「ど、どうかな……?」
3日後、アタシは再びオタクタワーの模型店を訪れていた。アタシの作品を持参して。
「へえ……」
店長がマジマジとそれを見つめる。その目に何故か緊張した。面接を受けてるみたいだ。
「……」
一方、ボサガノは無言のままだ。ただ組み立てただけのロボットを手にとって眺め回す。その視線は店長のよりもさらに険しい。
アタシが買った(というか買わされた)のは、ヴェリタスとは別のアニメシリーズのプラモデルだった。
これをちゃんと作れば、客として扱ってもらえる。それはつまり、ショータの誕プレを替えるかもしれないってことだ。アタシは気合を入れて作った。
……とは言え気合だけでどうにかなるものでもない。
プラモなんて作ったことがない、せいぜい弟が作ってる姿を眺めていたことがあるくらいだ。どんな道具を使うのかもわからなない。カッターナイフやらピンセットやら、うち中の使えそうな道具をかき集めて製作に取り掛かったのだ。
「……」
「あのさ……」
いつまでも無言のボサガノにアタシは思い切って声をかける。
「黙ったまんまじゃわかんないん……だけど?」
するとボサガノは、ふう……とため息を付いて、アタシのロボットを机に置いた。
「これ、アンタだけで作ったのか?」
「そうだよ。誰の手も借りてない! もちろん彼氏にも」
「ふーん」
「そりゃ、アンタみたいに色塗ったりパーツ加工したりとかしてないけどさ……」
本当は少しだけ試そうと思った。アマゾンでプラモデル用の塗料を調べたりもした。けど、種類が多すぎてどれを買えばいいのかわからず断念せざるを得なかった。
「いや、決して素組みがダメってことはないよ? 最近のキットは出来が良いから、ただ組むだけでも様になるんだ。むしろ嵯峨野くんみたいなのの方が少数派だよ」
店長がフォローしてくれる。それに対してボサガノは……。
「このアンテナ、何?」
来た……! 一番触れられてほしくない所だ。
「えっと、それは……つい……」
組み立てているときに、ロボットの頭についている角をポッキリと折ってしまった。とても細いパーツだったから力の加減がわからなくてやってしまった。
馬鹿にしてるのか! 貴様にプラモを作る四角も買う資格もない! ……そんな罵声が飛んでくるのも覚悟した。
「一度折れて……その後、補強してるな。それも樹脂で」
ボサガノは指先でなぞるようにアンテナを触る。
「ジェルネイル使ったのか、これ?」
「うっ、うん。……そう」
「接着剤じゃなくて?」
「そういう小さな部品って瞬間接着剤とかでもくっつかないかなって思って」
前にネイルパーツが割れて、接着剤を使ったことがあった。その時に、細かい部品をくっつけるのが難しいと知ったのだ。
だから今回は透明のジェルネイルで固めるようにして補強した。
「なんで、折れたままにしなかったの?」
「え? いや、だってそれはダメでしょ? その角、このロボットのチャームポイントじゃん。他の場所ならまだしも、そこだけは絶対にNGかなって」
「ふーん。チャームポイント、ね」
つぶやきながら店長は、コクコクとうなずく。
「……すまなかった」
「へ?」
突然、ボサガノが頭を下げた。予想外の行動にアタシは思わず椅子を引いて後ずさってしまう。
「な……何、突然?」
「お前を転売ヤー呼ばわりしたのを取り消す。許して欲しい」
頭を下げたまま、ボサガノはそう続けた。
「えっと、わかってくれたのは嬉しいんだけど……なんで?」
生まれて初めてのプラモデル。正直、出来がいいとは思えない。一番目立つパーツを折るという失敗もやらかした。なのに、どうしてコイツは態度を変えたの?
「ちゃんと見ればわかる。アンタがどれだけ真面目に作ったのかが。説明書をしっかり読んで、ちゃんとした手順で組んだんだろ?」
「う、うん。もちろん」
「それにパーツの切り離しも丁寧だ。ゲート跡をしっかりヤスリがけしてる」
「うそ!そんな事わかんの?」
確かにパーツを切った後に、ささくれのようなものが付いてきた。目立つところはそれをカッターで切り落としと、ネイル用のヤスリで整えた。
ネイルでこういう部分があると、爪が痛む原因になるし、何よりアタシが毎日気分よく過ごす事ができない。だから、深く考えず、それが当たり前と思ってヤスリがけをした。
「しかもかけ方も丁寧だ。やすりを往復させずに一方向にのみ、動かしてる」
それもネイルやったら時の癖が出たに過ぎない。
「何よりアンタは、アンテナをちゃんと補強した。ここが一番大事って思っているのが伝わった。誠実にキットに向き合ったんだと思う」
「そ、そう……?」
ボサガノの思わぬ反応に調子が狂う。でも、自分の頑張りを褒めてくれるのは、まんざらでもない気分だった。
「るなちゃん、だったよね。君、もしかしたらモデラーの素質あるかもね」
横から、店長がこれまた予想外のことを言いだす。
「へ? ア、アタシが?」
「これは僕の持論なんだけどね、女性、特にオシャレやメイクが得意な人って模型作りも上手いと思うんだよね」
「はぁ?」
確かにアタシ、オシャレもメイクも好きだけど……そういう趣味ってプラモデルから一番遠くない?
「俺もそれは同感です」
は、コイツまで何を言い出すのだ?
