「隼人くん、大丈夫?」
私の顔を見るや心配そうな表情を見せる椎名。
先程人の死を目撃した事が自分でも思った以上に堪えているのかもしれない。
だが今は弱気な事を言っていられる状況ではない。
すぐさま気持ちのスイッチを切り換えるのだ。
「大丈夫だ椎名。それより他の二人はどうした?」
見たところここに来たのは椎名一人。別行動を取っているようである。
「うん、みんなで来たらややこしくなるかもと思ったから落ち合う場所だけ決めてある。とにかくここは一旦引いて体制を立て直しましょう。私たちだけなら何とかなる」
「――うむ、そうだな」
椎名が来てくれた事は本当に心強い。途端に冷静さを取り戻した自分がいて苦笑してしまう。
「――何笑ってんのよ、変な人」
「だな。――では、引くか」
「逃がさんぞ!」
「ぎゃあああああああっ……!!」
騎士達が再び向かって来ようとした時、魔族だろうと思われる者の断末魔の声が響いた。
その声に再び両者動きを止めて辺りに目を向ける。
彼等の解釈だと元は人という事になるのだが、殺してしまったというのだろうか。
確かに被害を最小限に減らす為にはこうするしかないのかもしれないとも思うが。
やがてその声のした方角から一人の男が現れた。
遠目から見ても他の騎士とは異質を放っている。
がっしりとしたその体躯からは歴戦の戦士の趣が感じられ、一目でただ者ではないのだと分かる。
「ベルクート団長」
騎士の隊長格と思われる者がそう呟いた。
団長━━という事はこの男が騎士団を束ねる者という事だ。
彼は私達の前に立ち止まるとニヤリと笑みを浮かべ、品定めするように見てきた。
「……あのおっちゃん、かなり出来るわね」
「だーれがおっちゃんだ」
その男は2メートルはあるだろうか。白い鎧に身を包み、その太い首から、鎧の下には鋼の肉体が隠れているのだろうことは容易に想像できた。
何というか、全体的にゴツい。他の騎士達に比べて二回りはでかく見える。
手にしたツーハンデッドソードも大きさは私のものより一回り大きいと思うが、この男が持つとただのロングソードに見えてしまう。
男はここに来るなり終止笑みを浮かべたまま余裕のある佇まいだ。だが彼から発せられる圧は他とは異なり遥かに強い。
少しでも気を抜くと一瞬にしてやられるのではという想像が脳裏に過ってしまった。
「おい、お前ら。予言の勇者か? 俺はヒストリア王国騎士団長、ベルクートだ」
以前アリーシャが話していた事がある。
王国の騎士団を束ねる最強の騎士ベルクートはアリーシャの最も尊敬する人物だと。名前を聞いてやはりと思う。
「アリーシャと話がしたい。一緒じゃないのか?」
ベルクートは威圧感こそあるものの、アリーシャの名前を呼ぶ表情が一瞬和らいだような気がした。彼の胸の中の色合いも優しい暖色系で、良い人物なのだというのが正直なところだ。
だがアリーシャは私と同じ反逆者のレッテルを貼られている身。彼女を差し出す事など到底出来はしない。
「ここにはいないわ! 私達、まんまと魔族に嵌められて困ってるのよ! ねえあなた、騎士団長なら手を貸してくれない!?」
椎名は高らかにそんな事を叫んだ。
他の騎士達が苦い顔をする中、ベルクートは彼女の申し出に一瞬目を丸くし、豪快に笑った。
「はーっはっはっはっ!! 面白い嬢ちゃんだなあ! けどよ、そんなこと言われてはいそうですか、なんて出来るわけねーだろ?」
「――あっそ。じゃあ魔族は自分たちで何とかするしかないわね。あなたたち、悪いけど私たちの邪魔しないでくれない?」
挑発的な椎名の言葉にベルクートは嬉しそうに微笑んでいた。
「ククク……あくまでも捕まる気はねーってか? 気に入ったぜ」
周りには既にかなりの騎士と兵士が集まって来ていた。
町のあちこちで悲鳴が上がっていたのを鑑みるに、騒ぎの火種は複数あったはずだ。
それでも騎士達の活躍で最早そのほとんどが鎮静化されつつあるのだろう。
やはり騎士達の実力は相当のものだ。まともに戦っては勝ち目はない。
私は椎名をちらりと見た。すると彼女もこっちを見ていてこくりと頷いた。
「私たちも色々目的があってね! とにかく一旦引かせてもらうわ!」
「させねえよっ!」
言葉と共にベルクートが力強く踏み込んだ。
その体躯に見合わない超スピード。予想以上に速い。
だがこちらももう行動に出ている。
私は椎名の肩に掴まる。
「ストームバレット!」
「ふんっ!」
椎名の風の弾丸がベルクートと交錯する直前で放たれるが、それを彼は体を反転させ悠々と避わす。返す刀で横凪ぎの一閃を打ち込んできた。
だが椎名の放った弾丸は複数。ベルクートだけを狙ったものではない。
風の弾丸はベルクートと私達の足元にも放たれ、粉塵を巻き起こすと共に私達を空へとロケットのように打ち上げた。
先程まで地に足をつけていた私の体はあっという間に数十メートル上空まで打ち上げられた。
下を見るとこちらを見上げているベルクートが豆粒程の大きさになっている。
更に私達はどんどん上昇し、高度を上げていく。
椎名のお陰だ。思いの外あっさりと危機は脱せられたのだ。
