「まりあ」

 不意に聞き慣れた声がして、私は何と無く眺めているだけだったスマホから顔を上げ、灰色の空を仰ぐ。

 通りで今朝から冷え込むと思った。気付けば初雪がちらついていて、鼻先に触れた冷たい粒はすぐに溶けていく。

 そして、雪に紛れて私の元へやって来た先ほどの声の主のは、手のひらサイズの小さな女の子だった。

「まりあ!」
「イヴ……! 会いたかった!」

 ポケットに入れたスマホの代わりに両手で包み込んだその小さな女の子『イヴ』は、綺麗な長い髪を揺らしながら、再会を喜び無邪気に微笑む。

 天使、小人、妖精、イマジナリーフレンド、親指姫、コロポックル、妖怪……、彼女の正体ははっきりとは分からないけれど、イヴはこうして毎年この季節になると現れる、私だけの秘密のお友達だった。


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 雪の降り始めた寒い屋外。一見独り言のようにイヴと会話する私を、行き交う人々は誰も気にすることはない。
 クリスマスに向けて賑わう商店街を抜けて、私は一人暮らしの家に帰り着いた。

「ただいま……」
「おかえり!」

 返事がないと知りながらもつい癖のように呟くと、寒いからと潜っていたコートのポケットから、イヴがひょっこりと顔を出して返事をしてくれた。
 ただいまと告げて、おかえりがある。それだけのことに、冷えきって赤くなった頬は緩む。

「……イヴも、おかえり。今年も会えて嬉しい」
「わたしも、またまりあに会えて嬉しい!」
「ふふ、じゃあ二倍嬉しいだね」
「とってもお得!」

 イヴを机の上に乗せ、私は雪の溶けた冷たいコートを脱ぐ。
 イヴはその間、久しぶりの家を懐かしむように見回して、やがて机の上から探検を始めた。

「その辺の本、適当に積んであるから気を付けてね」
「はぁい……、わあ!」
「ちょ……っ!? 大丈夫!?」
「雪崩注意報~……」
「もう、だから言ったのに……」

 一人暮らしの静けさは、彼女が居る数日間だけ、いつも賑やかだった。


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