アリーシャは一旦このまま措いておく。
私がやるべきことはまだ他にあるのだ。
「美奈」
「――あ、はいっ!」
急に振り向き会話の矛先が自分に向いたからか。彼女は驚き小動物のように肩を震わせた。
「先程の魔法、見事だった」
「え? あ、うん。ありがと」
彼女は私からの褒め言葉に素直にはにかんだ笑顔で頬を蒸気させた。
私の恋人はそういう所がまた愛らしい。
「それで? ピスタの街で魔法書を幾つか購入したようだが。――光魔法は他にもあるのか?」
「えっと……うん。あるよ? もう一つだけ」
そうは言うものの、その表情は若干の翳りが見て取れる。
彼女の胸の内を視るまでもない。
眉根には皺が寄り、いかにも自身がなさそうだ。
「――ふむ。それは一体どんな魔法なのだ?」
「――えっと……攻撃魔法だよ?」
「なるほど」
やはりとは思っていたが、美奈にはまだ奥の手というか、街で得た実戦で試していない成果があるようだ。
だがこの反応を見れば何を悩んでいるのかは明らか。
「その魔法がまだ実戦で使えるレベルに達していないのだな?」
「――っ!? ……うん」
驚いたように目を見開き、それから正直にこくりと頷く。やはりか。
「で? その魔法はかなりの高位なものと見た。それが使えればこの戦いもグッと楽になるのかもしれないほどの」
「――うん」
美奈は図星を突かれつつもどこか嬉しそうだ。後ろで手を組みエヘヘと笑う。
「隼人くんは何でもお見通しだね」
「ふっ……美奈は分かりやすいからな。大体考えていることは分かる」
「エヘヘ……」
「で? 問題はなんなのだ? 何故発動できない?」
「あ、うん。――えっとね」
私のその質問に嬉しそうだった彼女の顔が再び憂いの色を帯びる。
「魔力の使用量が凄いのと……いや、でもそこは実際問題じょないかな。問題は今の私でまともに扱えないってことなの。発動すらさせられないかもっていうか……たぶん無理なの」
おそらく先程街の外で試し撃ちのような事をしていたのだろう。
それがうまくいかなかったという事か。
「無理、というのは具体的にどういう事なのだ?」
失敗するにしてもどのように失敗したかによってある程度対処出来る事があるかもしれない。
少し試し撃ちした程度で諦めるのは早計というものだ。
少なくとも魔法書は読めたのだろうから。
問題は発動させる過程にあると推測する。
もし本当に扱えないのであれば本を読む段階で何も起こらない筈だ。
「詠唱は頭の中に入ってる。でもどうしてもその魔法のイメージが湧かなくて……結局発動の兆しも見えないの」
申し訳なさそうに項垂れる美奈。
自身の不甲斐無さとそれによる焦りが色濃く見てとれる。
「美奈、そんなに自分を卑下するな。美奈は十分私達の戦力として役立っているのだ」
「……うん。分かってる。けど、やっぱりどうしても皆に申し訳ないっていう気持ちが強くなっちゃうの」
呟くように言葉は弱々しく、相当参っているのが端から見ていても分かり過ぎる程だ。
美奈のそういう心は分からなくもない。
だがそれは時に周りに良くない影響を与えたりもするものだ。
だからまずは彼女の胸の内にあるそれを取り除く。
私は彼女を両腕で包み込みそっと抱き締めた。
「えっ!? ちょっ!? 隼人くん!」
「美奈、大丈夫だ。お前は今この場において決して足手まといなどではない」
「――う……でも」
「ライトニングギャロップの恩恵がなければ今頃誰か負傷していたに違いないのだしな」
最初は慌てた声を上げる美奈だったが、私の言葉を受けながら少しずつその緊張が和らいでいく。
こんな所で正直何をやっているのかとも思う。相当恥ずかしかったりもする。
だがここで美奈の心を固めておかなければ、この先きっと苦労すると思えたのだ。
美奈は決して弱くない。
役立たずでも無い。
どちらかと言えば今の彼女は過剰に自分自身を卑下しすぎなのだ。
「……でも私、もっとみんなの役に立ちたい。こっちに来てからの私はみんなに守られてばっかりだもん。……私ももっとみんなのことを守れるようになりたいの」
自身の気持ちの吐露というのは時には大切だ。
内に溜め込むよりも誰かに想いを吐き出すだけで、問題解決がならなくともずっと楽になるものだ。
その証拠に今の彼女の胸の内の淀みは明らかに目減りした。
これで戦う気力は十分得られたのではないかと思う。
「うむ、では美奈。魔法を発動してみせるのだ」
「え? ……でも、それはさっきも言ったように……」
「分かっている。だから今度は私も一緒に考える。必ず魔法の発動の突破口を見つけるのだ」
「――――分かった」
私は美奈の目を見据え、彼女もその想いに応えようと思ってくれたのか。
美奈の瞳には確かな強い光が宿ったように感じられたのだ。
