『いいのかい? シーナ』
一瞬外へと出てきたものの、もう私の中へと戻ったシルフ。
精霊はこちらの世界では人を媒介にしてじゃないと存在できない。
外に出続けるのはキツいのだ。
「いいって何がよ」
『いや、ボクの主は無茶するなあと思ってね』
「しょうがないでしょ。騎士さんたちがいい人だって分かったんだから」
『うん、そうだね。でも、君も大概お人好しだよね』
「――うっさい」
私はほんの少し嬉しそうに聞こえるシルフの反応を素っ気なく返しながら、暴風の塊を自身の胸の前で練り込んでいく。
それはどんどん大きくなっていき、暴風のサッカーボールのような玉となった。
「はああああ……ストームキャノン!!!」
私の手を離れたそれは、一直線にレッサーデーモンの群れへと飛んでいく。
地面に着弾したそれは周りにいた者たち全てを呑み込んだ。
「ギュワアアアァッ……!!」
断末魔の悲鳴を上げながら塵と消え行くレッサーデーモンその数数十体。
その後にはレッサーデーモンで敷き詰められていた広場に僅かな一本道が生まれる。私の狙い通り。
「皆今だっ! 走れっ!」
「「はいっ!」」
隊長のかけ声と共に走り出す騎士たち。
流石に行動が早い。言わなくても私の意図を察してくれるのも良き。
こうして少しの隙をついて彼らは広場の外へと躍り出た。
何体かのレッサーデーモンが彼らを執拗に追い回しているみたいだったけれど、もはやそれくらい大した障害にはならないだろう。
「ゴハアッ!!」
彼らを見送る私の不意を突くように、四方からレッサーデーモンが私へと詰め寄ってきた。
「エンチャント・ストーム!」
両腕に暴風を纏わせ、それを一瞬で蹴散らす私。
その凄まじい威力にたじろぐレッサーデーモンたち。
「それじゃああんたたち! かかってきなさいよ!」
「ゴバアア!!」
私の声に呼応するようにレッサーデーモンの群れが襲い来る。
そこからは堰を切ったように次から次へとレッサーデーモンの群れが押し寄せてきた。
というかこんな可愛い美少女に寄ってたかってとかほんとどういう神経してるのかしら。
「はああっ!!」
彼らの攻撃を既の所で避け、避わし、往なし、飛び上がり、次々と葬り去っていく。
『本当にここにいる全てのレッサーデーモンを倒すつもりかい?』
戦いの最中にそう語り掛けてくるシルフ。いや、その話はもう済んでるんですけど。
私は少し、辟易した。
この術を止めるための考え得る他の方法。
それは工藤くん自身の息の根を止めること。
これならマインドの供給源が根本から絶たれるのだ。止まらない道理はない。
きっとこれがどんなやり方よりも確実な方法だ。
だけどそんな選択肢、あって無いようなものだ。
私がどうして工藤くんを自身の手に掛けるなんてことができようか。そんなバカな真似、何があってもするはずない。
だから私はもう一つの無茶を実行することにした。
それはここに現れる魔族を全て倒しきってしまう事。
魔族がどんどん湧いてくるとはいえ、決して無限ではないはず。
それなら話は簡単だ。打ち止めになるまで倒して倒して倒しまくってやればいい。
それがたとえ、千や二千だとしても。
今の私は完全に精霊の力を使いこなせるまでになった。それくらいのこと、やってやれなくはないはずだ。
少なくとも可能性は0じゃない。
これが皆が助かる唯一の方法だというのなら、やってやろうと思える。
「はああっ!!」
私は迫りくるレッサーデーモンをバッサバッサと紙切れのように切り裂いていく。
もう何体倒しただろうか。
五十体を越えた辺りから完全に数えるのを止めてしまった。
「……シルフ、ありがとね。私のわがままに付き合ってくれて。大好きよ」
私はどんな時でも一緒にいてくれるこの小さな相棒を改めて心の底から愛しく思った。
そして、心の底から感謝するのだ。
『……やっぱり君はズルいよね』
「知らなかった? 私けっこうズルい女なのよ?」
顔は見えないけれど、声音から判断するに少し照れているようだ。
何だかんだでシルフはかわいいやつ。
私は飛び散る緑の鮮血に晒されながら一度高く空へと飛び上がり、広場全体を見やる。
広場にいるレッサーデーモンはもう二百体はいるだろうか。
