「――はっ!」

 私は風の能力を駆使して数メートル上空へと移動。広場を上から俯瞰して見てみる。上から見るときれいな六芒星が目に入る。
 そこであることに気づいた。
 なるほど。あれか。

『ご名答』

「ストーム・バレット!!」

 シルフの言葉を受けて暴風の弾丸を放つ。
 その行き着く先には地面に埋め込まれた魔石があった。
 この六芒星を形作る光。それを描く交点に魔石が設置されているのだ。
 おそらくアリーシャがインソムニアから手に入れてきた物で間違いない。
 術者が排除されても収まらないというのなら、術の発動の動力機関となるものを壊してしまえばいい。それがあの魔石だ。
 暴風の弾丸は見事魔石の一つに命中。破片を撒き散らしながらただの石の欠片となった。
 うまくいった。そう思ったのだけれど――。

「……だめみたいね」

 そう呟きつつ、私的にそれは予想の範囲内。

「はああっっ……」

 更に風を練り込んでいく。マインドの消耗は否めないけれど、そんな事は言っていられない。

「ストーム・バレット!」

 再び暴風の弾丸を放つ。今度は他の魔石へと目掛けて。

「はああっっ!! まだまだあっ!!」

 立て続けに暴風の弾丸を次々と形成。
 次々と魔石を破壊していく。道中何体かのレッサーデーモンが巻き添えを食らって霧散した。
 何度目かの弾丸を放ち終え、いよいよ残った魔石はただ一つ。

「これで終わりよっ! ストーム・バレット!」

 最後の一つの魔石も見事に破壊。
 勝ち誇ったように六芒星の光に目を向ける。
 私の予想通りなら、光は絶ち消え、レッサーデーモンの増加も打ち止めになるはずだ。
 けれど――。

「――なんでよ……」

 これには流石に弱気な声が漏れた。
 六芒星は私が予想した結果には至らなかったのだ。
 六芒星は今もずっと変わらず眩い光を放ち、レッサーデーモンを広場に排出し続けている。

「くっ……」

 こうしている間にもどんどん形勢は悪くなってきている。
 レッサーデーモンと戦っている騎士たちもいよいよ苦戦を強いられてきていた。
 幸いまだ犠牲は出ていないものの、そうなる未来もそう遠くはない。

『シーナ、一度ゲートが開いてしまったら、魔石は関係ないみたいだ……』

「見ればわかるわよ! くそっ……どうすればいいわけっ!?」

 シルフの無情な宣告が私の頭の中に響き渡り、思わず声を荒げてしまう私。

「くそっ……エンチャントストーム!!」

 私は半ばヤケクソ気味にユニコーンナックルに暴風を纏わせレッサーデーモンの群れへと突っ込んでいく。
 このまま数が増え続ければやがて広場にレッサーデーモンが溢れ、身動きも取れず物量にみんな押し潰されて全滅は免れない。
 そうなってしまったらもう儀式を止めるどころの話じゃないのだ。

「エンチャント・ストーム!!」

 私はさらに四肢に暴風を纏わせ、空を縦横無尽に駆け巡りながら手当たり次第にレッサーデーモンを切り裂いていく。
 あるものは細切れになり、あるものは吹き飛びながら消失し、改めてシルフの能力の凄さに内心身震いしていた。

『……シーナ、よく聞いて。この術はもはや動き始めたら終わるまで止まらない術式なのかもしれない』

 シルフは私の頭の中に神妙な声音を響かせる。
 私は出てくる魔族を片っ端から蹴散らしながらシルフの声に耳を傾けていた。

『ただ、これを止めるには後一つ試せることがある』

 シルフの声色からはこの先に話されることが良くないことなんだということが伝わってくる。
 彼が何を言いたいか言わなくても分かる。分かってしまった。

「却下! ふざけないで!」

 私はシルフの言葉を遮り声を荒げる。そんな事、絶対するわけ無い。私が工藤くんをこの手で――。

『でも、このままじゃ皆やられてしまうよ!?』

「うるさい! バカ!」

 そんな事は分かってる。分かっているけれど。
 いくら倒しても倒しても、魔族は増え続け、今やその数は百に迫ろうとしているのではないか。
 何とか応戦し続けている騎士たちも流石に限界が近づいているように見える。明らかに手傷を負っている者も出てきていた。
 どうする? どうするのが最善だ? この戦いに勝ち、かつ皆を救う方法。
 下唇を噛みながら、私は一つの可能性を頭の隅に見出していた。
 これは賭けだ。
 けれどもうそれをやるしかない。覚悟を、決めるしかない。

「――シルフ、私のやりたいようにやらせて」

『え……でもそんなの……』

「無理とかそんな弱気なこと言わせない。お願い、手伝って」

 私の思考を読んだシルフの言葉を遮ると、しばらく彼は黙り込んだ後、短いため息を吐いた。

『全く……無茶苦茶な主を持つと苦労するよ……』

「――ありがと。がんばろ?」

 シルフの声音は私が思っていたよりもずっと嬉しそうな響きを持っていて、思わず私の口からは謝辞が述べられていたのだった。