「でもね、ハヤトが精神世界に行く方法は全くないわけじゃないよ? 少なくとも2つはある」

「二つ?」

二つもあることに驚きつつ、同時に以外にそんなものなのかとも思う。
シルフはぱたぱたと二度ほど背中の羽をはためかせた。

「うん。1つはボクの時のようにあっちにいる精霊が、繋がりの力でハヤトを精神世界へ連れ込む。これが1番有力だね。そしてあともう1つは3級以上の魔族に連れて行ってもらう」

「――あ、ああ……そういう事か」

二つもあるのかと一瞬期待したが、二つ目の方はおまけのような非現実的な方法であると思う。
まあ魔族に強制的に連れて行かせられてしまう。ということならばあり得なくはないのかもしれないが。

「あ、でも魔族って私達が強くなることを望んでたりするから案外頼めばやってくれるかもよ?」

椎名がまた能天気な事を言う。
いや、まああながち間違ってもいないのだろうか。
要するに、うまく奴らの特性を利用できればいいだけの話なのだから。

「――まあ今は一旦魔族の線は措いておこう。考えるべきは精霊とのやり取りだ。シルフ。では改めて問う。精霊に精神世界に連れ込んでもらうために私が出来る事はあるのか?」

可能ならまだ見ぬ私との繋がりを持つ精霊に直接意志疎通をしていきたい。
繋がりが絶たれてしまったのなら仕方ないが、結局今も尚精霊の存在は感じているのだ。
私の胸の内に何か言い様のない温かな力があるのだと、そんな感覚が確かにあった。

「うーん……。正直その精霊次第だからね。心の中で必死にお願いしてみるとか? 繋がりは絶たれていないはずだから、お願いしますぅ~。精霊さまぁ~、って呼び掛ければもしかしたら気が変わって応えてくれるかもしれないね」

「……ふむ」

いかにも単純なことだが、シルフの言っていることは満更でもないとは思う。
たぶんだが、今の私のこの思考すらも、精霊にはきちんと伝わっているのではないだろうか。

「そうか。まあ出来る限りの事はやってみようではないか。シルフ、教えてくれて礼を言うのだ」

「うん、どういたしまして」

シルフは素直にこくりと頷き笑みを作った。
その頭には美奈の小ぢんまりとした手が乗っかっている。
今までずっと後ろでシルフを撫でていたのだ。
ふと彼女に目を向ければかなりご満悦な様子。
私としてはこれが今日一番の動揺ポイントかもしれない。

「ところで美奈」

「え!? な、な、何かな!?」

急に話を振られて明らかに動揺する美奈。
シルフを夢中て愛でていたのが恥ずかしくなったのだろう。
そんなところも可愛い。
ただ……いや。それはまあいい。
別にシルフが羨ましいとか全く以て思ってはいないし。
本当にこれっぽっちもだ。

「美奈の精霊についてなのだが……」

「あっ!? あーっ! そ、そうだよね! うん! 私の精霊!」

なんでそんな焦ってるんですか美奈さん?
別に嫉妬とかないですよ?
だが一つ、美奈がシルフを愛でることで良かった点もある。
彼女がこうして元気を取り戻した事だ。
シルフのお陰で先程の落ち込んだ気持ちが吹き飛んだように見える。
そこはシルフに感謝だ。
いや、本当にほんの少しですけどね?
でもあんまりシルフを可愛がりすぎるのはやめてね?
流石に少し、ほんの少しばかり胸がもやもやするのでね?

「美奈の場合、マインドの枯渇を試すのは危険だと思うのだ。正直それはやめておいた方がいいのではないかと思うのだ」

「え――あ……そっか」

私の言葉に美奈は意外そうな顔をしながらも、それでも納得したようであった。

「え!? でもさ、精霊の力を失うわけじゃないんだし、私は試した方がいいと思うんだけど?」

「あ、めぐみちゃん。私も出来る事なら試したいんだけど……、私の魔法は人の生命力を操る魔法だから、人の生命力を活性化させなきゃいけないよね? ……それでマインドを枯渇させるところまでってなると、相当の人数を集める必要があると思う……だから……」

申し訳なさそうに言葉を紡ぐ美奈。
そこで椎名もようやく得心がいったようにハッとした表情を作った。

「げ――そっか。美奈の場合は攻撃魔法じゃないからな~。でもそれじゃあ結局私だけじゃん。せっかくみんなパワーアップできると思ったんだけどなあ……」

流石の椎名も意気消沈といった風だ。
この先私も美奈も、これ以上の戦力にならない事を確認し合っただけの時間だったのだ。その反応も最もかもしれない。
だがこのまま何も改善策が無ければ、私達はこの先椎名とアリーシャ頼みでヒストリアでの戦いに挑まなければならなくなる。
正直いって最悪だ。
ついさっきアリーシャを置いていくとか言っていたが、そんな事は最早ただの自殺行為である。
更に困ったことには、我々の精神面も芳しくないことが明らかであることだ。
美奈もそこまで暗くは見せてはいないが、明らかに自身の力の無さを気にしているのが見てとれる。
逆に私が戦力ダウンした事が良かったのではないかと思える程に。
椎名ももちろん元気に見せてはいるが工藤が気がかりで胸に不安が渦巻いているのは明らか。
アリーシャもフィリアがいないことや、師匠が魔族であるという事実は少なからず精神に影響を与えているのだ。
そこでふと思う。
私のこの精神を読む力。これは全く依然として失われてはいないのだ。
この辺りの身に起きている事象の理由が、いまいち分からないのだ。
何にせよ、先行きは不安な要素しかない。
こんなことでこの先の私達に振りかかるであろう火の粉を払いきることなど可能なのだろうか。
せめて私と美奈も共にパワーアップ出来ていればこれからの戦いに大いに役立ったであろうに。
私はぐるぐると頭の中でそんな思考を巡らせていたのだ。