私の顔を見るや心配そうな表情を見せる椎名。
先程人の死を目撃した事が自分でも思った以上に堪えているのかもしれない。
だが今は弱気な事を言っていられる状況ではない。
すぐさま気持ちのスイッチを切り換えるのだ。
「大丈夫だ椎名。それより他の二人はどうした?」
見たところここに来たのは椎名一人。別行動を取っているようである。
「うん、みんなで来たらややこしくなるかもと思ったから落ち合う場所だけ決めてある。とにかくここは一旦引いて体制を立て直しましょう。私たちだけなら何とかなる」
「――うむ、そうだな」
椎名が来てくれた事は本当に心強い。途端に冷静さを取り戻した自分がいて苦笑してしまう。
「――何笑ってんのよ、変な人」
「だな。――では、引くか」
「逃がさんぞ!」
「ぎゃあああああああっ……!!」
騎士達が再び向かって来ようとした時、魔族だろうと思われる者の断末魔の声が響いた。
その声に再び両者動きを止めて辺りに目を向ける。
彼等の解釈だと元は人という事になるのだが、殺してしまったというのだろうか。
確かに被害を最小限に減らす為にはこうするしかないのかもしれないとも思うが。
やがてその声のした方角から一人の男が現れた。
遠目から見ても他の騎士とは異質を放っている。
がっしりとしたその体躯からは歴戦の戦士の趣が感じられ、一目でただ者ではないのだと分かる。
「ベルクート団長」
騎士の隊長格と思われる者がそう呟いた。
団長━━という事はこの男が騎士団を束ねる者という事だ。
彼は私達の前に立ち止まるとニヤリと笑みを浮かべ、品定めするように見てきた。
「……あのおっちゃん、かなり出来るわね」
「だーれがおっちゃんだ」
その男は2メートルはあるだろうか。白い鎧に身を包み、その太い首から、鎧の下には鋼の肉体が隠れているのだろうことは容易に想像できた。
何というか、全体的にゴツい。他の騎士達に比べて二回りはでかく見える。
手にしたツーハンデッドソードも大きさは私のものより一回り大きいと思うが、この男が持つとただのロングソードに見えてしまう。
男はここに来るなり終止笑みを浮かべたまま余裕のある佇まいだ。だが彼から発せられる圧は他とは異なり遥かに強い。
少しでも気を抜くと一瞬にしてやられるのではという想像が脳裏に過ってしまった。
「おい、お前ら。予言の勇者か? 俺はヒストリア王国騎士団長、ベルクートだ」
以前アリーシャが話していた事がある。
王国の騎士団を束ねる最強の騎士ベルクートはアリーシャの最も尊敬する人物だと。名前を聞いてやはりと思う。
「アリーシャと話がしたい。一緒じゃないのか?」
ベルクートは威圧感こそあるものの、アリーシャの名前を呼ぶ表情が一瞬和らいだような気がした。彼の胸の中の色合いも優しい暖色系で、良い人物なのだというのが正直なところだ。
だがアリーシャは私と同じ反逆者のレッテルを貼られている身。彼女を差し出す事など到底出来はしない。
「ここにはいないわ! 私達、まんまと魔族に嵌められて困ってるのよ! ねえあなた、騎士団長なら手を貸してくれない!?」
椎名は高らかにそんな事を叫んだ。
他の騎士達が苦い顔をする中、ベルクートは彼女の申し出に一瞬目を丸くし、豪快に笑った。
「はーっはっはっはっ!! 面白い嬢ちゃんだなあ! けどよ、そんなこと言われてはいそうですか、なんて出来るわけねーだろ?」
「――あっそ。じゃあ魔族は自分たちで何とかするしかないわね。あなたたち、悪いけど私たちの邪魔しないでくれない?」
挑発的な椎名の言葉にベルクートは嬉しそうに微笑んでいた。
「ククク……あくまでも捕まる気はねーってか? 気に入ったぜ」
周りには既にかなりの騎士と兵士が集まって来ていた。
町のあちこちで悲鳴が上がっていたのを鑑みるに、騒ぎの火種は複数あったはずだ。
それでも騎士達の活躍で最早そのほとんどが鎮静化されつつあるのだろう。
やはり騎士達の実力は相当のものだ。まともに戦っては勝ち目はない。
私は椎名をちらりと見た。すると彼女もこっちを見ていてこくりと頷いた。
「私たちも色々目的があってね! とにかく一旦引かせてもらうわ!」
「させねえよっ!」
言葉と共にベルクートが力強く踏み込んだ。
その体躯に見合わない超スピード。予想以上に速い。
だがこちらももう行動に出ている。
私は椎名の肩に掴まる。
「ストームバレット!」
「ふんっ!」
椎名の風の弾丸がベルクートと交錯する直前で放たれるが、それを彼は体を反転させ悠々と避わす。返す刀で横凪ぎの一閃を打ち込んできた。
だが椎名の放った弾丸は複数。ベルクートだけを狙ったものではない。
風の弾丸はベルクートと私達の足元にも放たれ、粉塵を巻き起こすと共に私達を空へとロケットのように打ち上げた。
先程まで地に足をつけていた私の体はあっという間に数十メートル上空まで打ち上げられた。
下を見るとこちらを見上げているベルクートが豆粒程の大きさになっている。
更に私達はどんどん上昇し、高度を上げていく。
椎名のお陰だ。思いの外あっさりと危機は脱せられたのだ。