながら再び呟く。そして思う。
 また俺は――まだ俺は、守られる側なのか。
 最初からずっとそうだった。
俺はこの世界に来てからというもの、誰かに守られることはあっても、誰かを守れたことなんて一度もない。
 どんなに守りたいと願っても、その想いが成就したことはない。
 今だってそうだ。
 俺は誰よりも、何よりもアイツを守りたいんだ。
 いつも明るく振る舞ってるけど、意外に寂しがり屋で。
 誰よりも友達想いで、自分が傷つくことも厭わない。
 自分よりも周りのことばっかり考えてやがる。
 本当は苦しいはずなのに。本当は泣き叫びたいはずなのに。
 そんな危なっかしいアイツを誰よりも守りたい。そう、思っているのに。
 なのに。
 なのに何で俺が守られてんだよ。
 誰よりも、何よりも、こんな無力な自分を許せない。
 こんな自分に、吐き気がする。

「――くそがあああああああああああああっっっ!!!!」
 
 俺は断末魔の叫びにも似た慟哭を星がキラキラと輝く夜空へと向けて放った。