隼人と椎名が懸命にケルベロスとの戦いを繰り広げる中、美奈は自身の新たな魔法を顕現させることに意識を集中させていた。
先程は隼人と話せたことで、少し頭の中が整理できた。
彼女にとって隼人の存在はやはり大きな力となってしまうのだ。
今も彼から聞いた魔法に関する幾つかの意見を頭の中で反芻し、自分なりに噛み砕いている。
それにより腑に落ちた部分もあり、彼女の頭の中のイメージは徐々に実現可能だと思える程に固まっていった。
もう一度隼人の戦う姿を目で追う。

「隼人くん、私、やってみるよ」

その呟きは決して彼には届くことはないが、美奈は胸の前の小さな拳をきゅっと握りしめ、唇を引き結び前を見据えた。

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「美奈よ。ピスタで魔法を購入したようだが、実際幾つ購入したのだ?」

私は1つ1つ、順番を追って彼女に問いかける。

「ん? えっと、2つだよ?」

彼女はそれにしっかりと応えるように指を2本ピッと立てながら答えた。そんな仕草がとても可愛らしく私の目に映る。

「うむ、その内1つはライトニングギャロップだな? ではもう1つの魔法とはどんな魔法なのだ?」

「え……と。スターライトジャッジメントっていう魔法なんだけど……正直よく分からないの……」

美奈は振られた質問に眉根を寄せて少し俯く。自身がない時の彼女の反応はいつもこんな感じだ。

「うむ。分からない、とは一体何が分からないのだ?」

「……う~んと……どうして発動できないのか……その理由が? かな……」

美奈は魔法を使い始めて日数もそう経っていない。経験も少なすぎる。
そんな状態で新しい魔法をポンポンと使えるようになるのはやはり無理があったかもしれないと、今は不安な気持ちで胸がいっぱいであるのだろう。
彼女の胸の内は薄黒く澱んでいた。不安な気持ちを抱く人特有の色合いだ。

「なるほど。では聞くが、ライトニングギャロップは何故発動できた?」

1つ目の習得魔法、ライトニングギャロップに関しては難なく使いこなしている。少なくとも私にはそう見えるのだ。

「ライトニングギャロップともう1つの新たな魔法について、状況を比較検討してみればいい。そうすれば自ずと答えは見つかるのではないか?」

「うん……でもどうやったらいいんだろう?」

美奈は物事を理論立てて考えることが苦手だ。
これまでの魔法に関しても、基本的には感覚的に行っている部分が強いと見ている。
だから今起こっている現象の理由を説明してくれ、などという問答などは全く頭がついていかないのだ。
彼女のそういった部分は深く理解しているつもりだ。

「美奈、難しく考えなくていい。私が今からいくつか質問していくから、それについて考えて、答えてみてくれ」

「――うん。わかった」

こくりと頷く美奈。眉根を寄せ、胸の前で二つの拳をきゅっと握りこむ。

「ではまず聞く。美奈は魔法を唱え、発動に至るまでに何を考えている?」

隼人の質問にふむと考え込む美奈。

「えっと……。魔法のイメージを頭の中で描いてる……かな」

「うむ。だろうな。では答えは簡単だ。新しい魔法もイメージをうまく描ければいいのだ」

「――って、それが難しくてできないんだよっ。全然新しい魔法のイメージができなくてっ……」

声を荒げる美奈の肩にポンと手を乗せ柔らかく笑ってみせた。
それを見た彼女は口を尖らせながら目を逸らした。

「――ずるい」

「美奈、新しい魔法について分かることだけ教えてくれ」

「分かること……」

「なんでもいいぞ。詠唱や、魔法の名称はどうだ?」

「それなら分かるよ? 魔法の名前はスターライトジャッジメント。詠唱は『この身に宿りし光のマナよ 空に散りばめられし星となれ
今ここに 万物を消し去る神の力と成りて 彼の者に降り注げ
一切の塵芥すら残さずに 光は神々の裁き 彼の者に降り注げ』
だよ?」

「ふむ……」

確かに詠唱を聞いても意味はさっぱりだった。要するに魔法のイメージが頭に全く湧いてこないのだ。

「美奈。魔法はやはり発動のためのイメージが最も大事なのだと私は思う。頭の中でイメージを固め、それを実際の目の前の空間に顕現させる。それが魔法なのだと思うのだ」

「うん。私もそれは思う。だからイメージを固めたいんだけど、それがさっぱりで……」

「そうだな。私もいまいち聞いていてイメージは持てなかった」

「……だよね」

「だが、思うところはある」

「思うところ?」

私の言い回しにはてと小首を傾げる美奈。
こんな時にも関わらず、不謹慎だとは思いながらいちいち彼女のそんな仕草にトクトクと心臓が脈打ってしまう。
私は心を落ち着けるようにふうと短く息を吐き、思うところについての意見を述べていくのだ。