結局、彼女は何者だったのだろう。天使、妖精、小人……或いは私の心が無意識に作り出した幻だったのかも知れないし、大丈夫になるまで見守ってくれた、家族の誰かだったのかもしれない。

 疑問は尽きないけれど、あの日の出逢いが、私をここまで導いてくれた。小さな奇跡のかたまりは、確かに傍に居てくれた。
 あの愛しい時間こそが、私にとっての全てだ。

「あれ、真理亜さん、ピアス開けてたんですね。……って、片方だけ?」
「あ……はい、片方だけって、やっぱり変、ですかね?」
「いえ、うちの商品ですよね? ネックレスとお揃い、可愛いです!」
「ありがとうございます……私の大切な、宝物なんです」

 あの日泣くだけだった子供の私は、いつしか大人になっていた。
 彼女に贈ったピアスを売っていた、小さな宝石店。勤めてみて初めて、ネックレスの梱包が、最後に家族が買ってくれたものと同じことに気付いた。

 慣れない仕事に人付き合い、目まぐるしく過ぎる日々に、世界にひとりぼっちだなんて思う暇もない。

 けれど、冬の気配が訪れる度に思い出すのは、悲しみの記憶を塗り替えてくれた、小さな奇跡。

「またいつか、会えるかな……」

 クリスマスを待ちわびアドベントカレンダーを開く子供のように、いつかを願うささやかな楽しみと、毎日が過ぎることに希望を持って。

 大切な涙の形の温もりを胸に、私は今日も、冬空の下を生きていく。