「買えたの?」
私がそう訊ねると、美奈は頬を薄赤く紅潮させて笑顔を私に向けた。
「うん! 一つは今も使えるライトニングスピアだったから、新しく2冊」
「そっかそっか」
ライトニングスピアは光魔法の最も初歩的なものだ。
ネストの村にその魔法書があり、既に習得済みというわけなのだ。
「美奈。じゃあさっそくここで読んでみたら?」
「あ――うん」
私がそう告げると、彼女は途端に緊張した面持ちになった。
まあ無理もない。
本を買ったものの、開いてみるまでは習得可能かどうか分からないからだ。
魔法の習得方法。
それは簡単だ。
単純に本を開いてみればいい。
魔法書には何か特別な魔力が込められているのか、その魔法の適性がある人には基本何が書いてあるか分かるらしい。
それは読むとかそういう事ではなくて、本を開いた瞬間にその情報が頭の中に流れてくる感じらしい。
これは美奈や村の人から聞いた話でしかないけれど。
というのも、残念ながら私は魔法を習得する才能がない。
ネストの村にあったどの魔法書を開いても、その感覚を味わえなかったのだ。
『あ、シーナ。そのことなんだけど、君は今ボクと正式に契約を結んだことによって、風魔法も使えるようになっているはずだよ?』
「え!? マジ!?」
さらりと爆弾を投げ込んでくるシルフ。
というかそんな事まで可能になっているとはいざ知らず。私は急に得した気分になった。
「え――じゃあ私も魔法書買おっかな」
『あー、でもここに置いてある風魔法は一つしかないね。それにその魔法なら別に買わなくったってもう使えるよ?』
「えっ、そうなの!? てか風魔法は一つって。……まあ、いいけどさ」
確認しなくてもそんな事まで分かってしまうシルフはさすがだ。
しかしちょっぴり納得がいかない。
光魔法が三つも置いてあるのに対し、風魔法は一つしか無いなんて。
風魔法の方が汎用性が高いような気がしたから、もっとたくさんあると思っていただけに拍子抜けのぬか喜びだ。
ていうか思ったより風魔法ってレア? そしたら私ってスゴくない!?
『別に四大属性っていうくらいだから特別でもなんでもないと思うよ? たまたまじゃないかな』
「……ちっ」
シルフの言葉を舌打ちでスルーし、改めて美奈を見つめる。
彼女はいよいよ一冊の魔法書を手に取り、固く閉じられた魔法書をおばあさんに貰った鍵で開こうというところだった。
魔法書にはそれぞれ勝手に中を見られないよう予め鍵が掛けられている。
魔法を買うとそれぞれの本を開くための鍵を渡してもらうという仕組みだ。
解錠して中を見たらまた本棚に戻す。一回見たら魔法書はその人にとって不要のものとなるので何度もリサイクルできるのだ。
魔法書自体かなり高価なものみたいで、たくさんは世の中に出回っていないから、そういう風に利用しているらしい。
盗まれたりしないのかとも思うけれど、そういったことを考えてしまうのは野暮なのだろうか。
美奈は慎重に錠前に鍵を差し込み、丁寧に本に手を掛けた。
カチャリと小気味いい音を立てて、本を止めている金具が外れる。
美奈の頬は相変わらずさっきから紅潮している。
見ているとまるで宝物でも手に入れた子供みたいで、すっごく微笑ましくなって、胸がきゅんきゅんした。
本はパラパラと捲れ、彼女が目を通した瞬間眩い光を放った。程なくしてその光は美奈の体へと吸い込まれるように移っていく。
ネストの村でライトニングスピアを覚えた時と同じ感じだった。
光が収まると、美奈は一度ゆっくりと目を閉じた。
「……どうなの?」
しばらくして美奈はゆっくりと目を開き微笑んだ。
「うん。何とかなりそうだよ」
「お、そっか! じゃあもう一冊も覚えちゃいなさい」
「うん」
もう一冊の本も開く。
けれど今度はちょっと先ほどとは違う反応で。
同じように光は現れた。
けれどその光は中々美奈には移って行かず、やがて光を弱め、その弱々しくなった光の粒子が美奈の中に入っていったのみだったのだ。
「――ほう……」
後ろでお婆さんが感嘆の声を漏らした。
「どうしたんですか?」
私はがおばあさんに訊ねると、おばあさんはまたにっこりと笑った。
「今の魔法は現代魔法とは少し違うようでね。おそらく使える者がいないんだよ。少なくともあたしゃその魔法を使える人を見たことが無いね。だから全ての人に光の発動すら起こらない。初めてなんだよ。その魔法書を読んで光が発動した人は」
「え、そうなんですか!? ねえ美奈、どうなの?」
そんな話を聞くと流石にテンションが上がる。
だって美奈が特別だと言われているみたいで。自然と嬉しくて笑顔が溢れてしまう。
けれど当の美奈は虚空を見つめながら小首を傾げている。
いまいち得心がいかないような顔をしていた。
「……うん。多分ダメだと思う。この魔法は今のところ使えそうにないよ」
「……そうなんだ」
そう呟く美奈は、自分の手を見つめながら何か考え事をしているみたいだった。
ちょっぴり残念だけれど、落ち込むのはまだ早い。
だって光が出現したのは確かなんだもの。
可能性はきっと0ではないってことなんだよねって思うから。