私がやるべきことはまだ他にあるのだ。
「美奈」
「――あ、はいっ!」
急に振り向き会話の矛先が自分に向いたからか。彼女は驚き小動物のように肩を震わせた。
「先程の魔法、見事だった」
「え? あ、うん。ありがと」
彼女は私からの褒め言葉に素直にはにかんだ笑顔で頬を蒸気させた。
私の恋人はそういう所がまた愛らしい。
「それで? ピスタの街で魔法書を幾つか購入したようだが。――光魔法は他にもあるのか?」
「えっと……うん。あるよ? もう一つだけ」
そうは言うものの、その表情は若干の翳りが見て取れる。
彼女の胸の内を視るまでもない。
眉根には皺が寄り、いかにも自身がなさそうだ。
「――ふむ。それは一体どんな魔法なのだ?」
「――えっと……攻撃魔法だよ?」
「なるほど」
やはりとは思っていたが、美奈にはまだ奥の手というか、街で得た実戦で試していない成果があるようだ。
だがこの反応を見れば何を悩んでいるのかは明らか。
「その魔法がまだ実戦で使えるレベルに達していないのだな?」
「――っ!? ……うん」
驚いたように目を見開き、それから正直にこくりと頷く。やはりか。
「で? その魔法はかなりの高位なものと見た。それが使えればこの戦いもグッと楽になるのかもしれないほどの」
「――うん」
美奈は図星を突かれつつもどこか嬉しそうだ。後ろで手を組みエヘヘと笑う。
「隼人くんは何でもお見通しだね」
「ふっ……美奈は分かりやすいからな。大体考えていることは分かる」
「エヘヘ……」
「で? 問題はなんなのだ? 何故発動できない?」
「あ、うん。――えっとね」
私のその質問に嬉しそうだった彼女の顔が再び憂いの色を帯びる。
「魔力の使用量が凄いのと……いや、でもそこは実際問題じょないかな。問題は今の私でまともに扱えないってことなの。発動すらさせられないかもっていうか……たぶん無理なの」
おそらく先程街の外で試し撃ちのような事をしていたのだろう。
それがうまくいかなかったという事か。
「無理、というのは具体的にどういう事なのだ?」
失敗するにしてもどのように失敗したかによってある程度対処出来る事があるかもしれない。
少し試し撃ちした程度で諦めるのは早計というものだ。
少なくとも魔法書は読めたのだろうから。
問題は発動させる過程にあると推測する。
もし本当に扱えないのであれば本を読む段階で何も起こらない筈だ。
「詠唱は頭の中に入ってる。でもどうしてもその魔法のイメージが湧かなくて……結局発動の兆しも見えないの」
申し訳なさそうに項垂れる美奈。
自身の不甲斐無さとそれによる焦りが色濃く見てとれる。
「美奈、そんなに自分を卑下するな。美奈は十分私達の戦力として役立っているのだ」
「……うん。分かってる。けど、やっぱりどうしても皆に申し訳ないっていう気持ちが強くなっちゃうの」
呟くように言葉は弱々しく、相当参っているのが端から見ていても分かり過ぎる程だ。
美奈のそういう心は分からなくもない。
だがそれは時に周りに良くない影響を与えたりもするものだ。
だからまずは彼女の胸の内にあるそれを取り除く。
私は彼女を両腕で包み込みそっと抱き締めた。
「えっ!? ちょっ!? 隼人くん!」
「美奈、大丈夫だ。お前は今この場において決して足手まといなどではない」
「――う……でも」
「ライトニングギャロップの恩恵がなければ今頃誰か負傷していたに違いないのだしな」
最初は慌てた声を上げる美奈だったが、私の言葉を受けながら少しずつその緊張が和らいでいく。
こんな所で正直何をやっているのかとも思う。相当恥ずかしかったりもする。
だがここで美奈の心を固めておかなければ、この先きっと苦労すると思えたのだ。
美奈は決して弱くない。
役立たずでも無い。
どちらかと言えば今の彼女は過剰に自分自身を卑下しすぎなのだ。
「……でも私、もっとみんなの役に立ちたい。こっちに来てからの私はみんなに守られてばっかりだもん。……私ももっとみんなのことを守れるようになりたいの」
自身の気持ちの吐露というのは時には大切だ。
内に溜め込むよりも誰かに想いを吐き出すだけで、問題解決がならなくともずっと楽になるものだ。
その証拠に今の彼女の胸の内の淀みは明らかに目減りした。
これで戦う気力は十分得られたのではないかと思う。
「うむ、では美奈。魔法を発動してみせるのだ」
「え? ……でも、それはさっきも言ったように……」
「分かっている。だから今度は私も一緒に考える。必ず魔法の発動の突破口を見つけるのだ」
「――――分かった」
私は美奈の目を見据え、彼女もその想いに応えようと思ってくれたのか。
美奈の瞳には確かな強い光が宿ったように感じられたのだ。