「ブッハアア!!」
「ゴバアッ!!」
そしていよいよその全てが私に狙いを定めたようだ。
中空にいる私目掛けて度々幾条のヒートブレスが飛んでくる。当たりはしないけどね。
けれど、眼下に広がる地獄絵図のような景色に身体が冷えていく感覚を覚えていく。
魔族はそうこうしている間にもどんどん増え続け、広場には収まりきらなくなってきている。ゴクリと自然に喉が鳴った。
何体かは広場の外へと行ってしまったりもしている。
それらのレッサーデーモンは先ほどの騎士たちに何とかしてもらうしかない。
工藤くんは無事だろうかと思う。
視界の見通しが悪すぎて、彼の姿がもう目視できないのだ。
きっとまだあの場所に横たわっているのだろうけれど、近くにいるはずの彼の存在がとても遠くに感じられた。
少し前まではあんなに側にいたのに――。
「ああっ、ダメダメ! こんなんじゃっ!」
私は自分を奮い起たせながら一度思い浮かべた工藤くんのアホ面を脳裏から無理矢理消し去る。
心の中のアイツはいつも通り間抜けな顔で笑っていた。それを、それを取り戻すんだ。
あのバカ。この後マジで往復ビンタだからね。
『シーナ、一応言っておくけど、急がないと魔族が全部出てくる前に、クドーが力尽きる可能性だってあるんだからね』
「――分かってる。けどね、アイツはそんなやわじゃないわよ」
シルフの言葉にいつの間にか自分が少し弱気になってきていることに気づいてハッとさせられる。
いかんいかん。前に、出なきゃ。
こうしている間にもレッサーデーモンは次々と湧いてきているのだ。立ち止まっている場合じゃない。
震える手をギュッと強く握りしめた。
今やっていることは可能性の低い事なのかもしれない。
シルフを巻き込んで申し訳ない気持ちもない訳じゃない。
ただ、ここまで来てはいそうですか逃げましょうなんて。その方が絶対死んでも無理だ。
「――行くわよ」
『うん、行こう』
改めて自分を鼓舞しつつ唇を強く噛んだ。
コイツらをどうにかして絶対に工藤くんを助ける。
私は諦めない。
諦めることなんて絶対に、死んでもしないんだから。
一瞬外へと出てきたものの、もう私の中へと戻ったシルフ。
精霊はこちらの世界では人を媒介にしてじゃないと存在できない。
外に出続けるのはキツいのだ。
「いいって何がよ」
『いや、ボクの主は無茶するなあと思ってね』
「しょうがないでしょ。騎士さんたちがいい人だって分かったんだから」
『うん、そうだね。でも、君も大概お人好しだよね』
「――うっさい」
私はほんの少し嬉しそうに聞こえるシルフの反応を素っ気なく返しながら、暴風の塊を自身の胸の前で練り込んでいく。
それはどんどん大きくなっていき、暴風のサッカーボールのような玉となった。
「はああああ……ストームキャノン!!!」
私の手を離れたそれは、一直線にレッサーデーモンの群れへと飛んでいく。
地面に着弾したそれは周りにいた者たち全てを呑み込んだ。
「ギュワアアアァッ……!!」
断末魔の悲鳴を上げながら塵と消え行くレッサーデーモンその数数十体。
その後にはレッサーデーモンで敷き詰められていた広場に僅かな一本道が生まれる。私の狙い通り。
「皆今だっ! 走れっ!」
「「はいっ!」」
隊長のかけ声と共に走り出す騎士たち。
流石に行動が早い。言わなくても私の意図を察してくれるのも良き。
こうして少しの隙をついて彼らは広場の外へと躍り出た。
何体かのレッサーデーモンが彼らを執拗に追い回しているみたいだったけれど、もはやそれくらい大した障害にはならないだろう。
「ゴハアッ!!」
彼らを見送る私の不意を突くように、四方からレッサーデーモンが私へと詰め寄ってきた。
「エンチャント・ストーム!」
両腕に暴風を纏わせ、それを一瞬で蹴散らす私。
その凄まじい威力にたじろぐレッサーデーモンたち。
「それじゃああんたたち! かかってきなさいよ!」
「ゴバアア!!」
私の声に呼応するようにレッサーデーモンの群れが襲い来る。
そこからは堰を切ったように次から次へとレッサーデーモンの群れが押し寄せてきた。
というかこんな可愛い美少女に寄ってたかってとかほんとどういう神経してるのかしら。
「はああっ!!」
