アリーシャは目を閉じ、平原の中に一人佇む。
周りの戦いや頬を撫でる風。暖かな陽光。その一つ一つから自身の存在を全く以て切り離すように、自身の内にある力に向き合おうとしていた。
精神を集中させ呼吸を整える。極限の状態まで自身の心を高め、初めての技を繰り出そうと試みているのだ。
――――ヒストリア流剣術。
その剣術の本質とは、相手の一挙手一投足に目を向け戦いにおける相手の力の流れを感じ取り、後の先から先の先を取っていくものである。
そしてこの剣術にはその土台とも言える四つの技がある。
《風》
足に力を集中させ、踏み込みのスピードを爆発的に向上させることにより、相手を置き去りにして一閃を浴びせる最速の剣技。
《火》
自身の腕から剣にかけて力を集中させ、相手を真っ向から斬り伏せる豪腕の剣技。
《山》
自身の間合いに意識を集中させ、その中に踏み込んで来た相手を容赦なく切り刻む受けの剣技。
そして最後に《林》だ。
アリーシャは既に先の三つの剣技はマスターしている。
だがこの《林》の技だけは修得する事がうまくいかないできたのだ。
以前師であるライラが使う所を見た事はあった。
なので実際どういった見た目なのかは把握している。だがその原理がどうにも理解出来なかったのだ。
この技について訊ねた時、ライラが言っていた。
「この技はここに在ってここに無い。林のように静かにこの世界に溶け込むのよ」
あの時は言っている意味が全く理解出来なかった。だが今は違う。
隼人達と出会い、精霊や魔族と接し、精神世界やマインドという概念の存在を目の当たりにしてきた事により、アリーシャは頭の中で一つのイメージを抱き始めたのだ。
《林》とはここに在ってここに無い。
つまりこの世界では無く精神世界に在る技なのではないか。いや、それも正確ではない。
アリーシャの中ではその答えは自身の存在をそのどちらにも置いているという解釈が一番しっくり来るだろうか。
「――ふう~……」
細く長い息がアリーシャの口から漏れた。
今なら出来そうな気がする。いや、出来る。
この先の戦いを思えばここでその境地に至ることは必須と言える。
そんな決意めいた想いがアリーシャに更なる成長を促した。
胸に熱い血潮が滾る。それがより技の完成へと導いていく。
なぜならこの技の鍵となるのは恐らくマインド、精神力だからだ。
「ヒストリア流剣技、林」
技の名前を発すると共に、アリーシャは限り無く自身の気配を希薄にし、代わりに心を強く持った。
自分の精神力だけを限りなく強く、強く。想いをあらん限りに振り搾るように。
ヒストリアは私が守ってみせると。
目の前にある大切な者達を守れるようにと。
その想いの丈を頭の中で想い描く事で、アリーシャの胸はどんどんと熱を帯び、熱く打ち震えるような感覚が全身を駆け巡った。
『アリーシャ。強くなりなさい。あなたの大切なものを守れる程に。そしていつか、私を助けてちょうだい』
ふとアリーシャの脳裏にそんな言葉が過った。それと同時にアリーシャの体に変化が訪れる。
その変化が考えを霧散させる。
だからふと脳裏に浮かんだ言葉が誰のものだったか。彼女が何の言葉を頭に過らせたかということについての思考は風のように露と消え去っていったのだ。
周りの戦いや頬を撫でる風。暖かな陽光。その一つ一つから自身の存在を全く以て切り離すように、自身の内にある力に向き合おうとしていた。
精神を集中させ呼吸を整える。極限の状態まで自身の心を高め、初めての技を繰り出そうと試みているのだ。
――――ヒストリア流剣術。
その剣術の本質とは、相手の一挙手一投足に目を向け戦いにおける相手の力の流れを感じ取り、後の先から先の先を取っていくものである。
そしてこの剣術にはその土台とも言える四つの技がある。
《風》
足に力を集中させ、踏み込みのスピードを爆発的に向上させることにより、相手を置き去りにして一閃を浴びせる最速の剣技。
《火》
自身の腕から剣にかけて力を集中させ、相手を真っ向から斬り伏せる豪腕の剣技。
《山》
自身の間合いに意識を集中させ、その中に踏み込んで来た相手を容赦なく切り刻む受けの剣技。
そして最後に《林》だ。
アリーシャは既に先の三つの剣技はマスターしている。
だがこの《林》の技だけは修得する事がうまくいかないできたのだ。
以前師であるライラが使う所を見た事はあった。
なので実際どういった見た目なのかは把握している。だがその原理がどうにも理解出来なかったのだ。
この技について訊ねた時、ライラが言っていた。
「この技はここに在ってここに無い。林のように静かにこの世界に溶け込むのよ」
あの時は言っている意味が全く理解出来なかった。だが今は違う。
隼人達と出会い、精霊や魔族と接し、精神世界やマインドという概念の存在を目の当たりにしてきた事により、アリーシャは頭の中で一つのイメージを抱き始めたのだ。
《林》とはここに在ってここに無い。
つまりこの世界では無く精神世界に在る技なのではないか。いや、それも正確ではない。
アリーシャの中ではその答えは自身の存在をそのどちらにも置いているという解釈が一番しっくり来るだろうか。
「――ふう~……」
細く長い息がアリーシャの口から漏れた。
今なら出来そうな気がする。いや、出来る。
この先の戦いを思えばここでその境地に至ることは必須と言える。
そんな決意めいた想いがアリーシャに更なる成長を促した。
胸に熱い血潮が滾る。それがより技の完成へと導いていく。
なぜならこの技の鍵となるのは恐らくマインド、精神力だからだ。
「ヒストリア流剣技、林」
技の名前を発すると共に、アリーシャは限り無く自身の気配を希薄にし、代わりに心を強く持った。
自分の精神力だけを限りなく強く、強く。想いをあらん限りに振り搾るように。
ヒストリアは私が守ってみせると。
目の前にある大切な者達を守れるようにと。
その想いの丈を頭の中で想い描く事で、アリーシャの胸はどんどんと熱を帯び、熱く打ち震えるような感覚が全身を駆け巡った。
『アリーシャ。強くなりなさい。あなたの大切なものを守れる程に。そしていつか、私を助けてちょうだい』
ふとアリーシャの脳裏にそんな言葉が過った。それと同時にアリーシャの体に変化が訪れる。
その変化が考えを霧散させる。
だからふと脳裏に浮かんだ言葉が誰のものだったか。彼女が何の言葉を頭に過らせたかということについての思考は風のように露と消え去っていったのだ。