「ただいま」
ガラスポットに顔を近づけて金魚を観察する。お腹が飛び出しいるという感じでもない。スマホの写真と見比べても変化はないみたいだ。
「絶食だけでいいかな?」
念のために水温計をポットの内側に付けてみた。水温は十八度だ。いくらなんでも寒いだろう。ヒーターも入れなくちゃと思ったけど、ヒーターは大きすぎた。縦長のポットの底に横置きにすることは出来ない。
仕方ない。お風呂に入れよう。
お風呂場から洗面器を取って来て、水温計で計って二十八度のお湯を張る。その中にガラスポットを浸けてみた。五分ほどして水温を計ると、レモン水は二十度になっていた。、快適になったのかどうかわからないけど金魚は上へ下へと活発に動くようになった。やっぱり、寒すぎたのか。
お湯はすぐ冷める。どうしようかと考えて、ポットにタオルを巻いてカイロを取り付けてみた。また五分ほど待って水温を計ると、二十三度。適温には少し足りないが、煮え立つよりはマシだろう。今日のところは、これで良しとしておこう。
明日は土曜日、お休みだ。午前中に小さなヒーターを買いに行こう。
「……おはようございます」
ペットショップはもう開店していた。緊張して、やっと出た小さな声で声をかけた。店の中を覗いてみたけど、やっぱり店内に人がいるかどうか、ちょっと見ただけではわからない。水槽の壁の陰を少しずつ少しずつ奥へ移動して、どの列にもお客さんがいないことを確認してみた。大丈夫。私だけだ。
安心してレジに行くと、店長さんまでいなかった。どうしよう、ここで待ってていいかな。でももし、お客さんが来ちゃったらどうしよう。
迷ったけど、やっぱり外で待つことにした。なんとなく、魚を飼う趣味がある人は男性の方が多いような気がしたから。でもこんなところでボーっとしてたら不審者みたいかな。水槽を眺めているフリをしていたら怪しまれないかな。また、迷う。私は自分じゃ、なにも決められない。
そうだ、もう一度、本を探そう。
本屋に向けて歩いていると、重そうな台車に色々な大きさの段ボールをのせて運んでくる、エプロン姿の女性とすれ違った。段ボールに『水槽』の文字が見えた。見ているとペットショップの前で立ち止まった。段ボール箱を抱えて、次々と店内に運んでいく。
今日は店長さんはいないのだろうか。あの女性は明らかに店員さんだ。
カバンの中をチラッと覗く。借り物のヒーターと水温計。女性に渡して、小さなヒーターを買って帰ればいい。女性で良かった、私でも話しかけられそうだ。
でもなんだか、ためらってしまった。その間に女性はどんどん段ボールを運び入れて、空になった台車をコロコロと、どこかへ運んでいった。話しかけようとした勇気は、もう蒸発したみたいに消えてしまった。
また、別の日にしよう。ヒーターを借りた経緯を説明するのも難しいし。店長さんがいるときに返そう。
そう決めて、本屋にも寄らずに逃げるようにスーパーを出た。
ガラスポットに顔を近づけて金魚を観察する。お腹が飛び出しいるという感じでもない。スマホの写真と見比べても変化はないみたいだ。
「絶食だけでいいかな?」
念のために水温計をポットの内側に付けてみた。水温は十八度だ。いくらなんでも寒いだろう。ヒーターも入れなくちゃと思ったけど、ヒーターは大きすぎた。縦長のポットの底に横置きにすることは出来ない。
仕方ない。お風呂に入れよう。
お風呂場から洗面器を取って来て、水温計で計って二十八度のお湯を張る。その中にガラスポットを浸けてみた。五分ほどして水温を計ると、レモン水は二十度になっていた。、快適になったのかどうかわからないけど金魚は上へ下へと活発に動くようになった。やっぱり、寒すぎたのか。
お湯はすぐ冷める。どうしようかと考えて、ポットにタオルを巻いてカイロを取り付けてみた。また五分ほど待って水温を計ると、二十三度。適温には少し足りないが、煮え立つよりはマシだろう。今日のところは、これで良しとしておこう。
明日は土曜日、お休みだ。午前中に小さなヒーターを買いに行こう。
「……おはようございます」
ペットショップはもう開店していた。緊張して、やっと出た小さな声で声をかけた。店の中を覗いてみたけど、やっぱり店内に人がいるかどうか、ちょっと見ただけではわからない。水槽の壁の陰を少しずつ少しずつ奥へ移動して、どの列にもお客さんがいないことを確認してみた。大丈夫。私だけだ。
安心してレジに行くと、店長さんまでいなかった。どうしよう、ここで待ってていいかな。でももし、お客さんが来ちゃったらどうしよう。
迷ったけど、やっぱり外で待つことにした。なんとなく、魚を飼う趣味がある人は男性の方が多いような気がしたから。でもこんなところでボーっとしてたら不審者みたいかな。水槽を眺めているフリをしていたら怪しまれないかな。また、迷う。私は自分じゃ、なにも決められない。
そうだ、もう一度、本を探そう。
本屋に向けて歩いていると、重そうな台車に色々な大きさの段ボールをのせて運んでくる、エプロン姿の女性とすれ違った。段ボールに『水槽』の文字が見えた。見ているとペットショップの前で立ち止まった。段ボール箱を抱えて、次々と店内に運んでいく。
今日は店長さんはいないのだろうか。あの女性は明らかに店員さんだ。
カバンの中をチラッと覗く。借り物のヒーターと水温計。女性に渡して、小さなヒーターを買って帰ればいい。女性で良かった、私でも話しかけられそうだ。
でもなんだか、ためらってしまった。その間に女性はどんどん段ボールを運び入れて、空になった台車をコロコロと、どこかへ運んでいった。話しかけようとした勇気は、もう蒸発したみたいに消えてしまった。
また、別の日にしよう。ヒーターを借りた経緯を説明するのも難しいし。店長さんがいるときに返そう。
そう決めて、本屋にも寄らずに逃げるようにスーパーを出た。