魔力の光のような微かな光量を滲ませてそこに立つ生き物。
それは一言で形容するなら、おとぎ話に出てくる妖精である。

「もうシルフっ! 勝手に出てこないでよ! 説明してないのに!」

「だって、中々紹介してくれないからさ。待ちくたびれちゃって」

そのシルフと呼ばれた精霊は若干むくれっ面をしつつ、手を後ろに組んで椎名に抗議の声を上げた。

「――これが……精霊」

「うん。ボクが風の精霊シルフだよ。今は椎名に力を貸してあげているんだ」

「ちょっと。何よ、その言い方。恩着せがましいわね」

「だって、このおねーちゃんが使役してるとか言うからさ。あくまで共存しているだけなのに」

そう言いつつちらとアリーシャの方を見ると、アリーシャは顔面蒼白になりながら姿勢を正し土下座した。
何とも素早い動きだ。

「も、申し訳ありませんシルフ様! 私も精霊に関しては無知なもので、言葉が過ぎました!」

アリーシャは未知の存在を目の当たりにして、相当面食らっているようだった。
精霊に対してこの反応。
この世界で精霊とはそれ程凄い存在なのだろうか。
扱いがまるで神様に対するそれのようだ。

「うむ――分かればよろしい」

「こら、シルフ。すぐ調子に乗るんだから! しょうもないこと気にしないのっ!」

椎名はそんな二人のやり取りを見て、シルフにでこぴんならぬ顔ぴんを食らわせた。
彼女は精霊の扱いがかなり雑だった。
そんな椎名にアリーシャは目を見開き、完全にドン引きしているようだが。

「いっ……痛いよっ! 何するのさシーナ! 君はもっと精霊を敬うべきだよ! 誰のお陰で生き残れたと思ってるのさ!」

シルフは涙目になりながら顔を抑え抗議の声を上げる。
だが当の椎名はそんな事全く意に介していないようだ。

「それはお互い様でしょ? それに私があなたに対してどう思ってるかなんて、言わなくてもわかるでしょうに」

「だから敬いが足りないの! ボクの凄さは嫌というほど分かったでしょ!?」

「自分凄いみたいな力をひけらかすのは良くないと思うの」

「ぐ……。君と言い合いをするのは分が悪いから大人しく引き下がるとするよ」

「ん。よろしい」

一頻り言い合っているのを回りで見ていて、早くも椎名>シルフの図式が完成してしまっているのが見て取れた。
椎名に口で勝とうなどとは無謀にも程がある。
シルフよ、御愁傷様なのだ。
そんな事を心の中で思いつつ、アリーシャをちらと見やると、彼女は困惑の表情を浮かべっぱなしだった。

「かわいい……」

そんな折、横から呟きが聞こえ声の方を見る。
美奈だ。
彼女はここまで全く言葉を発していなかったが、シルフを見て目をキラキラと輝かせているではないか。
頬が赤く蒸気し、手を胸の前で合わせて愛おしいものでも見るような熱い視線を向けている。

「――っ」

私はそんな美奈の姿を見て若干の嫉妬を覚えなくもない。

「さ、じゃあ説明に戻るわね」

一人だけいつも通りな椎名。
なんなのだ、この状況は……。
俯き加減になってしまったシルフ。それをキラキラと見つめる美奈。顔面蒼白なアリーシャ。
三者三様な有り様をガン無視して、椎名はマイペースに話を再開しだす。
――まあ……いいか。
私はそんなカオスな状況ではあるが、別に何とかするほどでもないかと半ば諦めにも似た気持ちを抱えつつ、彼女の話に再び耳を傾けるのであった。