家族ともクラスメイトとも、うまく話せない私は、そこ以外に居場所が無かった。

「はい! 爽亮先輩」
「朝夏は、はい! ばっかりだな」

 そう言って歯を見せて笑った爽亮の顔に、私は恋に落ちた。簡単に恋に落ちた私は、ますます「はい!」と爽亮先輩に頷くことが増えていった。

「付き合おう」

 二人きりの部室の中で、そう告げられた時、舞い上がってこのまま死ねればいいと思った。家に帰っても、誰とも会話もない。

 唯一、私を見てくれたおばあちゃんはもう居ない。

 だから、幸せのまま、爽亮先輩の横で死にたいと願ってる。

 一生一緒にいれたらいい。私の居場所は爽亮先輩の横だけだから。そう思っていた私に衝撃を与えたのは、夏休み間近の爽亮先輩の一言だった。

「彼女が出来ました!」

 部員たちがヒューヒューと冷やかして、爽亮先輩が今までに見たことのない顔で笑う。あれは、そうか、エチュードの内の出来事だったのか。

 間に受けて、爽亮先輩の恋人になれたと舞い上がっていたのは私がバカだった。