魔法屋を後にした私たちは、露店で買ったサンドイッチを頬張りながら大通りを歩いた。
きらめく日差しは優しく、長閑な雰囲気を醸し出している。
グランダルシは天気のいい日ばかりだし、気温も寒くもなく暑くもないと丁度いい気候だ。
そんなだから外を散歩するには本当にもってこいなのよね。
目的の場所はヒストリア方面の出入口近くの街の外。
せっかくだからこんな日はゆっくりランチでも、と思わなくもないのだけれど。あいにく私たちにはそんなに時間が無い。
実は美奈としては先ほど習得した魔法をいち早く実戦でも使えるように、試し打ちがしたいのだ。
魔法が使えるといっても効果や威力、消耗がどのくらいか、などは実際に使ってみないと分からない。
最悪結果的に実戦で全く使い物にならない可能性だってある。
新しい魔法を覚えた、と言ってもまだまだそれを精査する必要があるのだ。
美奈もそれは解っているようで、その表情はまだまだ固い。
何ならより緊張してさっきよりも不安そうな表情かもしれない。
そんな彼女の緊張をほぐしてあげるのも、私の役目だと思ってついてきたのだ。
私は彼女の不安を紛らわすようにサンドイッチをぱくぱくと胃の中へと放り込み、美奈の手を取り腕を組んだ。

「めぐみちゃん?」

「デートッ」

小首を傾げる美奈に、にこやかにそう答えると、彼女もにこりと微笑んでくれた。
私はそこから二人、腕を組んだまま鼻唄混じりに街中を並んで歩いたのだ。

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大きな門をくぐり街の外へ出ると、目の前には広大な平原が広がっていた。
何だか小鳥のさえずりとかも耳に届いてきて、本当に長閑な雰囲気が漂っている。
あと少ししたらここを進んでヒストリアに向かい、魔族との激戦を繰り広げる、なんてまるで思えなくなってくる。
かなり遠くの方に山々が連なっているのが陽炎のように見える。
かなりスケールの大きい山脈だ。
私が住んでいたところはどちらかというと海が近かったので、こういう山々を見るのは久しぶり。
こんな景色は遠足だったか何だかの朧気な記憶の中にうっすらと残っている程度。

「ほわあ~……」

だからかな。こんな広大なスケールの景色を見せられて胸が一杯になって、変な声が漏れでた。
不覚にも何だか涙が出そうになって。慌てて首を振る。
いかんいかん。今は感傷に浸っている場合じゃないのだ。
ほんとこればっかりは。ともすると歯止めが利かなくなりそうだから、私は頭を空っぽにしてぐっと歯を食いしばる。

「じゃあっ、やる?」

「うんっ」

横に並ぶ美奈に、にこやかに笑顔を向ける。
ちょっと大げさすぎたかもと思わなくもないけれど、美奈も同じように弾んだ声を上げた。
私たちは、更にそこから移動して、街の入り口から少しだけ離れた平原で魔法の発動を試すことにした。
この辺はほんと見通しがいいので安心だ。
魔物がいてもすぐに気づく。どのみち風の感知もあるから大丈夫なんだけど、私は目の前への感知は目視すればいいからと緩めることにした。

「それじゃあ、私はそこで見てるわね」

ちょうどすぐ側に腰かけられそうな岩があったので、余分に買ったサンドイッチでも食べようかと歩いていって腰を下ろそうとしたところ。

「――あの……、めぐみちゃんっ!」

「ん?」

不意に美奈に呼び止められる。
さっきからずっとそうだけれどちょっと緊張の面持ちの美奈。
新しい魔法の試運転にやっぱり不安なのだろうか。

「どした?」

私が微笑み訊ねると、美奈はしばらく逡巡するように視線を泳がせた後、やがて意を決したように私を見てなんとこんなことを提案してきたのだ。

「私の魔法、めぐみちゃんに向けて試してもいいかな!?」