鎖帷子を中に着込み、ツーハンデッドソードを腰に提げ、マントを羽織るとかなり冒険者という気分になった。
特にマントというのは男の憧れ。まるでヒーローにでもなったかのようだ。

「どうした、ニヤついて。そんなにこの買い物が嬉しかったのか?」

アリーシャにしては珍しく、少し悪戯っぽい笑みで横に並んだかと思うと私の顔を下から覗き込んだ。
さらりと揺れる前髪からは女性特有の甘い匂いが漂ってきて、ドキリとしてしまう。
こうして見ると改めてアリーシャという女性は魅力的だ。
彫像のように白く美しい容姿には、未だ子供らしいあどけなさも残っていて、16歳という大人と子供の狭間の年相応な部分を感じさせられて、普段大人っぽいアリーシャだがホッとする反面なんだかいつもよりドキドキしてまう。
それに今は二人きり。
改めて横に並んで歩くとまるでこれは……。

「そ……そんなにニヤついてはいないと思うのだが」

私は極力平静を装い返答した。
今の私の心の内を知られては正直かなり恥ずかしい。

「ふっ、分かるぞハヤト。私も新しい装備を手に入れた時は嬉しくてニヤついてしまったものだ。眠る前も暫くそれを眺めたりしてな……」

そんな私の胸の内を知らず。アリーシャは右手の拳をぎゅっと胸の前で握りしめ、うんうんと納得したように頷いている。
私はアリーシャでもそんな事があるのかと妙に感心してしまう。
そこで私も一旦羞恥の気持ちを忘れ、店を出た時の気持ちが再び湧き起こってきて気持ちが盛り上がる。

「そっ、そうだろう! アリーシャもそんな立派な剣や鎧を持っているのだ。最初は嬉しかっただろう!?」

一度テンションが上がってしまうともう駄目だ。
自分でも柄にも無くニヤついてしまっているのが分かった。
かと言って最早走り出してしまったものはそう簡単には止められそうも無い。
私は調子に乗ってマントをバサッと翻す。その音がまた私の冒険心を擽るのだ。

「ああそうだな。……私もこの剣を貰った時は嬉しかったものだ」

――えええ~……。
そんな私を一瞥しつつ、そう言うアリーシャの態度は急変してしまう。
どういうわけか、いつに無く寂しそうなのだ。
何か余計な事を言ってしまったのだろうか。
流石に地雷を踏んだとあってはテンションが上がっている所ではない。
私は急速に冷えた頭と共に今度は激しい羞恥の念に駆られる。
顔は熱を帯びて赤くなっているのが分かった。
アリーシャが俯き加減な事が今は却って有り難かったりする。
とにかくここはお互いのためにも一度話題を変えてしまおうと思った。

「アリーシャ、次は道具屋だな。色々旅や戦闘に使えそうな物があれば是非購入したいのだ」

「ん? ――ああ、そうだな」

彼女の先程の寂しそうな表情は一瞬で雲隠れしてしまった。
気を使ってくれたのか、それともそこまでの事では無かったのか。
とにかくすぐにいつものアリーシャに戻ってくれて私は安堵する。
少し気に懸かる部分はあるが、暗い表情の姫様というのは流石に男としてキツいものがある。
しかも今は二人きりなのだ。
色々聞くにはいい機会かもしれないが、気の利いた台詞の一つも言えない私には少々荷が重い。
それに今くらいは楽しい気持ちで買い物したいというのもある。
とにかく先々大変なのは目に見えている。のんびりとした時間を過ごしたいものだ。
私は改めてそんなことを思いつつ道具屋を目指した。