「もういい椎名っ! ……逃げろおっ!」
「――っ」
心に雫が落ちて、水面に波紋が広がっていくような、そんな感覚。
「ガウ……」
周りのレッサーデーモンは、工藤くんの声にほんの一瞬だけど動きを止めた。
あいつの声が届いて、彼らの隙間から少しだけ顔が覗いていた。
工藤くんと目が合う。
――あんたなんて顔してるのよ……。
胸がズキリと痛んで、苦しい。
私は少しの哀しみと大きな怒りと、そしてどうしようもないやるせなさに包まれた。
さっきまでの決意は、一体何だったのだろうか。
彼のたった一言で、その言葉だけで、ここまで簡単に、単純に瓦解してしまうものだなんて。
ああ――情けない。
今までの激情が一瞬にして冷却化されてゆき、私は彼のどうしようもない優しさに充てられながら、本当の意味で覚悟を決めたんだ。
「……ごめんね」
『シーナ! 何を!?』
「ディバイン・ テリトリー!!」
シルフの制止も無視して、私は最後の技の発動に至った。
技の仕切り直し。いや、目的のすげ替えだ。
思考が再構築されたことで光の軌跡が軌道を変えて私の目の前に再誕した。
一筋の光の曲線が私が今後辿るべき道を指し示す。
不思議とさっきのような頭の痛みはなかった。
理由は――よく分からない。いや、もう理由なんてどうだっていいんだけど。
私の取るべき行動が至って単純だからだろうか。
それとも私の心ごと全部吹っ切れてしまったからだろうか。
何にせよ私は全部お構いなしにその光を辿り、一直線に工藤くんの元へと疾駆した。
「エンチャント・ストーム!!」
マインドを動力へと注ぎ込みつつ、ユニコーンナックルに残った魔力の残滓と搾れるだけ搾り取った私の全てを込める。
ユニコーンナックルは私の気迫に呼応するように眩い光を放った。
私は自身の技が指し示す光の道を辿る光の矢となり、彼の囚われた光のドームへと突き進む。
体は魔族の爪やら拳やらブレスやらで火傷のような裂傷のような、とにかくたくさんの傷を刻みつけられた。
けれどそれでも私の歩みを、進度を阻むほどの効力までは発揮するに至らない。
この想いは今さらどうやったって曲げられはしないんだから。
もう彼は私の目の前だ。
ここまでくれば流石に目はしっかり合って、彼はどうしようもなく情けない顔をして出迎えてくれて、何かを私に言ったような気はするけれど、それは色々なたくさんの音に掻き消されて何を言ったのかは分からなかった。
私は迷いなく眩いまでの光の中へと飛び込んだ。
光の中へと入り込めたかと思うと、途端に私の力が体から消え去っていく感覚に見舞われて、なるほどこれが、なんてことを他愛もなく思った。
私はユニコーンナックルに込めた最後の力を彼へとぶつけ、そのまま光の檻から追い出した。
光から出た彼の体は私の暴風に当てられてそのまま遠くへと飛ばされていって――。
その時の彼の顔と来たら。本当に情けなくてこんな状況なのに笑いが込み上げて来そうだった。
「ばか……ばか工藤」
とさりと仰向けに倒れ空を見上げる。
これで私がやるべきことは終わった。助けたい人は助けられた。
「終わった……」
いざやってみればとても簡単なことだった。
終わってみれば本当にあっさりと遂行出来てしまった。結局は覚悟の問題だったみたいだ。
私は強い満足感に包まれて、失われていく力と相まって霞んでいく星空がとっても綺麗だと思う。
そんな最中、私はポツリと最後に呟いた。
「工藤くん……とにかくさ……あなたが生きて」
「――っ」
心に雫が落ちて、水面に波紋が広がっていくような、そんな感覚。
「ガウ……」
周りのレッサーデーモンは、工藤くんの声にほんの一瞬だけど動きを止めた。
あいつの声が届いて、彼らの隙間から少しだけ顔が覗いていた。
工藤くんと目が合う。
――あんたなんて顔してるのよ……。
胸がズキリと痛んで、苦しい。
私は少しの哀しみと大きな怒りと、そしてどうしようもないやるせなさに包まれた。
さっきまでの決意は、一体何だったのだろうか。
彼のたった一言で、その言葉だけで、ここまで簡単に、単純に瓦解してしまうものだなんて。
ああ――情けない。
今までの激情が一瞬にして冷却化されてゆき、私は彼のどうしようもない優しさに充てられながら、本当の意味で覚悟を決めたんだ。
「……ごめんね」
『シーナ! 何を!?』
「ディバイン・ テリトリー!!」
シルフの制止も無視して、私は最後の技の発動に至った。
技の仕切り直し。いや、目的のすげ替えだ。
思考が再構築されたことで光の軌跡が軌道を変えて私の目の前に再誕した。
一筋の光の曲線が私が今後辿るべき道を指し示す。
不思議とさっきのような頭の痛みはなかった。
理由は――よく分からない。いや、もう理由なんてどうだっていいんだけど。
私の取るべき行動が至って単純だからだろうか。
それとも私の心ごと全部吹っ切れてしまったからだろうか。
何にせよ私は全部お構いなしにその光を辿り、一直線に工藤くんの元へと疾駆した。
「エンチャント・ストーム!!」
マインドを動力へと注ぎ込みつつ、ユニコーンナックルに残った魔力の残滓と搾れるだけ搾り取った私の全てを込める。
ユニコーンナックルは私の気迫に呼応するように眩い光を放った。
私は自身の技が指し示す光の道を辿る光の矢となり、彼の囚われた光のドームへと突き進む。
体は魔族の爪やら拳やらブレスやらで火傷のような裂傷のような、とにかくたくさんの傷を刻みつけられた。
けれどそれでも私の歩みを、進度を阻むほどの効力までは発揮するに至らない。
この想いは今さらどうやったって曲げられはしないんだから。
もう彼は私の目の前だ。
ここまでくれば流石に目はしっかり合って、彼はどうしようもなく情けない顔をして出迎えてくれて、何かを私に言ったような気はするけれど、それは色々なたくさんの音に掻き消されて何を言ったのかは分からなかった。
私は迷いなく眩いまでの光の中へと飛び込んだ。
光の中へと入り込めたかと思うと、途端に私の力が体から消え去っていく感覚に見舞われて、なるほどこれが、なんてことを他愛もなく思った。
私はユニコーンナックルに込めた最後の力を彼へとぶつけ、そのまま光の檻から追い出した。
光から出た彼の体は私の暴風に当てられてそのまま遠くへと飛ばされていって――。
その時の彼の顔と来たら。本当に情けなくてこんな状況なのに笑いが込み上げて来そうだった。
「ばか……ばか工藤」
とさりと仰向けに倒れ空を見上げる。
これで私がやるべきことは終わった。助けたい人は助けられた。
「終わった……」
いざやってみればとても簡単なことだった。
終わってみれば本当にあっさりと遂行出来てしまった。結局は覚悟の問題だったみたいだ。
私は強い満足感に包まれて、失われていく力と相まって霞んでいく星空がとっても綺麗だと思う。
そんな最中、私はポツリと最後に呟いた。
「工藤くん……とにかくさ……あなたが生きて」