昼休み、ランチに行く椎葉さんに声をかけようと立ち上がった。だけど、椎葉さんは同期の四人と一緒だ。私が椎葉さんに呼びかけたら、あとの四人も振り返るだろう。五人の視線を浴びて話が出来る気がしない。
去っていく後ろ姿を見送って、イスに座り込んだ。エサの容器を入れたカバンを覗き込む。魚粉をさらに生臭くしたようなにおいがカバンの中に充満している。
私の勇気のなさが発する、腐っていく魂のにおいだ。人とまともに会話も出来ない私が周囲に振りまく脅えそのものだ。
考え続けたら、どこまでも気分が落ち込んでいく。社食でそばでも啜ろう。のろのろと立ち上がってエサの容器が入ったままのカバンを抱えて業務フロアを出た。
今日もまた散々な仕事を終えて社屋を出る。
自分の仕事の出来なさには、何か月たっても慣れることがない。喉の奥に真っ黒な煙が詰まったようで息苦しい。その嫌な気持ちは身に沁みついて、もうどうやっても晴れないように思う。それでも、生きていくために仕事を辞めるわけにはいかない。世の中は生きているだけでお金がかかるのだ。
「お酒、買いに行こう」
溜め息をついて、帰り道にあるコンビニに入る。お酒の棚にしか用はないのに、ぐるりと店内を一周する。雑誌の棚に並んでいるファッション誌、バイク専門誌、青年マンガ誌、どれにも興味はない。雑誌以外にも、薄くて小さめの本もある。占いと自己啓発本と『感じの良い人がしているたった一つのこと』というノウハウ本だ。感じの良い人がどんな人かもよくわからない。試しに手に取ってみた。
結論から言うと私の役には立たない本だった。要約すると、『自分の想いと相手の想いを汲んで、双方を褒めることが出来る人』。
どうすれば人の想いを汲むなんてことが出来るのか、肝心な方法は書かれていない。
そんなことが自然に出来るなら、こんな人生を歩んではいない。仕方ないか、こんなに薄くて安いのだから。
ふと思った。分厚くて高い本なら、方法まで載っているのではないだろうか。
本屋さんに行こう。なんだかすごくやる気が出てきた。コンビニを出て、いつもの二十四時間スーパーに向かうことにした。
去っていく後ろ姿を見送って、イスに座り込んだ。エサの容器を入れたカバンを覗き込む。魚粉をさらに生臭くしたようなにおいがカバンの中に充満している。
私の勇気のなさが発する、腐っていく魂のにおいだ。人とまともに会話も出来ない私が周囲に振りまく脅えそのものだ。
考え続けたら、どこまでも気分が落ち込んでいく。社食でそばでも啜ろう。のろのろと立ち上がってエサの容器が入ったままのカバンを抱えて業務フロアを出た。
今日もまた散々な仕事を終えて社屋を出る。
自分の仕事の出来なさには、何か月たっても慣れることがない。喉の奥に真っ黒な煙が詰まったようで息苦しい。その嫌な気持ちは身に沁みついて、もうどうやっても晴れないように思う。それでも、生きていくために仕事を辞めるわけにはいかない。世の中は生きているだけでお金がかかるのだ。
「お酒、買いに行こう」
溜め息をついて、帰り道にあるコンビニに入る。お酒の棚にしか用はないのに、ぐるりと店内を一周する。雑誌の棚に並んでいるファッション誌、バイク専門誌、青年マンガ誌、どれにも興味はない。雑誌以外にも、薄くて小さめの本もある。占いと自己啓発本と『感じの良い人がしているたった一つのこと』というノウハウ本だ。感じの良い人がどんな人かもよくわからない。試しに手に取ってみた。
結論から言うと私の役には立たない本だった。要約すると、『自分の想いと相手の想いを汲んで、双方を褒めることが出来る人』。
どうすれば人の想いを汲むなんてことが出来るのか、肝心な方法は書かれていない。
そんなことが自然に出来るなら、こんな人生を歩んではいない。仕方ないか、こんなに薄くて安いのだから。
ふと思った。分厚くて高い本なら、方法まで載っているのではないだろうか。
本屋さんに行こう。なんだかすごくやる気が出てきた。コンビニを出て、いつもの二十四時間スーパーに向かうことにした。