発した言葉は同時だった。綺麗に揃った音が互いを笑わせた。


「あれ、なんてタイトルの本なんだろうね。最後の方、ページが丸々破れ抜けていて結末が読めなかったから電書で買い直したいのに、タイトルが分からないんじゃ調べられないよ」


 奥付と中扉、どちらも失われるなんて不運な本。読み手が不運というべきか。


「ねえ、叶羽が最後に作った物語のタイトル、何だと思う?」

「詩月」

「どうして?」


 迷いなく答えられるのは理由があるからだ。私には見当もつかなかった。ミステリー小説のようにヒントが作中に張り巡らされていたのだろうか。彼はそこから推理した……なんてものを期待した。


「俺の名前だから」

「そんな偶然あるわけないじゃん。知らないってわけね」


 損傷の激しい同じ本を読んでいたのだから当然だ。

 タイトルを知りたくて、登場人物の名前や文章の一部をネット検索したけれど駄目だった。買うことが出来ない以上、結末は読めない。残念だけど諦めるしかない。

 小さくため息がこぼれ落ちた。出会えて良かったと思うのと同じくらい、出会わなければ良かったとも思う。電子書籍で出会えていれば、心から喜ぶことが出来ただろう。そのような心情を知らない彼は、本棚から一冊の本を取り出した。


「これとかも面白いよ」


 背幅は五センチか六センチ程度。あの本と同じくらい分厚いハードカバーを手渡される。こちらは綺麗なもので、外側のカバーは図書室の本として取り去られてはいるけれど、きちんとタイトルも書かれている。


「どうかな?」


 手にのしかかる重量はあの本以上に感じた。普段なら手に取らない紙の本。ただ勧められただけならば、断っていたと思う。


「読んだら感想を聞かせてよ」

 心からその本が好きだと語る、好きなものを知って欲しいと訴えるその目が、読んでみたいという気にさせた。


「うん!」