何も変わらない日々。

 あの時間に私が聞いたこと、詩月が告げた図書室登校のこと、全て詩月の中で消し去られたみたいだ。

 何もなかったかのように私を出迎え、それまでと同じ、変わらずに接してくれる。関係を壊したくないから、私も掘り返さない。


「榎本! ちょっとこい!」


 放課後。掃除が終わって少し重たい足取りで図書室に向かっていると、またしても担任に呼び止められた。

 友達からの遊びの誘いなら気分は多少晴れただろうに、曇るどころか最悪な気分になる。

 それもそう。ようやく目の前から消えてくれたと思った白い紙切れを再び突き出されたのだから。


「大学進学じゃなく、どこの大学にするか親御さんと相談して候補を決めてきなさい」


 受け取ろうと前に出す手がいやに重かった。ゆっくりとした動作はこちらの心情を相手に悟らせる。


「何も決定じゃないんだ。あくまで今、自分がどこの学校に行きたいか。学力に合わせたところを考えるのはまだ先でもいいから、自分が就きたいと思う仕事を考えて目指せるところを調べてこい。難しく考える必要はない」

「はい」

「来週までに提出するように」


 失礼しましたと言って廊下に出るや否や、重苦しいため息を職員室の前で響かせた。

 夢を見てそれを目指せる学校に行ったとして、結局はこの時代、望んだ職には就けない。

 就かない、というのが正しいのかもしれない。選べるような時代ではないから。夢でも何でもない仕事を就職先として選んで、片っ端から受けて、いくつも落ちて、受かった中から選ぶ。

 強いて言うならブラック企業でない職場に勤めるのが夢だろう。 

 つまらない。