食堂はまだ朝食時という事もあり、それなりの賑わいを見せていた。
私達が中に入っていくと、一斉に周りからの注目を浴びた。
それからざわざわと皆何やらチラチラとこちらを見ながら話している。
その理由はすぐに分かった。

「昨日は助かったぜ!」

そのうちの一人がそんな言葉を浴びせてきたのだ。
それを皮切りに何人もの人々に声を掛けられた。
どうやら昨日の一件で私達は謀らずも一躍街の有名人となっていたようだ。
まああれだけ派手に戦えばそうなのかもしれないと思う。

「あ、ありがとうございます」

「礼を言うのはこっちだよっ!」

掛けられた声に応えながらむず痒い気持ちを味わっていた。
ネムル村の時もそうであったが、とにかく人に感謝されるという事には慣れていないのだ。
私はぺこりぺこりとこちらを見ている何人かの人にもお辞儀をし、ようやく席についた。
美奈も昨日のうちに経験済みだったようだが、回りの人達に、「皆目を覚ましてよかったな! 嬢ちゃん!」 などと言われ、席についてからも照れたように笑顔を浮かべていた。
その表情はすごく嬉しそうで、彼女のそんな笑顔を見られて一先ず良かったと思う。
昨日はかなり苦労したが、こうして周りの人達に感謝されると悪い気持ちにはならないものだ。
自分達の頑張りが報われていないなどということは無いのだと改めて思うことができた。

「隼人くんっ! とにかく注文しちゃいましょうっ」

「うむ」

椎名は待ちきれないようで、私を急かしてくる。
手早く料理の注文を済ませると、すぐに朝食のサラダとパン、スープが運ばれてきた。

「あ~……いい匂い……死にそう……」

そんな呟きを漏らしつつ椎名がそれらを口へと運んでいく。
私もまずパンにかじりつく。そこで胃が、悲鳴を上げた。

「~~~っ!!!」

あまりの美味さに胃がよじれるかと思った。
質素な朝食ではあったが、久しぶりにまともな食事。
その一口一口が、胃の中に染み渡っていくのだ。

「ヤバいヤバいっ!! おいしすぎるっ!!」

「フフ……大げさだな、椎名」

彼女の反応を見て微笑みを浮かべるアリーシャだったが、正直今は椎名に同感だった。
本当に、どんな魔法よりも身体が回復するような気がしたのだ。

「む……むぐうっ!!」

私と椎名は、しばらく無心で朝食を食べ続けた。

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――――結局普段の三倍程食べてしまった。
流石に食べ過ぎだろうと思いそこで止めた。
正直まだ行けた。それだけ消耗が激しかったのだろう。
だが椎名はというと、私と違い歯止めを掛けなかった。

「食べれる時に食べる! それが椎名家家訓よっ!」

都合のいいことを宣いつつ、うまいうまいとがつがつと豪快に食べ物を口へと放り込んでいく。
私の更に倍程食べているのを目の当たりにした時は目が点になったものだ。

「――むう……育ち盛りなのよ、えっち」

椎名がそんな私の視線を受けて最後、意味不明にそんな事を言った。
いや、えっちって言葉なんかえっちだから多様しないでね椎名さん。
そんな他愛もないことを思いつつ、椅子の背もたれにふうと体を預けながら皆の顔を仰ぎ見た。
美奈が穏やかに微笑んでいる。
アリーシャも呆れたように私達を見つめている。
――確かにそこにはいるべき人が居合わせてはいない。
そんな現実はあったが、今は皆、意図的に考えないようにしている雰囲気があった。
今はそれでいいと思う。それがいいのだと思う。
何にせよ、久しぶりの和やかな時間であったのだ。