お腹いっぱい食べて、好きなだけ飲んで、もうなにも入らないと思ったのに、食後のカクテルは別腹で。
 こんなに楽しい食事は生まれて初めてだった。それも、知らない人と同席しているのに緊張も解けて、のびのびできた。今日は人生最高の日かもしれない。
 三人は駅に向かうというので、お店の前で解散することになった。もう二度と一緒に食事をすることはないだろう。奇跡は二度は起きないのだ。
「あ、美雪ちゃん。連絡先交換しよう」
「え?」
 ハルさんがスマホを取り出して、私のカバンを指し示す。
「ほおら、早く」
 スマホを取り出して、ハルさんにスマホの機能の使い方を教わりながら、連絡先を交換した。酔って顔を赤くしたハルさんは少し発音が怪しくなっている。これが酔った勢いというやつだろう。きっとかかってくることはないだろう。そう思っても、初めて登録先が出来たことが、ものすごく嬉しい。
 希美さんと椎葉さんの連絡先も教えてもらった。椎葉さんと目が合うと「また美味しいものを食べに行きましょうね」と言ってくれた。それは酔った勢いでも、お世辞でもないように感じる。
 私はしっかりとうなずいた。酔いとは違う熱が顔に集まっているのを感じる。気恥ずかしいような興奮しているような、心がざわついて落ち着かない。三人に手を振って家に帰るまで、それは続いた。

「ただいま」
 電気を点けて金魚の様子を見る。カイロがぬるくなっているので、タオルを外してカイロを付け替えようとして、ぎょっとした。
 金魚がフンをしている。お尻から二センチくらいのフンがピョロッとつながっている。フンが出たのは良いことだ。だが。
「これは……」
 口が開いてふさがらない。金魚のフンは虹色に輝いていた。
 光の当たり具合のせいだろうかと、こたつの周りをぐるっと回って見てみたけど、どの位置から見ても、金魚のフンは美しい虹色だ。酔っているせいだ。目の錯覚だ。そうに違いない。
 ガラスポットにタオルとカイロを取り付けて、手早く寝る準備を済ませて、電気を消した。
 金魚のフンはうっすら発光していた。