こちらへと向かって来た五人の騎士達。
彼らは腰に携えたロングソードを抜き放ち、私の数メートル手前で立ち止まった。

「貴様! 大人しく我々に投降しろ!」

騎士達はそう言い放つもののかかっては来ない。
その様子を見て、私はやはりと思うのだ。

「いいのか? 私に近づくとどうなるか分からないぞ?」

「――くっ……」

そう言い放ち私は大袈裟に手を前に出し何かを放つ前振りのように構える。
途端に騎士達の顔に焦りが見え、顔面蒼白となり後退った。
彼らは今、私が人を魔族に変える力を持っていると思っているのだろう。
にも拘らずそうする条件や方法等は一切分かってはいない。
迂闊に近づいて自分達も魔族に変えられてしまうのを恐れている。
だから私からは距離を置き、取り囲むに止めているのだ。

「何故こんな事をする! 町の人を魔族に変えるなど!」

真ん中にいた騎士が叫んだ。
この男は隊長か何かだろうか。周りの騎士も彼に従って動いているように感じる。
ここに来て皮肉にも相手と話す機会を得た。これを好機と捉え私はその騎士に語りかける。

「私は隼人。この国を救いに来た勇者だ」

「な、何を言っている? こんな事をして今更勇者だなどと。ふざけるなっ!」

「何故分からない。この国は魔族に利用されているのだ。今町で暴れている魔族も人が魔族に変化したのでは無い。元々人の皮を被った魔族だったのだ。お前達は騙されている。倒すべきは私では無い。魔族だ」

私は下手な小細工は止めて騎士を説得にかかる。
上手く行けばこの状況を難無く切り抜けられるかもしれないのだ。

「――うぐう……、そ、そんな事が信じられると思うのか!? 我々を謀(たばか)るつもりだろう!?」

「そうでは無い! 現に副団長のライラは魔族だ! 何年も前からこの国は魔族が支配するよう準備されてきたのだ! 私がアリーシャと行動を共にしているのが何よりの証拠! 私はアリーシャと共にこの国に侵入した魔族を倒すためにやって来たのだ!」

説得材料としてライラとアリーシャの名を出したが、選択ミスだったようだ。
言葉選びも悪かった。
私の言葉を受けた騎士はその表情に怒りと嫌悪を滲ませた。

「ライラ様が魔族だと!? ――貴様っ! 我々騎士をそこまで愚弄するかっ! それにアリーシャはもう国を裏切っていると聞いた! アリーシャは反逆者だなの! 元々闇の資質を持って生まれた奴には資質があったのだ! アリーシャは我々の裏切り者だ!」

「それが間違いだと何故分からん! お前はアリーシャと接した事がないのか!? 私も長い付き合いではないが分かる! 彼女は気高く誇り高く、優しさと強さを兼ね備えたこの国の素晴らしい王女だ! そんな訳がないだろう!」

気がつけばアリーシャの事を必死に叫んでいた。
それにほんの少し驚かされながらも間違いなく自分自身の本心だと自覚して、騎士を睨みつける。
騎士はそれに狼狽えているように見えた。

「――き、貴様! 我々を侮辱するのか! 我々騎士はこの国に仕えている以上、この国の意向に準ずる! 貴様の話は我々を謀るためのものだと判断する! もう聞く耳は持たぬ! かかれっ!」

「「はっ!!」」

「――くそっ!」

やはり私の言葉等ではどうする事も出来なかった。
それを皮切りに五人が一斉に襲い掛かってくる。
仮に私がどんな能力を有していようと、国のために命を投げ出してでも私を止めるというのだろう。
騎士というだけあって洗練された動きで無駄がない。今も私の行き場を全て塞がれている。
傷を負うのは最早止むを得ない。私は後ろへと少しでも傷を浅くしようと跳躍したその時だった。

「――よく言った隼人くん」

聞き覚えのある言葉と共に私の目の前に見えない風の壁が生まれ、騎士達の剣を全て弾き返した。

「うぐっ!? 何だ今のは!?」

急な攻撃に彼等は数メートル向こうへと吹き飛ばされた。
だがやはり手練れの騎士達。不意を突かれてもバランスを崩す者は誰一人としていなかった。
こちらを見据える騎士の目には私の前に立ち塞がった彼女が映り込んでいた。

「――貴様っ! そいつの仲間だなっ!?」

「そうよ、文句ある?」

挑発的な笑みを溢す彼女。

「椎名!」

「間一髪ってとこかしら? あんまり騒がしいんで様子見に来て正解だったみたいね」

混乱を聞きつけてやってきてくれたのだろう。私の友人は、やはり頼りになる。