「ちょうどいいから、今俺が作ってる作品で説明する」
3日後、アタシは再びオタクタワーの模型店を訪れていた。アタシの作品を持参して。
「へえ……」
店長がマジマジとそれを見つめる。その目に何故か緊張した。面接を受けてるみたいだ。
「……」
一方、ボサガノは無言のままだ。ただ組み立てただけのロボットを手にとって眺め回す。その視線は店長のよりもさらに険しい。
アタシが買った(というか買わされた)のは、ヴェリタスとは別のアニメシリーズのプラモデルだった。
これをちゃんと作れば、客として扱ってもらえる。それはつまり、ショータの誕プレを替えるかもしれないってことだ。アタシは気合を入れて作った。
……とは言え気合だけでどうにかなるものでもない。
プラモなんて作ったことがない、せいぜい弟が作ってる姿を眺めていたことがあるくらいだ。どんな道具を使うのかもわからなない。カッターナイフやらピンセットやら、うち中の使えそうな道具をかき集めて製作に取り掛かったのだ。
「……」
「あのさ……」
いつまでも無言のボサガノにアタシは思い切って声をかける。
「黙ったまんまじゃわかんないん……だけど?」
するとボサガノは、ふう……とため息を付いて、アタシのロボットを机に置いた。
「これ、アンタだけで作ったのか?」
「そうだよ。誰の手も借りてない! もちろん彼氏にも」
「ふーん」
「そりゃ、アンタみたいに色塗ったりパーツ加工したりとかしてないけどさ……」
本当は少しだけ試そうと思った。アマゾンでプラモデル用の塗料を調べたりもした。けど、種類が多すぎてどれを買えばいいのかわからず断念せざるを得なかった。
「いや、決して素組みがダメってことはないよ? 最近のキットは出来が良いから、ただ組むだけでも様になるんだ。むしろ嵯峨野くんみたいなのの方が少数派だよ」
店長がフォローしてくれる。それに対してボサガノは……。
「このアンテナ、何?」
来た……! 一番触れられてほしくない所だ。
「えっと、それは……つい……」
組み立てているときに、ロボットの頭についている角をポッキリと折ってしまった。とても細いパーツだったから力の加減がわからなくてやってしまった。
馬鹿にしてるのか! 貴様にプラモを作る四角も買う資格もない! ……そんな罵声が飛んでくるのも覚悟した。
「一度折れて……その後、補強してるな。それも樹脂で」
ボサガノは指先でなぞるようにアンテナを触る。
「ジェルネイル使ったのか、これ?」
「うっ、うん。……そう」
「接着剤じゃなくて?」
「そういう小さな部品って瞬間接着剤とかでもくっつかないかなって思って」
前にネイルパーツが割れて、接着剤を使ったことがあった。その時に、細かい部品をくっつけるのが難しいと知ったのだ。
だから今回は透明のジェルネイルで固めるようにして補強した。
「なんで、折れたままにしなかったの?」
「え? いや、だってそれはダメでしょ? その角、このロボットのチャームポイントじゃん。他の場所ならまだしも、そこだけは絶対にNGかなって」
「ふーん。チャームポイント、ね」
つぶやきながら店長は、コクコクとうなずく。
「……すまなかった」
「へ?」
突然、ボサガノが頭を下げた。予想外の行動にアタシは思わず椅子を引いて後ずさってしまう。
「な……何、突然?」
「お前を転売ヤー呼ばわりしたのを取り消す。許して欲しい」
頭を下げたまま、ボサガノはそう続けた。
「えっと、わかってくれたのは嬉しいんだけど……なんで?」
生まれて初めてのプラモデル。正直、出来がいいとは思えない。一番目立つパーツを折るという失敗もやらかした。なのに、どうしてコイツは態度を変えたの?
「ちゃんと見ればわかる。アンタがどれだけ真面目に作ったのかが。説明書をしっかり読んで、ちゃんとした手順で組んだんだろ?」
「う、うん。もちろん」
「それにパーツの切り離しも丁寧だ。ゲート跡をしっかりヤスリがけしてる」
「うそ!そんな事わかんの?」
確かにパーツを切った後に、ささくれのようなものが付いてきた。目立つところはそれをカッターで切り落としと、ネイル用のヤスリで整えた。
ネイルでこういう部分があると、爪が痛む原因になるし、何よりアタシが毎日気分よく過ごす事ができない。だから、深く考えず、それが当たり前と思ってヤスリがけをした。
「しかもかけ方も丁寧だ。やすりを往復させずに一方向にのみ、動かしてる」
それもネイルやったら時の癖が出たに過ぎない。
「何よりアンタは、アンテナをちゃんと補強した。ここが一番大事って思っているのが伝わった。誠実にキットに向き合ったんだと思う」
「そ、そう……?」
ボサガノの思わぬ反応に調子が狂う。でも、自分の頑張りを褒めてくれるのは、まんざらでもない気分だった。
「るなちゃん、だったよね。君、もしかしたらモデラーの素質あるかもね」
横から、店長がこれまた予想外のことを言いだす。
「へ? ア、アタシが?」
「これは僕の持論なんだけどね、女性、特にオシャレやメイクが得意な人って模型作りも上手いと思うんだよね」
「はぁ?」
確かにアタシ、オシャレもメイクも好きだけど……そういう趣味ってプラモデルから一番遠くない?
「俺もそれは同感です」
は、コイツまで何を言い出すのだ?
「ちょうどいいから、今俺が作ってる作品で説明する」