「――とくん! 隼人くん!」

「――む……むう……」

身体を揺すられる感覚に脳が覚醒を告げる。やけに頭が重い。
未成年なので経験した事も無いし、もちろん飲酒もしていないが、二日酔いとはこういう感じなのだろうか。
窓の外に目を向ければ、柔らかな光が射し込み朝が訪れていた。
美奈が心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
時間を見ると八の時を少し過ぎた頃。
やはり相当疲弊していたのか。思ったよりも寝坊してしまってようだ。
周りに目を向ければ、椎名は昨日ボロボロだった衣服を着替え、宿屋の借り物なのかポンチョのようなだぼだぼな衣服に着替えていた。
アリーシャもいつもの鎧に身を包み、凛とした表情で出発を待ち構えている。

「うなされてたみたいだけど、大丈夫?」

美奈が私の前髪をかき分けながら目を見つめてくる。
どうやらかなり心配を掛けてしまったようだ。

「かなり疲れていたからな。少し寝過ぎてしまったようだ。だがもう大丈夫。問題はない」

「悪い夢でも見てたの?」

心配そうに私の顔を覗き込む美奈。ぺたぺたと頬やおでこを触られる。
悪い気はしないが、少し恥ずかしい。
というか椎名の視線が痛い。

「――ああ。見ていたかもしれないが……、よく覚えていないのだ」

夢というものは醒めれば殆どの事を忘れてしまうものだ。
今回の事も例外ではなかった。夢の中で誰かに会ったような気はするのだが――。

「……そっか……」

「美奈ってば心配しすぎっ! 朝から見せつけてくれちゃってっ。隼人くん、早く支度してよね」

椎名にそう言われてしまい、私は少しの気まずさを胸の内に押し込めつつソファから起き上がった。
いざ起き上がってみると、一晩寝ただけあり体の方はすっかり元気を取り戻していた。
目を覚ました瞬間は重かった頭も次第にすっきりし、支度を済ませる頃には本調子と言って差し障り無い程の状態となった。

「出発する前に少し街で買い出しをしようと思うのだが、構わないか?」

出発を急ぎたいのは山々であったが、馬車に蓄えていた水や食糧は殆ど無くなってしまっていた。
何よりこちらの世界に来て初めて訪れた街だ。
少し見回ってみたい気持ちもあった。
勿論観光とかそんな浮わついた気持ちではなく、これからの戦いに備えて装備を新調しておきたいという考えでだ。
アリーシャの話では、武器屋や防具屋といった類いの店もあるようなのだ。
武器はいいとしても、防具はしっかりとしたものを選んでおきたい。
先の戦いでも装備がもう少ししっかりしていれば、幾分ましだったのではないかと思うのだ。

「それ賛成! 私も服ボロボロになっちゃったし。こんなんじゃ戦いになったらまたすぐ服破けちゃうもの」

椎名は二つ返事で賛成してくれた。
確かに椎名はちゃんと服着ろよ。と思わなくもなかったが、ここは一旦黙っておく。

「うむ、私も賛成だ。君達の装備、武器はともかく防具は心許ないからな」

アリーシャも私と同意見だったようだ。
アリーシャの鎧は騎士の装い。
身を守るという点で私達の中では特別しっかりしている。
そんな彼女から見たら私達の格好は戦いとは程遠いものなのかもしれない。

「私も構わないよ? それに、私もちょっと、行ってみたいところ、あったんだ」

美奈もすんなりと同意してくれた。
どうやら結局皆、それぞれ行きたい場所があったようだ。ならば話は早い。

「よし、ではまずは――」

さてこれから皆で街へと繰り出そうという時、私のお腹がぐうう、と凄い音を立てて鳴った。

「くくく……」

椎名が笑う。
と同時に今度は彼女のお腹がきゅるきゅるとすごい音を立てて鳴り響いたのだ。
皆が一斉に椎名の方を見た。
私のものよりも数段上のお腹の鳴りに、完全に室内の主役は椎名になったのだ。

「ふ……ふんっ! 隼人くんのえっちっ」

「なぜそうなる!?」

気まずそうに顔を赤らめ椎名がそっぽを向く。
これはこれでまあ、可愛くはある。

「とにかくまずは腹ごしらえからだな」

「昨日は皆全然食べれてなかったもんね。下に食堂があるよ」

美奈が微笑みながらそう教えてくれた。

「おっけっ!! 私もう、お腹ぺっこぺこ!」

椎名は開き直ったように目を輝かせながら再びお腹をきゅるりと鳴らしたのだ。