――沙綾ちゃんが目を覚まして一週間が経つ。
 未だ入院中の彼女のお見舞いに行くと、颯希さんと音無くんがそろっていた。
「お兄ちゃん、もう大丈夫だって」
「一か月以上寝たきりだったんだから、もっと甘えていてろって」
「だったらもう喧嘩しないでよね」
 あの後、颯希さんは音無くんと和解したらしい。その証拠に、今日の音無くんの服装はスタイリッシュな恰好ながらも、黒の長い髪を一つにまとめ、大きなイヤリングをしている。可愛らしい中にかっこよさが光るスタイリングだ。もちろんメイクも欠かせない。
 沙綾ちゃんにお見舞いのお菓子を渡すと、にっこりと微笑んで言う。
「つかささんがいなかったら、私はあのまま歩道橋の上で彷徨っていただけでした。ありがとうございます」
「い、いえ! そんな……」
「そういえば髪、切ったんですね」
 そう。私は肩まで伸ばした髪をつい最近、首筋が出るくらいバッサリ切ったのだ。髪型一つ変わるだけで、生まれ変わった気がしたのは、私が単純だからだろうか。
「沙綾ちゃんのおかげだよ」
「私……なにかしましたっけ?」
 あれ?
 不思議そうに首を傾げる彼女に、私はふと違和感を覚える。
 確かに沙綾ちゃん自身には幽体離脱した時の記憶がはっきり残っていたが、ところどころ抜けている記憶がある。それだけじゃない。きりっとした口調ではなく、今は柔らかくのんびりした口調で、心なしか雰囲気も違う気がした。
 ……まさか?
「私が沙綾ちゃんと思って話してた相手は、音無くんだったんじゃ……?」
 病室の端で眺めている音無くんに問う。すると緩んだ口元を手で隠して私を見ながら言う。
「どうかな。 私は私(・・・)、だよ」

【 欠けた僕らの結果論 完 】