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「先輩のために買ったものなんだけど、一回も着れなくて。でも、洗ったら着れるかなって」
「機会がなかったけどその人専用だったんだねぇ。洗ったら真っさらになって確かに着られるかもねぇ」
 
 笑顔でうんうん、と頷きながら私の言葉に相槌を挟む。自分と話してるみたいで心地よくて、つい口から言葉がどんどんと出て行く。

「でも、一回家で洗ってもダメだったの。手放せないし、着れないし」
「なんで?」
「え?」
「なんで手放せないの、着れないの? もう別れたんでしょ」

 別れたんでしょ、という言葉が胸に真実を突きつけて、心臓がどくんっと一際大きく鳴った。わかっていても、私は未練がましくあの人の残り香を探してしまっている。別れてもいない。ましてや付き合ってすら居なかったのに。

 まだ、私は別れられてないんだ。あの時の気持ちと。