「え? ちょっと待ってよ。隼人くんまさか能力を失くしちゃったの?」

椎名の焦ったような問い掛けに、だが私はそれには首を振った。

「正確には、一部の能力が使えなくなってしまったということだな」

「ん~?? 何か解りづらいんだけど」

椎名を含め、皆得心がいっていないというような表情だ。
私はベッドに座り直しふうと短くため息を吐いた。

「失ったと言っても力を感じていないわけではない。力は感じるが、その力をうまく引き出せなくなってしまったようなのだ。エルメキアソードなどの形成は恐らく今不可能だ」

「――何それ? 何でよ」

椎名が腕を組みつつ小首を傾げる。
流石の彼女も今一その理由には思考が行き着かないらしい。
それよりも組まれた腕で形を変えた胸の方が目の毒だ。

「それが解れば世話はない。恐らく私自身もマインドの枯渇には陥った。だが結果的にこのような事態となってしまった」

「え!? それってめちゃヤバじゃんっ! 死活問題じゃないっ! てか隼人くん何でそんなに落ち着いてるワケ!? 魔族に対抗しうる手段をなくしたのにっ」

「いや、焦っていないわけではない。ただ焦ったところでどうにもならないと分かるから、最善の行動を取っているにすぎないのだ」

椎名はそう言うが、私としても心中穏やかではないのだ。

「は~……あっそう……」

椎名は何故か不服そうではあったが、私の言う事が理解できたからか、窓の外へと視線を逸らし、ベッドにすとんと座り込んだ。

「――あー。シルフ、と言ったか」

「ん? そうだよ。」

シルフは私に名前を呼ばれると羽を二度三度とパタパタはためかせながらこちらを興味深そうに眺めていた。

「何か意見を聞かせてほしい」

「あ、そうよシルフ! 知ってることがあるなら白状なさい!」

何故椎名がそんな剣幕になるのかはよく分からなかったが、とにかく私達はシルフの方を一斉に注目し、彼の返答を待った。
彼は椎名のテンションとは真逆で、落ち着き払ってうむと顎に手を置き考え込んだ。

「――うん、そうだね。実はボクも今回人と契約を交わしたのは初めてたったんだよ。だからその辺のことは正直あまり詳しくはないんだ。ボクに色々教えてくれたおばちゃんがいてね。どうやって人と契約を交わすかどうか彼女に聞いたんだよね」

「おばちゃん……?」

シルフの口からそんな単語が出てくるとは思いもよらず、私は気づけば聞き返してしまっていた。
それを見てシルフは小首を傾げた。

「あっ、もちろん相手は精霊だよ? ボクがおばちゃんて呼んでるだけで……ってそんなことはどうでもいいんだよっ」

「要するにシルフにもよく分かんないってことなの?」

椎名の突っ込みにシルフの動きが止まる。
図星か。

「う~ん、そんな事もないんだけど、正直確証は持てないね」

「そうなのか? 予想でも構わない。シルフの意見を聞かせてくれ」

「うん。ハヤトの話から予想するに、その精霊はハヤトに力を貸すことを拒絶してるんじゃないかなってこと」

「拒絶――だと?」

私の呟きにシルフは満足そうに頷いて、大きなきらきらした瞳で見つめてくる。
こんな小さな人の言葉を解する生き物と話すのは、改めて不思議な感覚であった。

「うん、そうだと思う。力を失ったというより、感じるっていうのはそういうことじゃないかな」

「ふむ……だがなぜ拒絶される? 私は何かその精霊に対して怒らせるような事でもしたというのか?」

「そんなのボクに分かるわけないだろう? 君の精霊に直接聞いてみなよ」

「――話せるのか?」

「ん~……。今のままじゃ無理だね」

「――? はあ……」

シルフの物言いだけを聞いているとまるで謎掛けでもされているようで、変なため息ともつかぬ声が漏れ出た。
現状は把握できてもそれに対する打開策が今一つ見えてこない。
結局私はどうすればいいのだ

「……えーと、ボクの例で説明するよ」

そう言いながら、シルフは今度は美奈の方へパタパタと飛んでいった。
そのまま彼女の膝の上にちょこんと座る。
美奈はというと、その一連の動作に明らかに興奮して頬を蒸気させている。いつになく瞳がキラキラ輝いていたのだ。
いや、べ、別にいいんですけどねっ。