彼らの攻撃を既の所で避け、避わし、往なし、飛び上がり、次々と葬り去っていく。
『本当にここにいる全てのレッサーデーモンを倒すつもりかい?』
戦いの最中にそう語り掛けてくるシルフ。いや、その話はもう済んでるんですけど。
私は少し、辟易した。
この術を止めるための考え得る他の方法。
それは工藤くん自身の息の根を止めること。
これならマインドの供給源が根本から絶たれるのだ。止まらない道理はない。
きっとこれがどんなやり方よりも確実な方法だ。
だけどそんな選択肢、あって無いようなものだ。
私がどうして工藤くんを自身の手に掛けるなんてことができようか。そんなバカな真似、何があってもするはずない。
だから私はもう一つの無茶を実行することにした。
それはここに現れる魔族を全て倒しきってしまう事。
魔族がどんどん湧いてくるとはいえ、決して無限ではないはず。
それなら話は簡単だ。打ち止めになるまで倒して倒して倒しまくってやればいい。
それがたとえ、千や二千だとしても。
今の私は完全に精霊の力を使いこなせるまでになった。それくらいのこと、やってやれなくはないはずだ。
少なくとも可能性は0じゃない。
これが皆が助かる唯一の方法だというのなら、やってやろうと思える。
「はああっ!!」
私は迫りくるレッサーデーモンをバッサバッサと紙切れのように切り裂いていく。
もう何体倒しただろうか。
五十体を越えた辺りから完全に数えるのを止めてしまった。
「……シルフ、ありがとね。私のわがままに付き合ってくれて。大好きよ」
私はどんな時でも一緒にいてくれるこの小さな相棒を改めて心の底から愛しく思った。
そして、心の底から感謝するのだ。
『……やっぱり君はズルいよね』
「知らなかった? 私けっこうズルい女なのよ?」
顔は見えないけれど、声音から判断するに少し照れているようだ。
何だかんだでシルフはかわいいやつ。
私は飛び散る緑の鮮血に晒されながら一度高く空へと飛び上がり、広場全体を見やる。
広場にいるレッサーデーモンはもう二百体はいるだろうか。
「ブッハアア!!」
「ゴバアッ!!」
そしていよいよその全てが私に狙いを定めたようだ。
中空にいる私目掛けて度々幾条のヒートブレスが飛んでくる。当たりはしないけどね。
けれど、眼下に広がる地獄絵図のような景色に身体が冷えていく感覚を覚えていく。
魔族はそうこうしている間にもどんどん増え続け、広場には収まりきらなくなってきている。ゴクリと自然に喉が鳴った。
何体かは広場の外へと行ってしまったりもしている。
それらのレッサーデーモンは先ほどの騎士たちに何とかしてもらうしかない。
工藤くんは無事だろうかと思う。
視界の見通しが悪すぎて、彼の姿がもう目視できないのだ。
きっとまだあの場所に横たわっているのだろうけれど、近くにいるはずの彼の存在がとても遠くに感じられた。
少し前まではあんなに側にいたのに――。
「ああっ、ダメダメ! こんなんじゃっ!」
私は自分を奮い起たせながら一度思い浮かべた工藤くんのアホ面を脳裏から無理矢理消し去る。
心の中のアイツはいつも通り間抜けな顔で笑っていた。それを、それを取り戻すんだ。
あのバカ。この後マジで往復ビンタだからね。
『シーナ、一応言っておくけど、急がないと魔族が全部出てくる前に、クドーが力尽きる可能性だってあるんだからね』
「――分かってる。けどね、アイツはそんなやわじゃないわよ」
シルフの言葉にいつの間にか自分が少し弱気になってきていることに気づいてハッとさせられる。
いかんいかん。前に、出なきゃ。
こうしている間にもレッサーデーモンは次々と湧いてきているのだ。立ち止まっている場合じゃない。
震える手をギュッと強く握りしめた。
今やっていることは可能性の低い事なのかもしれない。
シルフを巻き込んで申し訳ない気持ちもない訳じゃない。
ただ、ここまで来てはいそうですか逃げましょうなんて。その方が絶対死んでも無理だ。
「――行くわよ」
『うん、行こう』
改めて自分を鼓舞しつつ唇を強く噛んだ。
コイツらをどうにかして絶対に工藤くんを助ける。
私は諦めない。
諦めることなんて絶対に、死んでもしないんだから。