「――――は?」

 私はその意外すぎる結末に、戦いの最中だというのに再び間抜けな声を上げてしまう。
 三級魔族なのにいくらなんでも弱すぎる。
 確かに先刻一戦交えた三級魔族、グレイシーも正直そこまで強いようには思わなかった。けれどこれはさすがに弱すぎる。
 考えられる可能性としては三級魔族にも様々いてホプキンスやグレイシーは個体そのものの強さというよりは特殊能力に特化した個体であるということか。
 ライラなどはその逆で、単純に魔族としての強さ。戦闘能力に特化しているタイプなのかもしれない。

『シーナッ、のんびり考え事してる場合じゃないよ?』

「――ごめんっ」

 そこまで思考を巡らせ、シルフの一言で私は現実に引き戻された。
 結局――だ。ホプキンスが気を失っても魔族の出現は止まりはしなかった。
 今もレッサーデーモンは次々と空間の揺らめきから出現し続けている。しかも――。

「アリーシャ!?」

 ふと冷静になつて周りを見渡すと、どこにもアリーシャとライラの姿がない。
 感知の範囲を広げても近くに気配すら感じられなくなっていたのだ。

「――どういうこと?」

『たぶんライラの方の仕業だね』

「だよね……」

 たった一瞬目を離した隙にこんな事……私は内心で歯噛みする。
 二人は決着をつけるため、ここ以外の場所に移動してしまったと考えるのが妥当だろうか。
 不安は胸にもやもやと渦巻く。けれどこうなってしまってはもうアリーシャを信じて任せるしかない。
 アリーシャもそんなヤワじゃない。簡単にはやられはしないだろう。それよりも今重要なのはこの場の状況を何とかすることだ。

「シルフ、どうすればこれを止められるかわかる!?」

『ん~……』

 色々なことが起きて数刻ごとに状況が目まぐるしく変わっていく。
 正直色々考えすぎて後手後手感は否めない。
 ホプキンスも倒しきる前に周りにかなりの数のレッサーデーモンが集まってしまいすぐには手が出せそうもなくなってしまった。
 何というか、乱戦に対する経験が圧倒的に足りないのだ。
 考える前に体を動かせって話だどやっぱり出たとこ勝負つてのも性格上どうかと思ってしまう。
 けれど経験が足りなくて判断が遅くて、結局どんどんと状況が悪化していってしまっているのを肌で感じていた。
 くそう……。
 歯噛みしつつ、それでもやはり先決なのは、この魔族が無尽蔵に広場に出現する現象を止める手立てを見つけることだという結論へと行き着く。

『シーナ。落ち着いて。とにかく考えながらでも攻撃しなくちゃっ』

「――分かったわよっ!」

 シルフにいさめられながら、私は指先に意識を集中させる。

「ストームバレット!!」

 少し先の一人の騎士に襲いかかろうとしていたレッサーデーモンへと向けてストームバレットを放った。
 バレットは指先の手前に出現し、としゅんと小気味よい音を発しながら一直線にレッサーデーモンへと突き進む。

「バオオォォッッ……!!」

 魔族は一瞬にして霧散。騎士は目の前に起こったそれを目の当たりにした後、一瞬だけじっとこちらを向いて顎で会釈だけすると他の仲間の救出へと向かった。
 正直騎士たちは私が思っている以上に強い。今のも別に私の助けなんかなくても一人で何とかなっただろう。
それに今はもう町の人々の避難を一般の兵士に任せ、自分たちは兵士が避難させる時間を稼ごうとしているのだから。それも未だに一人の犠牲者を出すこともなく、だ。

『シーナ』

「どうしよ、シルフ?」

 我ながら情けない。
 大した策の一つも思いつかぬまま、精霊の意見に頼ろうとしている。

『恐らくなんだけど、この魔方陣はクドーとその精霊、ノームの繋がりを利用して、精神世界とこっちの世界を行き来するゲートのようなものを作り出していると思うんだ』

「……なるほど、そういう原理なんだ」

 四級魔族以下の魔族は精神世界とこちらの世界を自由に行き来することが出来ない。
 なので要するにこの魔方陣を使い、向こう側の魔族をこちらに呼び寄せる儀式、といったところなのだろう。
 人間と精霊の繋がりを利用して精神世界からこちらの世界へと渡るゲートのようなものを作り出しているのだろうか。

『うん、そうだね』

 私の頭の中の呟きに相づちを打つシルフ。

「うりゃっ!!」

 私は手近なレッサーデーモンを暴風を纏わせたユニコーンナックルで紙のように切り裂きながら少しずつ頭を冷やしていった。
 どうにかしてこの儀式の仕組みを破る方法について考えようじゃないか。
 六芒星の光を出現させた張本人であるホプキンスは今や気絶している。
 これは術者を倒すことではこれを終わらせる結果に至らなかったことを意味する。
 では他に考えられる方法とは――。