「――それで? ハヤトは何を探してるんだ?」

隣で防具を眺めているアリーシャが訊ねてきた。
思ったよりもアリーシャの距離が近く、花のようないい香りがした。
騎士とはいえお姫様なのだ。
こういった女性らしさはしっかりと持ち合わせているのだと改めて思う。
そんな事を考えていると、これはまるでデートのようだなとふと思ってしまった事は言わないでおく。

「ああ――。何か魔法やブレスを防げるような物はないかと思ってな」

「ふむ……ヒートブレスか?」

「そうだな。それだけでなく色々万能な方が有り難いのだが」

レッサーデーモン。
魔族の中では最も数が多い種類みたいなのだが、それが使うヒートブレスはかなりの熱量を放出する。
それを受けても無効とまではいかなくとも半減させられるような防具があれば、これからの戦いがかなり楽になるはずだと昨日の戦いで思い知ったのだ。

「なるほどな。あんちゃんはガタイがいいとはいえねえからな。そんならマントなんかどうだ?」

私達の話を離れた所から聞いていたようだ。
店主がそう薦めてくれた。
マント――なるほどと思う。
確かに鎧は重く、慣れないうちは動き辛そうだ。
アリーシャの物は見た目より相当軽いみたいだが、それは騎士用の高価なものだからだ。
本来の鎧はそれなりの重さがある。
重量で直ぐにバテてしまいかねない。
ただでさえツーハンデッドソードが重いのだ。身に付ける物は身軽な方がいいだろう。

「店主。お薦めはあるだろうか」

「――あれなんかどうだ?」

そうアリーシャが訊ねると、店主は店内の壁に掛けてある数枚のマントのうちの一つを指差した。

「あの赤地のものか? ――ふむ」

アリーシャが納得したように頷いた。

「アリーシャ、どういうことだ?」

アリーシャの思考が読めず、説明を求める。
彼女は気がついたように顔を上げ、にっこりと微笑んだ。

「ああ、すまない。あのマントは耐熱性の魔力が込められている。ヒートブレスなんかもある程度防げるはずだ。もちろん火にも強い。火の初級魔法位なら相殺してくれるだろう」

「ほう」

思わず感嘆の声が漏れる。
中々に便利な品物があるものだ。
他にも青や緑、黄色といった様々なカラーバリエーションがある。
察するに、それぞれ何らかの属性の耐性が付与されているのだろう。

「火だけではなく、色々な属性が防げるとかいう万能な物はないのか?」

確かにヒートブレスを防ぐならそれで事足りるが、戦う相手がレッサーデーモンだけとは限らないのだ。
あらゆる敵に有効となるに越した事は無い。

「あんちゃん、そんな物があったらもはや国宝級の防具だぜ。そもそも水と火だけでも同時に付与なんて不可能だよ。あるのはせいぜい魔法耐性のマントぐらいか。でもそれだと大した効果は期待できねえぜ。そうなるとやっぱり鎧が一番いい」

「ハヤト、私の意見を言っても構わないだろうか?」

「ああ。頼む」

「鎧だと防御力は上がるし、物によっては動きやすい物もあるが、如何せんお金がかかる。手持ちだと完全に予算オーバーだ。なので、鎖帷子はどうかと思うのだが。あれなら動きやすいし丈夫で物理攻撃を緩和してくれる。そして魔法防御に関してだが、やはり熱の耐性の付与されたマントにしてはどうだろうか。地水火風の四属性のうち、やはり火の攻撃をしてくる敵が多いのは事実。更に他の属性に対しても全く効果が無いというわけでもない。金銭面でもそれだと二つ合わせて金貨二枚程度で足りる筈だ」

アリーシャはすらすらと自身の意見を述べる。
やはり騎士と言うだけあって武具の知識には長けているようだ。

「嬢ちゃん中々詳しいじゃねえか! 流石王国騎士団様だぜ!」

「いや……からかわないでくれ」

店主に褒められて少し照れている様子。
そんな彼女は可憐なお姫様、と言ってもいいような気がしてしまう。
とにかく店主も絶賛してくれているのだ。ここは素直にアリーシャに従おう。

「うむ、分かったのだ。アリーシャが言うならそうしよう。」

「ああ、是非そうしてくれ」

そう言うとアリーシャは目の覚めるような美しい笑顔を見せた。
その艶やかさに思わず見惚れてしまう程だ。
暫し彼女を見つめてしまった私は首を振り不思議そうにしているアリーシャを横目に件の防具を購入。
店主は結局私達の会話を聞いていたものだからすぐに二つを用意してくれた。
私はその辺の知識に関しては全くの素人であったから、やはりアリーシャがいてくれて良かったと思う。
店主は最初言った通り、少し金額をおまけしてくれた。
アリーシャの話では金貨二枚という事だったが、結局金貨一枚と銀貨50枚で売ってくれたのだ。
更に見映えも考えて使い古しではあったが革製の胸当てまで付けてくれた。
昨日の礼とはいえかなり気前が良すぎるような気がするが、店主は破顔して街の英雄だからなと讃えてくれた。

「じゃあなっ! あんちゃんと騎士さん!」

出ていく私達をにこやかな笑顔で、手を振り見送ってくれる。
少し誇らしい気持ちが胸を占めていた。

「良かったな、ハヤト」

それを見透かすようなアリーシャの言葉に、微笑みに、私はなんだか恥ずかしいような、照れくさいような。

「ん、ああ……」

結局俯き曖昧な返事だけを返すことで精一杯だったのだ。