「――くっ……何なのっ!!?」

 目の前が昼間のように光に包まれる。

「シルフッ!」

 眩しさに目がくらみそうになるのを堪えながら精霊の力を解放。それにより広場内の感知の目を広げる。実際に広場で今何が起ころうとしているのか。そこに意識を集中させる。

 ズズ……、ズズズ……。

 耳朶に響く衣擦れのような音。私はその音の正体にすぐに気づいた。それと同時に胸の中にどうしようもないほどの絶望感が駆け巡った。

「まさか……こんなっ!?」

「一体どうしたというのだシーナ!? ……あっ……あれは……」

 光はやがて収まり、感知を無理にする必要もなくなった。
 私とアリーシャは改めて広場に目を向け、目の前で起こっている光景に絶句する。

「……こんな……サイアク」

 私の口から無意識にそんな言葉が漏れ出た。
 広場で次から次にレッサーデーモンたちが出現し始めていたのだ。
 一体、また一体と突如空間を切り裂くように現れては咆哮を上げつつ暴れ始めている。
 それに戸惑い怯える兵士たち。でも流石、騎士たちは面食らいながらもすぐに気持ちを切り替えたか携えた剣を抜き放ち応戦していく。
 広場の周りに集まった町の人たちはというと、逃げ惑いながらも数人の騎士たちに誘導され、この場所からは散り散りになりながらも離れていく。
 とりあえず騎士たちが逃げ道を確保してくれているようなので町の人々に被害が出ることはなさそうだ。この辺りは流石と言うべきか。慣れてる。めちゃめちゃ有能。

「――あれは……魔方陣か!?」

 不意にアリーシャがそう発言した。
 よく見ると確かにアリーシャが言うように、広場全体に六芒星の光の線が見える。
 そしてその中心にいるのが工藤くんだ。
これじゃあまるで――神話に出てくる悪魔の儀式か何かみたいだ。
 私の脳裏には嫌な予感が駆け巡っていた。鼓動が脈打ち警鐘を打ち鳴らしている。
 色々観察している間にも一体、また一体とどんどんと広場にレッサーデーモンは溢れていく。
 特に工藤くんの周りには、すでに十数体にも及ぶ魔族がひしめきあっていた。
 それでも安心だと思ったのは常に工藤くんの体からは魔力の光のようなものが発せられていて、魔族は近寄れないように見えることだ。
 それにより彼自身が魔族に攻撃される心配は無さそうに見える。
 なので彼の身の安全は今のところは保障されている気はするけれど、問題なのは工藤くんの力を利用して、この現象を起こしているのだろうという事。
 いわゆる人柱というやつなのだろうか。
 この儀式? 魔法? を消すために工藤くんの今の状況を何とかしなければ勝機はない。でもどうやって――――。
 一刻も早く動いて対処しなければならない。
 そうは思うけれどこんな乱戦。ただ闇雲に動いてもタカが知れてる。
 だから何か、方針というか、動いてどうすべきか。情報を集めてそれだけは決めておきたかった。
 自体は悪化していくのかもしれないけれど、騎士たちもいる。すぐに破綻することはないだろう。
 この中で私がすべき最優先事項は――。
 私はそこでちらりとライラとホプキンスの方へと視線を向けた。
 ライラはにこやかな笑みを讃えながら前を向き、その場に佇んでいる。
 何度か兵士に声を掛けられていたが頷きながら指示のようなものを出したのか、それで兵士は彼女の元からは離れていく。
 ホプキンスはというと……ブツブツと何か独り言のように声を発し続けているように見えた。
 不思議と彼の周りには今、兵士も魔族もいはしない――ふむ。なるほど。
 正直どうするべきなのか確かな事は何もない。けれど見ているだけでは何も変わらない。もういい加減覚悟を決めた。

「アリーシャ! 私たちも参戦するわよ!」

「勿論だっ!」

 たぶんだけれど、今か今かとこちらの様子を見ていたのだろう。アリーシャとばっちりと目が合う。
 彼女は私の気合いの入った声を聞くと、凜としたコバルトブルーの瞳に確かな輝きを宿しながら、準備は万端とばかりに頷き腰の剣に手を掛けた。