視界に映ったのは椅子から落ちてうずくまり、小さく震えている詩月の姿。それが正常な状態でないことは医学の知識を持たない子供が見ても明らかだ。
「どうしたの!? 苦しいの!?」
何かを訴えようとしている口の動きは音になっていなかった。肩を上下に動かした苦しげな呼吸だけが聞こえてくる。
「早く保健室行こう! 立てる!?」
「……大丈夫」
「でも!」
詩月が出せる精一杯だろう力強い力で肩を掴まれた。重心がそこに集中していることが伝わってくる。
「未羽に覚えていてほしいんだ。この学校から図書室がなくなって、本が一冊残らずなくなってしまっても、どこか別の場所では大切にされ続けている」
「詩月?」
「紙の本はなくならない。必ずどこかに俺の場所があるから、だから……」
詩月の口元が小さく弧を描いた。どこか諦めたようなその笑みが、遠いどこかへ行ってしまう、別れのようで。
「きっとまた、どこかで会える」
聞きたくなかった。
「詩月!」
力を失った詩月の身体が全て私に預けられた。意識を失った重みは生命力が感じられず、恐怖が込み上がる。
狼狽えていたって、そこでジッとしていたって、詩月の助けにはならない。
「すみません! そこで生徒が!」
詩月を静かに床へ横たわらせた後、私は司書の人に助けを求めた。
図書室では静かにしなくてはならない。誰かに言われたわけでもない、自分の中で当たり前と化しているルールを破り、司書の人達も迅速かつ慌ただしげに対応してくれた。
けれど、そんな努力も意味を成さない。
戻ってきたとき、そこに詩月の姿はなかった。