私がそう訊ねると、美奈は頬を薄赤く紅潮させて笑顔を私に向けた。
「うん! 一つは今も使えるライトニングスピアだったから、新しく2冊」
「そっかそっか」
ライトニングスピアは光魔法の最も初歩的なものだ。
ネストの村にその魔法書があり、既に習得済みというわけなのだ。
「美奈。じゃあさっそくここで読んでみたら?」
「あ――うん」
私がそう告げると、彼女は途端に緊張した面持ちになった。
まあ無理もない。
本を買ったものの、開いてみるまでは習得可能かどうか分からないからだ。
魔法の習得方法。
それは簡単だ。
単純に本を開いてみればいい。
魔法書には何か特別な魔力が込められているのか、その魔法の適性がある人には基本何が書いてあるか分かるらしい。
それは読むとかそういう事ではなくて、本を開いた瞬間にその情報が頭の中に流れてくる感じらしい。
これは美奈や村の人から聞いた話でしかないけれど。
というのも、残念ながら私は魔法を習得する才能がない。
ネストの村にあったどの魔法書を開いても、その感覚を味わえなかったのだ。
『あ、シーナ。そのことなんだけど、君は今ボクと正式に契約を結んだことによって、風魔法も使えるようになっているはずだよ?』
「え!? マジ!?」
さらりと爆弾を投げ込んでくるシルフ。
というかそんな事まで可能になっているとはいざ知らず。私は急に得した気分になった。
「え――じゃあ私も魔法書買おっかな」
『あー、でもここに置いてある風魔法は一つしかないね。それにその魔法なら別に買わなくったってもう使えるよ?』
「えっ、そうなの!? てか風魔法は一つって。……まあ、いいけどさ」
確認しなくてもそんな事まで分かってしまうシルフはさすがだ。
しかしちょっぴり納得がいかない。
光魔法が三つも置いてあるのに対し、風魔法は一つしか無いなんて。
風魔法の方が汎用性が高いような気がしたから、もっとたくさんあると思っていただけに拍子抜けのぬか喜びだ。
ていうか思ったより風魔法ってレア? そしたら私ってスゴくない!?
『別に四大属性っていうくらいだから特別でもなんでもないと思うよ? たまたまじゃないかな』
「……ちっ」
シルフの言葉を舌打ちでスルーし、改めて美奈を見つめる。
彼女はいよいよ一冊の魔法書を手に取り、固く閉じられた魔法書をおばあさんに貰った鍵で開こうというところだった。
魔法書にはそれぞれ勝手に中を見られないよう予め鍵が掛けられている。
魔法を買うとそれぞれの本を開くための鍵を渡してもらうという仕組みだ。
解錠して中を見たらまた本棚に戻す。一回見たら魔法書はその人にとって不要のものとなるので何度もリサイクルできるのだ。
魔法書自体かなり高価なものみたいで、たくさんは世の中に出回っていないから、そういう風に利用しているらしい。
盗まれたりしないのかとも思うけれど、そういったことを考えてしまうのは野暮なのだろうか。
美奈は慎重に錠前に鍵を差し込み、丁寧に本に手を掛けた。
カチャリと小気味いい音を立てて、本を止めている金具が外れる。
美奈の頬は相変わらずさっきから紅潮している。
見ているとまるで宝物でも手に入れた子供みたいで、すっごく微笑ましくなって、胸がきゅんきゅんした。
本はパラパラと捲れ、彼女が目を通した瞬間眩い光を放った。程なくしてその光は美奈の体へと吸い込まれるように移っていく。
ネストの村でライトニングスピアを覚えた時と同じ感じだった。
光が収まると、美奈は一度ゆっくりと目を閉じた。
「……どうなの?」
しばらくして美奈はゆっくりと目を開き微笑んだ。
「うん。何とかなりそうだよ」
「お、そっか! じゃあもう一冊も覚えちゃいなさい」
「うん」
もう一冊の本も開く。
けれど今度はちょっと先ほどとは違う反応で。
同じように光は現れた。
けれどその光は中々美奈には移って行かず、やがて光を弱め、その弱々しくなった光の粒子が美奈の中に入っていったのみだったのだ。
「――ほう……」
後ろでお婆さんが感嘆の声を漏らした。
「どうしたんですか?」
私はがおばあさんに訊ねると、おばあさんはまたにっこりと笑った。
「今の魔法は現代魔法とは少し違うようでね。おそらく使える者がいないんだよ。少なくともあたしゃその魔法を使える人を見たことが無いね。だから全ての人に光の発動すら起こらない。初めてなんだよ。その魔法書を読んで光が発動した人は」
「え、そうなんですか!? ねえ美奈、どうなの?」
そんな話を聞くと流石にテンションが上がる。
だって美奈が特別だと言われているみたいで。自然と嬉しくて笑顔が溢れてしまう。
けれど当の美奈は虚空を見つめながら小首を傾げている。
いまいち得心がいかないような顔をしていた。
「……うん。多分ダメだと思う。この魔法は今のところ使えそうにないよ」
「……そうなんだ」
そう呟く美奈は、自分の手を見つめながら何か考え事をしているみたいだった。
ちょっぴり残念だけれど、落ち込むのはまだ早い。
だって光が出現したのは確かなんだもの。
可能性はきっと0ではないってことなんだよねって思うから。