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 爽亮先輩は、名前の通り爽やかな香りのする先輩だった。家に帰りたくなくて入った演劇部はゆるいもので、幽霊部員もたくさん居る。

 演劇部とは、名ばかりで。ちゃんと部活動に来ている部員たちも、本を読んだり、漫画を読んだりとインプットと称した活動しかしていなかった。

 そんな中に、爽亮先輩が居た。

「朝夏、夏の朝。良い名前だな、爽やかだ」

 初めて私の名前をちゃんと呼んでくれた人だった。おばあちゃんが、キラキラと光る朝日を見て付けてくれた私の名前を。

 爽亮先輩は、私にない全てを持っている人だった。物怖じしない態度も、決めたことを譲らない姿勢も、人に対する優しさも。
 
「朝夏、今日はエチュードやるぞ」

 真面目に活動してるのは爽亮先輩だけの、演劇部で私は爽亮先輩の練習に付き合っていた。爽亮先輩はどう思っていたのか分からないけど、私の居場所を作ってくれたのは爽亮先輩だったと思う。